「事業計画」・「経営計画」どちらを作るべき?経営者の疑問を8分で解決

    記事公開日: 2021.08.06

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    会社経営にまつわる計画として、よく取り上げられる「事業計画」と「経営計画」。

     

    しかしながら、

    「この2つは何が違うの?」

    「どちらから作り始めたほうがいいの?」

    「作るとどのような利点があるの?」

     

    など、疑問を抱いていらっしゃるところではないでしょうか?。

    結論としては、「先に経営計画を完成させ、その後に事業計画を作る」という順番で進めるのが理想的です。

     

    もちろん、現実的な観点から言えば、例えば「(銀行から事業計画の提出を迫られている等の理由で)今すぐ事業計画を作らなければならない」という事情があり、事業計画の作成を優先させるべきケースもあります。

    ただ、上記したような「事業計画を先に作らなければならない」差し迫った事情がなく、自社の今後についてじっくりと考えるゆとりがあるのであれば、まずは経営計画を練り、その後に経営計画に沿った事業計画を考える、という順番を実践してみてください。

     

    本記事では、事業計画と経営計画の違いや、それぞれを作成するメリットについて、ソフトバンクグループの事例なども交えながら詳しく解説していきます。

     

    目次

    1. 事業計画は経営計画の一部
      1. 虫の目で見る事業計画
      2. 鳥の目で見る経営計画
    2. 事業計画・経営計画を立てる5つのメリット
      1. ①新たなビジネスチャンスにつながる可能性がある
      2. ②経営目標の達成に近づく
      3. ③社員が自ら考え動き出すようになる
      4. ④効率的な経営ができる
      5. ⑤融資など外部からの協力を受けやすい
    3. 事例:ソフトバンクの経営計画・事業計画
      1. ソフトバンクの経営計画〜300年の繁栄を目指すための“群戦略”〜

      2. 群戦略を支える中核事業の事業計画〜技術・通信・ファン化〜

    4. 経営計画を作成してから事業計画に着手するのがベスト
    5. まとめ:自社のステージに合わせて計画を作成しよう

    事業計画は経営計画の一部

    似たようなものとして捉えられがちですが、事業計画は経営計画の一部として位置づけられます。

     

    事業計画・経営計画関係性

     

    それぞれの特徴は下記の通りです。

     

    事業計画・・・経営目標を達成するための数字を中心とした具体的な行動計画

    経営計画・・・事業計画を包括しつつ、経営理念や未来像も含んだより大きな意味合いの計画

     

    詳細に関しては、以下にて解説します。

    虫の目で見る事業計画

    事業計画は、経営目標を達成するための数字を中心とした具体的な行動計画です。

    5年後・10年後の企業のあるべき姿を達成するために、短期的・戦術的視点からプランを練っていきます。

     

    具体的には、資金運用計画、利益計画、商品別販売計画など、数字に基づく計画が中心です。

    これらの項目からも分かる通り、事業計画は具体的かつ詳細な行動計画を指します。

    鳥の目で見る経営計画

    経営計画は、事業計画を包括しつつ、経営理念や未来像も含んだより大きな意味合いの計画です。

    長期的、戦略的視点を持ち、企業のあるべき姿を見据えた計画といえます。

     

    経営計画には、①長期経営計画(5~10年)、②中期経営計画(3~5年)、③短期経営計画(1年)の3つの区分があります。

    その中でも経営計画といえば、中期経営計画を立てることと認識されている方が多いです。

     

    5~10年で見る長期経営計画

    長期経営計画は、経営理念やビジョン、未来像にもとづき、今後の経営方針や展開する事業分野を定めたものです。

    多くの企業では、企業の将来的な未来像やあるべき姿を明確にするだけにとどまることも少なくありません。

     

    なぜなら、外部環境の変動が激しい現代において、長期スパンでの変化や状況を予測し、行動計画にまで落とし込むことは至難の業だからです。

     

