近年、キャッシュフローを重要視し、経営に役立てている企業が増えています。
しかし、
「キャッシュフローの重要性がわからない」
「キャッシュフロー計算書の読み方が知りたい」
というように、キャッシュフローについてよく知らないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、キャッシュフローの意味や重要性、作り方、読み方まで、全体的に解説します。ぜひ最後まで読んで、経営に役立てていただければ幸いです。
キャッシュフローとは
いかに優れた計画を策定し売上を順調に伸ばすことができても、お金の流れを把握していなければ資金繰りに行き詰まり経営危機におちいる可能性があります。
コロナ禍による取引先の倒産、技術の急速な進歩、市場環境の変化、不透明な国際社会など、資金力が乏しい中小企業を取り巻く環境は厳しいものがあります。そんな厳しい状況の中、会社を潰さないようにするためには、キャッシュフロー、すなわちお金の流れを理解することが不可欠です。
キャッシュフロー = お金の流れ
キャッシュフローとは、「お金(現金)の流れ」のことです。会社に流入する現金(キャッシュイン)と流出する現金(キャッシュアウト)が分かれば、手元にいくら現金が残っているかを把握できます。
4つのキャッシュフロー
キャッシュフローは、会社の活動の内容によって「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」「フリーキャッシュフロー」の4つに分類されます。
① 営業活動によるキャッシュフロー
会社の事業によって生じたお金の流れを表したものを「営業活動によるキャッシュフロー」といいます。
売上による収入、原材料費・給与・宣伝広告費などの支払いの他に、後述する投資活動や財務活動に含まれないものが分類されます。
② 投資活動によるキャッシュフロー
会社の将来のために必要な投資や資産運用によって生じたお金の流れを表したものを「投資活動によるキャッシュフロー」といいます。
直接事業に影響がある機械設備、建物、工場などの購入・売却が中心ですが、有価証券などの購入や売却もこのキャッシュフローに分類されます。
③ 財務活動によるキャッシュフロー
外部からの資金調達などによって生じたお金の流れを表したものを「財務活動によるキャッシュフロー」といいます。
新規借入れ、借入金の返済、社債の発行・償還、株式の発行、配当金の支払いなどの他に、本業以外で儲けたお金も財務活動に分類されます。
④ フリーキャッシュフロー
会社が本業で稼いだお金の中で自由に使えるものを「フリーキャッシュフロー」といい、次の計算式で求めることができます。
フリーキャッシュフロー =「営業活動によるキャッシュフロー」+「投資活動によるキャッシュフロー」 |
会社を経営するには常に一定の資金が必要となるため、フリーキャッシュフローが多いほど経営状態は安定しているといえます。
キャッシュフローを把握した方が良い理由
貸借対照表や損益計算書からは読み取れない「キャッシュフロー」をなぜ把握しなければならないのでしょうか。その主な理由として、次の2点があげられます。
① 利益とお金の流れは違うから
企業間取引の場合には、売上が発生しても一定期間が経過した後に代金が支払われることは珍しくありません。この場合「売上」と「入金」の間にタイムラグが生じるため、売上が順調に伸び利益が増加しているように見えても、実際には手元にお金がないという事態が生じる可能性があります。
② 黒字でもお金が無くなれば倒産するから
キャッシュフローが悪化すると、損益計算書の上では利益が出ていても手元の資金が不足し借入金の返済や取引先への支払いができず、最悪の場合倒産(いわゆる「黒字倒産」)する可能性も考えられます。
キャッシュフローを常に把握していれば、事前に資金ショートなどの予測が立てられるため、借入や資金調達などの対策を講じて最悪の事態を回避できます。
キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書とは、「営業活動」「投資活動」「財務活動」という3つの企業活動によるキャッシュイン、キャッシュアウトと現金の残高を表したものです。
また、証券取引法におけるディスクロージャー制度(企業内容等開示制度)の対象となる上場企業などは、キャッシュフロー計算書の作成が義務付けられています。
キャッシュフロー計算書は財務三表の1つ
