人件費が適正な状態かどうかを判断するための経営指標に労働分配率があります。
しかしながら、
「どのように労働分配率を計算するの?」
「適正な労働分配率とはどれくらい?」
「そもそも、労働分配率とは何を意味しているの?」
など、疑問を抱いている経営者の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、労働分配率を分かりやすく解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、労働分配率の計算方法や目安が分かり、労働分配率を実際の経営に活かせるようになります。
1.労働分配率とは
労働分配率とは、付加価値に占める人件費の割合です。人件費が適正な状態かどうかを判断するための経営指標としてよく使われます。
労働分配率の高い企業は、企業が新たに生み出した価値である付加価値の多くを人件費に分配していることを意味します。労働分配率を上げるためには、人件費を増やします。人件費が増えると、労働分配率は上がります。人件費は、企業にとって従業員への投資であるため、企業が成長するためには、人件費を増やすべきです。
その一方で、人件費を増やし過ぎてしまえば、企業の経営を圧迫して、成長の阻害要因にもなりかねません。例えば、設備投資にまわす資金がなくなり、新しい機械を購入できずに、生産性の低い機械を使い続けるようなことが起こります。
労働分配率を理解して、人件費を適正な水準に保つことが大切です。
2.労働分配率の計算方法
労働分配率は、次の計算式で求めることができます。
労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100
企業が生み出した付加価値を、どれだけ人件費に割り当てているかを見るための指標が、労働分配率です。
人件費が増えれば労働分配率が上がることは分かりやすいですが、人件費が同じであっても、売上高の減少などで付加価値が減少すれば、労働分配率は上がります。
また、人件費には給与だけではなく、福利厚生費なども含まれるため、給与額は変更しなくても、福利厚生を縮小させて人件費を抑えれば、労働分配率が下がります。逆に、人件費が同じであっても、付加価値が増えれば、労働分配率が下がることになります。
付加価値とは
労働分配率の計算で用いる付加価値とは、企業が新たに生み出した価値のことを言います。
企業は、材料を仕入れて加工したり、仕入れた商品に新しい価値を付け加えたりすることで、仕入れた金額より高い金額で商品を販売することによって、利益を生み出しています。この仕入れた金額と販売した金額の差額が付加価値です。
例えば、1,000円で仕入れた商品を、1,500円で販売すれば、500円が付加価値になります。
具体的な計算方法には控除法と加算法の2種類があります。
【控除法】(中小企業庁方式)
付加価値=売上高-外部購入価額
【加算法】(日銀方式)
付加価値=人件費+金融費用+減価償却費+賃貸料+租税公課+経常利益
人件費とは
労働分配率の計算で用いる人件費は、人に関わる費用全般です。給与や賞与、役員報酬などはもちろんですが、福利厚生費や法定福利費(社会保険料・労働保険料)、研修教育費なども人件費に含めます。
人件費の例として、以下のものがあげられます。
・給与
・賞与
・賞与引当金繰入額
・退職金
・雑給(アルバイト・パートの給与)
・退職年金掛金
・福利厚生費
・役員報酬
・法定福利費(社会保険料・労働保険料)
・研修教育費
など
3.労働分配率と労働生産性
人件費を考える際に、労働分配率と一緒に用いられる指標に労働生産性があります。労働生産性とは、従業員一人当たりの付加価値額をあらわし、次の式で求めることができます。
労働生産性(円)=付加価値÷従業員数
従業員一人当たりの付加価値額である労働生産性に注目することで、労働の効率性が分かります。労働生産性が高ければ、投入された労働力が効率的に利用されています。言い換えれば、労働生産性は、企業の稼ぐ力を表していると言えます。
人件費を考える場合には、労働分配率と労働生産性の両方に目を向けることが必要です。労働分配率と労働生産性の両方を向上できれば、給与の額が増えて、優秀な人材が集まりやすく、生産性の向上にもつながります。
また、労働分配率と労働生産性のバランスが大切ですので、どちらかが低い場合には、その原因を検討する必要があるでしょう。
労働生産性で見た方が前向きな発想になる
人件費を検討する際には、労働生産性で見た方が前向きな発想になれます。なぜなら、労働生産性を用いると、従業員一人当たりの付加価値額が分かるからです。
例えば、労働生産性が月20万円であるときに、月20万円の従業員の給与を上げることはできません。しかし、労働生産性が月30万円に上がれば、従業員の給与を上げることも検討できます。
人件費とは、幸せを求めて働く従業員の労働の対価です。経営者は、従業員の力を活かし、労働生産性を高めて、従業員の給与を上げることが大切です。そのために、労働生産性を見ることで、前向きな発想で検討できるようになるのです。
4.労働分配率の目安
ここまで、労働分配率の計算方法や、労働生産性との関係について説明してきました。では、実際に労働分配率を検討する際に、労働分配率は、いったいどの程度を目標にすればよいのでしょうか。労働分配率の目安について解説します。
労働分配率は業種によって異なる
労働分配率は業種によって異なります。そのため、基準となる数字を示すことはできません。
一般に、労働集約的な業種では、生産要素に占める資本の割合が低くなり、労働との結合度が高くなるため、労働分配率は高めになります。ここには、農林水産業などの第1次産業と流通やサービス業などの第3次産業が当てはまります。一方で、資本集約的な業種になると、労働分配率は下がります。
業種別の労働分配率の平均を見ることで、同業種における目安となる労働分配率は分かりますが、自社の労働分配率が高いか低いかを判断するためには、経営計画書を基準にするのがよいでしょう。目標とするのは、経営計画書における人件費と付加価値の割合です。
業種別の労働分配率の平均
参考:
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00550100&tstat=000001010832&cycle=7&tclass1
=000001023508&tclass2=000001162446&stat_infid=000032165717&tclass3val=0
業種別の労働分配率は、経済産業省企業活動基本調査で毎年公表されています。
【業種別労働分配率の平均(2020年度)】
業種 |
労働分配率 |
全体 |
50.7% |
製造業 |
51.0% |
電気・ガス業 |
22.3% |
情報通信業 |
53.7% |
卸売業 |
49.7% |
小売業 |
49.4% |
クレジットカード業、割賦金融業 |
30.7% |
飲食サービス業 |
74.9% |
(「経済産業省企業活動基本調査 2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-」から作成)
これを見ると、全体の平均は約50%ですが、電気・ガス業やクレジットカード業、割賦金融業では労働分配率が低く、飲食サービス業では労働分配率が高くなっているのが分かります。一般に、労働分配率は50%程度がよいと言われることがありますが、労働分配率の目標値を一概に言うことはできず、業種によって異なることが明確です。
また、企業の規模によっても、労働分配率の平均値は異なります。小規模企業の方が労働分配率は高くなり、大企業の方が労働分配率は低くなるのが一般的です。
5.労働分配率を適正に保ち社員がイキイキ働ける会社に
この記事では、労働分配率とは何か、計算方法、労働生産性との関係などについて、詳しく解説してきました。
労働分配率の平均は、業種によって大きく異なります。また、業種別の労働分配率の平均がありますが、企業の規模や業態によっても変わるため、目標値を一概に示すことはできません。
自社の労働分配率が高いか低いかを判断するためには、経営計画書を基準にするのがよいでしょう。目標とするのは、経営計画書における人件費と付加価値の割合です。
もし、まだ経営計画書を作成していないようであれば、まずは経営計画書の作成から始めてみませんか。「マネるだけ、埋めるだけで作れる経営計画書 作成シート」を無料でプレゼントします。
よろしければ、こちらを使って経営計画書を作成してみてください。
いかがでしたか?お気に召したのであればシェアはこちらから。