    3~5年で見る中期経営計画

    中期経営計画は、企業が中期的に目指す事業の方向性を定めたものです。

    長期経営計画で策定した内容を実現するために、数年後の売上目標や市場シェア率などの具体的な数値目標を掲げ、その目標を達成するための方針や方法、計画を定めます。

     

    大企業では「中計(ちゅうけい)」と呼ばれることが多く、策定した中期経営計画を、株主などにも公表しています。

     

    1年で見る短期経営計画

    短期経営計画は、中期経営計画に基づき、毎年立てる1年間の具体的な計画のことです。

    業務レベルにまで落とし込み、年間での販売数や売上、仕入数、経費や人件費など細かい項目まで決めていきます。

     

    1つ1つの目標が達成できているかを随時チェックし、問題があれば軌道修正を図ります。

    これらの計画をさらに半期や四半期、月次まで落とし込むこともあります。

    事業計画・経営計画を立てる5つのメリット

    実際に事業計画や経営計画を立てると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

    ここでは代表的な5つのメリットについて解説します。

    ①新たなビジネスチャンスにつながる可能性がある

    1つ目は、新たなビジネスチャンスにつながる可能性があることです。

    計画の作成に必要な市場調査を行う過程で、市場に眠るチャンスに気づくことがあります。

     

    具体的には、内部環境の分析で自社の強みと弱みを把握し、外部環境の分析で競合他社も含めた市場における自社の立ち位置を明確に認識できます。

    市場の動向を把握することで、新たなビジネスチャンスが発掘できるかもしれません。

    ②経営目標の達成に近づく

    2つ目は、経営目標の達成に近づくことです。
    計画を立てることで目標が明確になるため、その達成のために、自社リソースを適切に使えるようになります。


    逆に、計画を持たない企業は、渡航プランのない状態で航海するようなものです。

    かけている労力の割に目標には少しも近づいておらず、次第に社内にも不穏な空気が漂い始めます。

     

    明確な計画を立てることで、経営目標の実現に近づきます。

    ③社員が自ら考え動き出すようになる

    3つ目は、社員が自ら考え動き出すようになることです。

    社員としては、目標が明確になることで行動しやすくなるだけでなく、行動した結果どのような未来が待っているかをイメージできるようになるため、自主的に動き出します。

     

    組織全体に目標を周知することで、一人一人が真剣になって仕事に取り組み、結果的に生産性が向上します。

    目標を明確にするだけで社員がやる気になってくれるのであれば、経営者としては事業計画・経営計画を立てない手はありません。

     

    もちろん、頑張った結果、社員にどんな良い未来が待っているかをキチンと明記する必要はあります。

    ④効率的な経営ができる

    4つ目は、効率的な経営ができるようになることです。

    事業計画・経営計画を通して目標がハッキリしているため、何をするべきなのか、何をしてはいけないのかが明確になっているからです。

     

    計画を立てることで、プランに沿った業務遂行が可能となります。

    仮に想定外の出来事が発生しても、軌道修正を図れば問題ありません。

    ⑤融資など外部からの協力を受けやすい

    5つ目は、融資など外部からの協力を受けやすくなることです。

    事業計画・経営計画を立てることで、金融機関などの利害関係者も、その企業の未来を予測しやすく、協力しやすい体制が整います。

     

    実際、金融機関が融資を検討する際には、融資先の計画を確認します。

    そのため、そもそも計画を作成している場合としていない場合とでは雲泥の差があり、信用度も大きく変わってきます。

    例:ソフトバンクの経営計画・事業計画

    ここからは、経営計画と事業計画のそれぞれについて理解を深めるために、孫正義社長が一代で築き上げて世界的企業になったソフトバンクを事例にして見ていきましょう。

    ソフトバンクの経営計画〜300年の繁栄を目指すための“群戦略”〜

    「この会社を5年以内に100億円企業にします。そしてゆくゆくは、豆腐を一丁二丁と数えるように、売上を一丁二丁と数えられるようになる日が来るでしょう...」

     