会社の1年間の財務状況や経営成績をまとめた書類は「決算書」と呼ばれていますが、金融商品取引法上「財務諸表」といいます。その中でも特に重要な3つが、財務三表と呼ばれる「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」です。
キャッシュフロー計算書は、提出が義務付けられている上場企業だけでなく、中小企業にとっても安全に経営するために必要な書類の1つです。
キャッシュフロー計算書と損益計算書
損益計算書は、一定期間の売上と費用から割り出された当期利益を表しているので、売上高に対する原価や経費の割合によって事業の収益がどうであったか、つまり経営成績を知ることができる財務諸表です。
しかし、損益計算書で利益が出ていても、売掛金の回収遅延や過剰在庫などがあると経営に必要な資金の確保が難しくなります。キャッシュフロー計算書は、損益計算書には表れないキャッシュフローの状況を知ることができる点で、損益計算書とは補完関係にあるといえるでしょう。
キャッシュフロー計算書と貸借対照表
貸借対照表には決算日における会社の「資産」と「負債」がまとめられているため、財政状態を把握できます。貸借対照表の資産の部をチェックすることで、会社がいくらお金を保有しているかが分かりますが、キャッシュインおよびキャッシュアウトの原因を知ることはできません。
キャッシュフロー計算書では、お金の流れを「営業活動」「投資活動」「財務活動」に分けて作成するため、お金が増減した理由がどこにあるのかを知ることができます。
キャッシュフロー計算書の読み方
キャッシュフロー計算書が作成できても、読み方が分からなければ意味がありません。ここでは、ケース別に読み方を解説します。
営業活動CF(+)> 投資活動CF(−)の場合
フリーキャッシュフローは「営業活動によるキャッシュフロー+投資活動によるキャッシュフロー」です。そのため、営業活動によるキャッシュフローのプラスが投資活動によるキャッシュフローのマイナスよりも多ければ、フリーキャッシュフローはプラスとなり正常なキャッシュフローと判断できます。
営業活動CF(+)< 投資活動CF(−)の場合
営業活動によるキャッシュフローがプラスであっても投資活動によるキャッシュフローのマイナスの方が大きく、フリーキャッシュフローがマイナスになるケースでは、事業拡大のための先行投資が増加し、本業で稼いだお金よりも多くなったことが読み取れます。
この場合、翌年以降の営業活動によるキャッシュフローが増加しているかどうかを確認する必要があります。
営業活動CF(−)の場合
営業活動によるキャッシュフローがマイナスのケースは、会社が本業でお金を稼いでいないことを表します。このまま放置すると経営危機につながる可能性があるので、早急に原因を解明し改善しなければなりません。
特に損益計算書の「税引前当期純利益」もマイナスのケースでは、本業自体の収益性が低く、事業継続が困難であることを示しているため、キャッシュフローに関わらず対策を急ぐ必要があります。
逆に、「税引前当期純利益」がプラスなのに営業活動によるキャッシュフローがマイナスのケースでは、次の要因が考えられます。
1 売掛金や受取手形などが多い
2 取引先の経営悪化などにより、代金回収が遅延している
3 売上に対して過剰な商品や原材料を仕入れている
4 不良在庫が増加している
このような場合には、取引条件の見直し、在庫管理の徹底、品質の向上などの具体的な改善策の検討が求められます。
投資活動CF(+)の場合
通常は投資活動によるキャッシュフローはマイナスになるはずですが、プラスになるケースには次のような要因が考えられます。
1 土地・建物などの固定資産の売却
2 株式・債権・手形などの有価証券の売却
3 事業譲渡
4 特許権・ソフトウェアなどの無形固定資産の売却
チェックポイントは、これらの行為が前向きな投資活動や不要資産等の処分のために行われたのか、資金繰りに行き詰まり換金のために行われたのかどうかです。特に3、4の場合は事業に直結するので、資金不足になった原因を分析し速やかに改善策を講じなければなりません。
キャッシュフロー計算書の作り方
キャッシュフロー計算書は、企業活動におけるキャッシュフローを「営業活動」「投資活動」「財務活動」に分類し並べて表記したもので、全体の基本構成は次のようになります。
Ⅰ 営業活動によるキャッシュフロー |
Ⅱ 投資活動によるキャッシュフロー |
フリーキャッシュフロー(Ⅰ+Ⅱ) |
