中小企業の後継者を決めるための5つのステップ

    記事公開日: 2023.10.31

    マネるだけ、埋めるだけで作れる 経営計画書 作成シート(ダイジェスト版)

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    あなたの会社の後継者は決まっていますでしょうか?
    中小企業の後継者不在率は帝国データバンクが2022年に出したデータに基づくと57.2%。
    半分以上の会社は後継者が決まっていないことになります。

     


     ※出典 帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)
    https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221105.pd

     

    後継者問題は1年2年で決まる簡単な問題ではなく、会社の将来は勿論のことその会社で働いている社員の生活にもかかわる重要な問題で、少なくとも5年前からは考えて行動すべき課題です。
    どの経営者も後継者を誰にするのかという問題が重要なことは頭で分かっているのですが、
    ・本業が忙しくて、後継者をじっくりと考えることができない。育てることができない。
    ・まだ自分自身の年齢が若いのでうちには関係ない
    など何かしらの理由をつけて行動に移すことを後回しにしてしまう傾向があります。

    そこで本記事では具体的に「後継者はどのように決めていくべきか」、「何を準備したらよいか」など後継者の決め方を
    ①    探す
    ②    見極める
    ③    機会を与える
    ④    育てる”
    ⑤    引き継ぐ
    上記の5ステップでできるようにお伝えしていきます。

     

    1.ステップ1:後継者を探す

    1.1 大原則は社内で後継者を探す。絶対に考えるべき二つの選択肢

    後継者探しの1丁目1番地は社内にいないか検討することから始まります。
    以下の2022年の帝国データバンクのデータも示している通り、後継者が就任した経緯別でみてみると『社内』という括りで2/3以上を占めております。

     


     
    ※出典 帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)就任経緯別推移
    https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221105.pdf

    加えて上記のデータからわかることとして、後継者選びに関しては『社内』か『社外』という軸と『親族内』か『親族外』という軸で分かれてくることもあげられます。
    簡単に図で表すと以下のようなマトリクスで表現できます。タイプAは社内×親族内、タイプBは社内×親族外(=従業員)、タイプDは社外×親族外です。ちなみにタイプCで考えられるケースは、今現在社外にいるが親族内に承継する時で、その場合は呼び戻す時点で社内にいることになります。故に本記事上ではタイプAに含めて考えていきます。

     


     
    タイプAやBが選ばれる理由としては、会社内外の理解が得られやすいということが大きな要因です。
    実際にあった事例として、今まで20年以上経営者をしてきて、会社や従業員のことを思うと頭では「後継者に引き継がなければ」と思っているのですが、実際に行動を起こすことにためらいが生じてしまい、見てみないふりをしてきて今に至ってしまった…と相談に来られた経営者がいらっしゃいました。実際に相談という行動までいかなくても潜在的に上記のような境遇の経営者は最近増えてきているように感じます。
    まずは社長自身がよく知っている方に引継ぎができることを第一目標にすべきです。
    そのため後継者選びの第一歩は身近な社内から探しましょう。

    1.2 タイプA:社内×親族内で後継者を探す

    ポジショニングマップのタイプAである社内×親族内から検討していきましょう。
     

    現時点で会社に入っている親族がいれば、わかりやすく筆頭候補になってくるかと思います。もし現在は別の会社に働いていても、引き継ぎを見据えて戻ってくることができる身内がいらっしゃれば、その方も十分に選択肢に入ってきます。

    親族内で引き継ぐメリットとして以下が考えられます。

     

    1) 他の親族を納得させやすい

    会社を引き継ぐにあたって、株主の合意を得られないと始まりません。
    その点知らない第三者が後継者になるよりかは、昔から知っている身内が後継者になる方が株主の合意は得られやすく、また承継後の経営においても意思決定のスピードが早くなります。
    中小企業の多くは同族経営で進めているところが多く、日本全体では9割以上とも言われております。そのため自社の株主も同族で持っているケースがほとんどです。
    会社は社長や役員のものではなく、株主のものであるが故、いくら社長と後継者の間で引き継ぐことに納得していても、過半数を占める株主がNOと言ってしまえば先に進むことはできません。

