経営計画を作るうえで経営者の頭を悩ませる要素の1つが、目標をどのように設定すれば良いのかが分からないという事です。多くの経営者が売上高から目標を決めようとしますが、実はこの方法には落とし穴があるのです。
そこで今回は、経営計画を作る際に設定するべき目標と、その設定方法について具体的に解説していきます。ぜひ、この記事を参考にして、自社にとって最適な目標を設定できるようになって頂ければ幸いです。
なお、経営計画書の全体像を把握されたいという方は、こちらの記事をご覧ください。
「中小企業こそ経営計画書を作るべき理由と作成から運用までの全ステップを解説」
目次
- 1.経営計画の目標を売上高から立ててはいけない理由
- 2.経営計画に役立つ目標経常利益額の4つの考え方
- 3.目標経常利益額が決まった後の経営計画作成3ステップ
- 4.目標経常利益から立てる経営計画シミュレーション
- まとめ
1.経営計画の目標を売上高から立ててはいけない理由
多くの中小企業経営者は、目標を立てる際に売上高から算出します。しかし、結論から申し上げると、売上高から目標を立てるのはおすすめできません。なぜなら、売上高をいくら上げても、利益が出なければお金は残らず、会社がいつまでたっても安定しないからです。
イメージし易くするために、具体例を用いて説明します。(なお、取り上げる企業は架空のものです)
ある年商4,000万円規模の小売業の会社が、年商5,000万円を目標として1年間営業活動を行いました。売上高の目標は達成したのですが、最終的に残った利益はなぜか前年と変わりませんでした。
原因を追跡してみると、営業マンがノルマ達成のために、勝手に値下げをして個数をさばく売り方をしていたことが判明しました。
最終的に、売上高が対前年比で1,000万円も増えているにも関わらず、経常利益額は前年と同水準に落ち着く結果となりました。
|
前年 |
今期 |
売上高 |
4,000万円 |
5,000万円:対前年比1,000万円 ↑ |
変動費 |
2,000万円 |
3,000万円 |
粗利益額 |
2,000万円(粗利益率50%) |
2,000万円(粗利益率40%) |
固定費 |
1,900万円 |
1,900万円 |
経常利益額 |
100万円 |
100万円:前年と同等 |
ただし、多くの企業は商品を仕入れてから売ることになるため、売上の回収よりも費用の支払いが先にくる「サイト負け」の状態に陥ります。つまり、売上高が大きくなればなるほど先に支払う金額も大きくなるため、会社が抱えるリスクも大きくなります。
今回の例でいけば、前年は変動費が2,000万円でしたが、今期は3,000万円の変動費がかかっています。つまり、それだけの費用が先に出ていくことになります。
最終的な利益額は同じとは言え、会社としては前年よりも資金繰りが悪くなってしまったことになります。
会社はお金が回らなくなった時に倒産します。そして、会社にお金を残すためには利益を出す必要があります。売上高から目標を立てようとすると、最終的な利益に対する意識が薄れがちになるため、あまりおすすめは出来ません。
目標にするべきは「経常利益額」
中小企業が目標を立てる際には、経常利益額から考えることをおすすめします。繰り返しになりますが、会社はお金が残らなければいつまでも経営が安定しないからです。
「経常利益は“事業存続にかかる費用”や“社員を守るのにかかる費用”を考慮した利益率」だというふうに考えると良いでしょう。
したがって、まずは目標とすべき経常利益額を算出し、その利益を稼ぐために必要な売上高を割り出すという順番が大切です。次章では、目標経常利益額の立て方について、詳しく解説していきます。
2.経営計画に役立つ目標経常利益額の4つの考え方
ここからは、経営計画を立てる際に役立つ、目標経常利益額の立て方を4つご紹介します。
目標経常利益額の4つの考え方
どの方法を選ぶかで、目標経常利益額は大きく変わります。ぜひ、自社の状況にあったやり方を選んでください。
①金融機関などへの年間返済額から割り出す
多くの中小企業は、金融機関などから借り入れをしています。その借り入れに対する年間返済額から、目標経常利益額を設定する方法です。
仮に、年間の返済額が2,000万円なのでしたら、稼がなければならない経常利益額は約4,000万円になります。なぜなら、経常利益の半分ほどは税金等の支払いに充てられるため、実際に返済に充てられるのは残りの半分になるからです。
※なお、現行の実効税率は約30%のため、実際には記載している以上のお金が残ることになります。また、今回は話を分かりやすくするため、減価償却による実質的な金銭の減少を伴わない分の金額は計算に含めておりません。
理論上は、少なくとも毎年の返済額をクリアしていかなければ借入金を完済することができないので、目標として「経常利益額≧年間返済額×2」を目指していく必要があります。
②社員1人あたり100~200万円を基準として、社員数を掛け算する
社員数に応じて目標を設定する方法もおすすめです。社員1人あたり100~200万円を目安として、在籍している社員数を掛けることで、目標経常利益額を割り出します。
コロナウイルスのような不測の事態が起きた場合も、社員にお給料を支払う余裕を作ることができます。
③(過去2~3期が黒字の場合)その間の推移から割り出す