    若き日の孫社長のエピソードとして有名な「ミカン箱スピーチ」は、孫社長が24歳の時の出来事だと言われています。

    創業後まもない時期で、まだ売上らしい売上もない時期にミカン箱の上に立って”100億””1兆”という途方もない数字を語る孫社長の姿に、当時の従業員は呆れて辞めていってしまったというエピソードはあまりにも有名です。

     

    それから25年後の2006年、“売上1兆超”の夢は実現し、その後も破竹の勢いで成長を重ねたソフトバンクは、日本の売上トップ30位に数えられる巨大企業に成長しました。

     

    現在のソフトバンクは「300年間成長し続ける企業グループ」をビジョンとして掲げています。

     

    この「300年」という数字について、ソフトバンクは「AI(人工知能)革命」を根拠としています。

    「今後の数十年において、AI革命がもたらす変化のインパクトは過去300年を超えるものになるに違いない」という予測から、「この画期的な変化の芽を見逃さず投資することで、AIを駆使する起業家と繋がる」ことにより、以後300年間の成長の礎にするという計画です。

    (300年という数字の根拠には、このAI革命以外にも諸説あります。その内の一説として、孫社長自身が尊敬する「坂本龍馬」が打倒した江戸幕府が270年存続した事から、江戸幕府の歴史を超える長期政権を創る、との意識から300年という数字が出たとも言われます)

     

    「AI革命に投資することで、ソフトバンクは“人類の進歩を支える企業”として300年後の未来までの繁栄する」

     

    そして、この壮大な経営計画を実現するために同社が必要だと考えているのが“群戦略”です。

    群戦略とは、「単一の事業だけに経営資源を集中させるのではなく、同時に数百の事業に投資し、次世代で化ける可能性のある事業を早期に囲い込むことによって、単一事業では不可能な数百年単位の成長を実現する」というものです。

    (サケの群れからヒントを得たことから“群戦略”と名付けられたという逸話があります。)

     

    この“群戦略”は、一昔前のわが国の巨大企業が好んだ「多角化戦略」と似ていますが、明確に異なるのは「ソフトバンクは投資先を100%子会社化せず、①ある程度の独立性を持たせるとともに、②いざとなれば柔軟にグループとしての関係を解消できるようにする」という点です。

    まさにサケ群れのように、「大半の個体が生き残れなくとも、一部の個体が生き残れば群れは何世代も存続できる」という、リアリズムに基づいた生存戦略と言えるでしょう。

     

    この“群戦略”を支える多数の事業の中でも中核的な3事業と、それぞれの事業計画について以下に記します。

    群戦略を支える中核事業の事業計画〜技術・通信・ファン化〜

    1.アーム事業

    ソフトバンクグループの中核事業の一つであるアーム社は、英国・ケンブリッジに本社を置いていた企業で、2016年にソフトバンクに買収される形でソフトバンクグループの一員となりました。

     

    半導体企業であるアーム社は、世界中のスマホの回路の90%以上を製造するという圧倒的なシェアを握っており、半導体分野においては「影の巨人」として知られます。

    買収以前から半導体界のプラットフォーマーとしてのポジションにあったアームの買収は、ソフトバンクの経営計画である「AI革命を主導すること」への布石であったと言えます。

     

    2022年現在、アーム事業はナスダック、あるいはロンドンでの上場を2023年までに実現することを目指し、英米の関係者と調整を進めています。

    一時は売却も検討されたアーム事業ですが、今後は「モノとインターネットがつながるIoT時代」を視野に人工知能などの分野における研究開発を進めており、「AI革命の主導権を握る」というグループ全体にとっての長期目標を実現する上で、中核的な役割を果たしていくと見られています。

     

    2.通信事業(携帯キャリア、ヤフー、LINE等)

    ソフトバンクグループは国内携帯キャリアにおいて大手3社の一角を占めるほか、グーグルに次ぐ巨大検索エンジンであるヤフー、そして新興のメッセンジャーアプリであるLINEを擁しています。