Ⅲ 財務活動によるキャッシュフロー |
Ⅳ キャッシュフローの増加/減少(Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ) |
Ⅴ キャッシュフローの期首残高 |
Ⅵ キャッシュフローの期末残高 |
また、「営業活動によるキャッシュフロー」の作成方法には、以下に記載する「直接法」と「間接法」の2種類があります。
直接法
直接法は営業活動にともなう実際の「仕入」「人件費」「宣伝広告費」などを項目別に記載する手法で、経理の知識がない人でもお金の流れを理解しやすい点がメリットといえます。ただし、各項目の取引データを集計しなければならず、時間と手間がかかるデメリットがあるため、直接法を採用する会社は多くありません。
<営業活動によるキャッシュフロー「直接法」の記載例>
項 目 |
金 額 |
⒈ 売上収入 |
XXXXX円 |
⒉ 仕入代金 |
XXXXX円 |
⒊ 人件費 |
XXXXX円 |
⒋ 宣伝費 |
XXXXX円 |
⒌ ・・・・・・ |
XXXXX円 |
合 計 |
XXXXX円 |
間接法
間接法はキャッシュインとキャッシュアウトの情報に「損益計算書」のデータを利用するため、作成が簡単というメリットがあります。直接法より分かりにくい点はデメリットですが、多くの会社が簡単に作成できる間接法を採用しています。また、作成手法が異なっても、直接法と間接法で求めたキャッシュフローの金額は等しくなるので、どちらを選択しても問題ありません。
<営業活動によるキャッシュフロー「間接法」の記載例>
項 目 |
金 額 |
⒈ 税引前当期純利益 |
XXXXX円 |
⒉ 減価償却費 |
XXXXX円 |
⒊ 売上債権の増減額 |
XXXXX円 |
⒋ 棚卸資産の増減額 |
XXXXX円 |
⒌ 仕入債務の増減額 |
XXXXX円 |
⒍ その他、受取(支払)利息等の増減額 |
XXXXX円 |
⒎ 法人税等の支払額 |
XXXXX円 |
合 計 |
XXXXX円 |
キャッシュフロー計算書を作成できる便利ツール3選
クラウド会計ソフト
安価で決算書類を作成できるクラウド会計ソフトの中には、キャッシュフロー計算書を作成できるものが多くあります。例えば、「勘定奉行クラウド」「クラウド会計freee」「マネーフォワードクラウド会計」などを利用している場合は、簡単にキャッシュフロー計算書を作成できます。
日本公認会計士協会のキャッシュフロー計算書作成シート
日本公認会計士協会の作成シートは、貸借対照表と損益計算書のデータを「入力画面」に従って入力するだけで「出力画面」で営業活動・投資活動・財務活動の3つのキャッシュフローに自動的に分類表示される非常に使いやすい設計になっています。
中小企業のためのキャッシュフロー計算書作成シート及び経営計画書作成シートの改訂について|日本公認会計士協会
※利用する際は日本公認会計士協会著作権規約への同意が必要です。
中小企業庁の簡易作成ツール
このツールは中小企業庁が提供するもので、中小企業がキャッシュフローを理解するために作成した簡易ツールです。算出した結果はあくまでも概算なので、正確なものを作成する場合には、税理士や公認会計士等への相談が必要になります。
中小企業の会計31問31答(平成21年指針改正対応版)ツール集|中小企業庁
まとめ
仮に赤字であってもキャッシュフローを持続できれば会社は存続できますが、黒字であってもキャッシュフローに行き詰まれば会社の存続は難しくなります。つまり、帳簿上の「利益」と現実の「お金」の違いを把握していなければ、会社を安全に経営することはできないのです。
突発的なアクシデントにも耐えられる会社にするためには、経営者自らがキャッシュフローをよく理解する必要があります。現状把握と問題点の分析をしながら、キャッシュフローの向上に取り組みましょう。
ただし、キャッシュフロー計算書を単に眺めていても、なかなか改善点を見つけられない方が多いのも事実です。キャッシュフローを正しく読むためには、財務の専門的な知識がなくても理解できる分かりやすい資料が必要です。
当社で毎月お客様にお送りしている「経営レポート」の中には、キャッシュフローが目で見て分かる資料も含まれていますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
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