直近の経営が黒字で推移しており、財務基盤的にも安定した状況が作れているのでしたら、今期の数字に今後の推移の予測や現時点での市場の動きを加味して目標経常利益額を算出することができます。
調子が良くて、1.2倍くらいは増加が見込めそうな状況であれば「今期の数字×1.2」。逆に状況が厳しいことを見込むのであれば、「今期の数字×0.9」のように状況に応じて設定します。
④(過去2~3期が赤字の場合)累積赤字を埋める額とする
過去2~3期が赤字で推移している場合は、まずは累積赤字をきちんと埋めていくだけの利益を出すことを目標値にすることが大切です。
多くの中小企業が目指すべきは年間返済額から算出した経常利益
ご紹介した4つの目標設定方法のうち、多くの中小企業におすすめなのが「年間返済額」から算出する方法です。なぜなら、ほとんどの中小企業は借入をしており、企業の財務体質を良くしていく事を考慮すれば、返済額から目標を設定するのが理想だからです。
しかし、この方法での目標経常利益額は高くなる傾向があり、中小企業においては現実的な目標としては厳しい場合がほとんどです。そこで、年間の借入返済額を賄える利益を上げられるように、中長期的な視点で目標を設定するのが現実的です。
また、今回ご紹介した「目標経常利益額の4つの考え方」について、この4つの考え方を目安にして目標設定することは非常に大切なのですが、あくまでも「頑張れば手の届く範囲の目標にすることが大切」だということを頭に入れておいてください。
というのも、上の4つの考え方は「理論」としては正しいのですが、正しい理論に基づいて設定された目標数値だからといって、現状の数値をはるかに上回る目標を設定されると、ほとんどの社員は頑張る気になるどころか、具体的に何をすればいいのか分からなくなって、かえって気力を失くしてしまいます。
(例えば、今期の経常利益額が100万円の企業の企業で「来期の経常利益額は5000万円にするぞ!」と社員に伝えたとしたら、どのような結果になるか、想像できるのではないでしょうか...?)
したがって、上の4つの考え方をベースにしながらも、最終的には「頑張って手の届く目標にすることが大切」であること、そして「高すぎず低すぎずで設定するのが経営者の腕の見せ所」であるという意識を持つことも大切です。
3.目標経常利益額が決まった後の経営計画作成3ステップ
目標経常利益額が決まったら、下記の3ステップに沿って、売上目標まで落とし込みます。
STEP.1 固定費を計画する
はじめは固定費の計画立てを行います。固定費が計画より多くなると全体の数字が大きく崩れてしまうので、あらかじめ少し多めに設定しておくことがポイントです。具体的には、以下の4項目について見直しを行います。
①人件費
給与、賞与、退職金、福利厚生費など、従業員の雇用に関わる費用全てを盛り込んだ経費を計上します。
②未来費用
教育研修費、広告宣伝費、研究開発費、コンサルタント顧問料といった、未来に向けて投資するお金です。将来的に自社に利益をもたらす必要経費として、あえて「未来費用」という科目を作って、明確に区別します。
③一般経費
会議費、旅費交通費、賃貸料、賃借料、賃借料、交際費、事務消耗品費、通信費、水道光熱費、雑費など通常の経営活動をしていく中で必要な経費です。
④減価償却費
固定資産、建物、設備、設備装置などは、時間の経過や使用頻度により価値が減少するので、耐久年数によって費用化していきます。厳密には、減価償却費自体は金銭の支出はありませんが、資金計画に連動させる意味で独立して表示をすることがポイントになります。
STEP.2 必要粗利益額の計算
目標経常利益額+固定費で算出できます。
STEP.3 目標売上高の計算
必要粗利益額を粗利益率で割り返すことで、目標売上高を算出できます。正確に算出するためには、自社の事業構造を把握しておくことが欠かせません。
なお、自社の事業構造を把握する方法も含め、経営計画作成の全体像が気になる方は、下記の記事をご覧ください。
年間支援実績500社以上の会計事務所がおすすめする中小企業向け経営計画書の作り方5ステップ
4.目標経常利益から立てる経営計画シミュレーション
最後に、目標経常利益から売上高までをどのように立てるのか、簡単な事例を使って説明します。今回は、借入金残高が3億5,000万円あり、返済期間が7年、年間の固定費は3億円かかる企業を取り上げます。
まず、借入返済額に関しては毎年5,000万円になります。(借入金残高:3億5,000万円/返済期間:7年)5,000万円を返済に充てるためには、税金の支払い等々(役員報酬や配当金等も含め)を考慮すると、約1億円の経常利益額が必要となります。
目標経常利益額を1億円とすると、1億円(経常利益額)+3億円(固定費)=4億円(粗利益)となり、4億円の粗利益額が必要になります。
目標売上高を算出するには、粗利益額を粗利益率(ここでは60%とします)で割り返せばいいので、4億円(粗利益)÷ 60%(粗利益率)≒ 6億6,666万円(目標売上高)と算出できます。
つまり、この会社の目標売上高は約6億6,700万円となります。
まとめ
今回は、経営計画を作成する際の目標の立て方について解説をしてきました。
繰り返しになりますが、はじめに決めるべきは、目標経常利益額です。
「経営とは逆算なり」
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