    これらの事業はただ単にグループとしての売上を生み出すだけでなく、膨大な個人情報を収集するための装置としての機能も担っていると見られています。

    (例えばヤフーがGoogleと異なり個人IDを採用しているのも、情報収集の一貫とされています)

     

    通信事業群全体の事業計画としては、5G普及推進、AIによるデータ解析結果などを利用した“自動運転社会”の実現などを掲げています。

     

    3.福岡ソフトバンクホークス

    ソフトバンクグループの一員であるホークスは、前身であった福岡ダイエーホークス時代(〜2004)、ファン層は主に福岡など九州地方であり、「ローカル球団」としての性格が強かい球団でしたが、ソフトバンクによる買収以後は福岡のみならず日本中にファンが分布する全国区の球団となりました。

    ホークス買収によるソフトバンクグループ製品のイメージ向上は九州地方にとどまらず、全国的なシェア拡大に効果があったと評価されています。

     

    IotやAIなど、一般消費者層にはなかなか理解されにくい技術を扱うソフトバンクグループにとって、全国的に人気のあるプロ野球球団を所有することはイメージ戦略の中核として重要な意味を持ちます。

     

    ホークスがリーグや日本シリーズに置いて優勝するかどうかは同社の収益を左右する要素でもあります。

    資金力を活かし、読売ジャイアンツを上回るとも言われる年棒で優秀な選手を集めるほか、球場としての売上を増やすための施策として“バーチャルPayPayドーム”をはじめとしたファンサービスの強化に取り組んでいます。

     

    以に挙げた各事業群は、一見して関連性のない事業をバラバラに行っているようにも見えますが、いずれもAI革命における主導権を握るために必要な役割(技術・通信・ファン化)をそれぞれ分担する形で果たしていることがわかります。

    まさに、「300年間成長し続ける企業グループ」という経営計画を実現するために、それぞれの事業計画が存在しているといえるでしょう。

    経営計画を作成してから事業計画に着手するのがベスト

    理想論からいけば、経営計画を作成した後に、事業計画を作成するのがベストです。

    なぜなら、事業計画はあくまでも経営計画の一部であり、本来であれば、企業のあるべき姿や未来像から見据えて、その目標を達成するために短期の行動計画(事業計画)を立てるのが望ましいからです。

     

    しかしながら、事業計画だけを作って満足している企業が多いのが現状です。

    というのも、金融機関が融資を判断する際にチェックするのは事業計画だからです。

     

    また中には、売上を上げることに精一杯で、経営計画をじっくり腰を据えて作っている暇がない場合もあります。

    もちろん、全ての企業が経営計画から事業計画を立てられるに越したことはありませんが、そこは企業のステージに合わせて、どこまでやるかを決めていく必要があります。

     

    目先の売上に困っていない企業であれば、ぜひ経営計画から作成することを検討されてみてはいかがでしょうか。

    なお、経営計画の作り方に関しては、下記の記事でも詳しく解説しています。

     

    年間支援実績500社以上の会計事務所がおすすめする中小企業向け経営計画書の作り方5ステップ

    まとめ:自社のステージに合わせて計画を作成しよう

    事業計画は経営計画の一部であり、経営計画から事業計画という順番で作成するのが理想的です。

    今回事例にあげたソフトバンクグループも、(世間的には“投資会社”と揶揄する見方もありますが)あくまでも「300年間成長し続ける企業グループを創る」という経営目標を実現するための手段として、(一見関連性の薄いようにも見える)多数の 企業に投資していることがわかります。

     

    ただし、企業の置かれたステージによっては、事業計画だけしか作っていなかったり、そもそも計画自体を作ったことがないというケースもあるかもしれません。

    いずれにしても、まずは自社がどんな状況にあるのか確認することが重要です。

     

    ぜひ、自社に計画があるのか無いのか、あればどこまで作り込んでいるかを確認してみてください。

     

    なお、事業計画の根幹ともいえる数字(利益計画)をシミュレーションできる『利益計画検討表』をご用意しましたので、有効活用していただければ幸いです。

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