    2) 株式を含めた資産の移動、税金対策が打ちやすい

    後継者が身内だと株式や資産の移動に関して、売買(譲渡)ではなく贈与や相続など納税だけで済む選択肢も含まれ、柔軟に対応策を練ることが可能です
    引継ぎには事業面だけでなく経営面や財産面など様々な側面を考慮しながら進めていく必要があります。その中でも安定成長してきた会社ほど、経営面≒株式の部分をどのように承継していくかが足枷となる傾向です。
    親族外に株式を渡す場合、基本的には1株当たりの金額を定め、売買(譲渡)をすることで移すことがほとんどです。適正な価格で売買すると、いわゆる“いい会社”ほど必要な金額が膨大になり、金融機関や自社などから貸し付けを行って資金調達が必須となります。

    具体的な引継ぎ方法は5章でご紹介します。

    1.3 タイプB:社内×親族外で後継者を探す

    続いてタイプBの社内×親族外(=従業員)をみていきます。
    一昔前までは引継ぎ=親族内でという構図でしたが、働き方の多様化から従業員の中から引き継ぐという事例も増加してきました。先述の帝国データバンクのデータからもわかる通り、親族内での引継ぎと従業員への引継ぎがほぼ同じ割合になってきました。

     


     背景としては昨今の少子化や働き方の多様化などで同族経営の維持が難しくなったことが考えられます。
    一方で苦労して運営してきた社長ほど「身内に同じ思いをしてほしくない」という気持ちが強く、敢えて後継者候補から除くケースも増えてきています。
    従業員が引き継ぐ場合、親族内とは異なるメリットがあります。



    1)事業に対して十分な理解がある

    会社を存続させるために一番大事な事業の知識や経験の豊富さがあげられます。
    従業員の中から後継者を探す場合、一般的には長期間会社で勤めている人の中から選ぶことになります。
    元々は一般社員として入社しており、色眼鏡で見られることもなく正当な教育・評価を経て今の地位まで上り詰めているので、内部の社員は勿論のこと外部の取引先からの信頼度も高く受け入れられやすいです。

    2)次世代以降の後継者の引継ぎに選択の幅が広がる

    将来の引継ぎの基盤作りができることもメリットです。
    従来は親族の間で承継をしており、ご自身の代で初めて第三者に引継ぐ場合は相当な準備や検討事項があり大変です。
    しかしながら一度内部から登用する環境を整えてしまえば、次回以降の引継ぎは前回の流れに基づき進めて、不足部分や反省点を補うことだけで可能になります。
    一見すると自分のための後継者問題のように見えますが、将来の会社の選択肢を増やすための解決策の提示に繋がっていくため、決して苦労は無駄になりません。

    2.ステップ2:後継者を見極める

    候補者が見つかったら次は見極めです。
    恐らく何人か社長の頭の中で浮かんできた人がいるはずです。
    但し現時点ではあくまでも“候補”止まりで、ここから後継者にふさわしい人間かどうかを見極める段階に入っていきます。
    今回は3つの要素を紹介します。

    2.1 会社のことを第一に考えられるか。利他的な人間か

    会社のトップに立つ人物は会社の内外も含めて網羅的に考えなければならないため、全体最適・利他的な考えであることが大前提になります。
    一従業員であれば自分の事を中心に考えることも可能ですが、当然ながら会社には従業員の方々がいて、その背後にはそれぞれの家族がいます。何十人、何百人の生活がかかっているといっても過言ではありません。必然的に会社中心に考えての生活となります。
    それでは売上だけ、利益だけ会社で稼ぐことができれば、いい会社でしょうか。
    答えはNOのはずです。社長と同じ能力の人間の集合であればよいですが、
    当たり前のことのように思えるのは、今この記事を読んでいる経営者の方は経験的に会得しているからで、後継者候補はまだ理解しきっていません。
    普段の行動から利他的に(=自己中心ではなく)動ける人物が経営者にとってふさわしいでしょう。

    2.2  先代や会社の歴史、経営方針を敬うことができるか

    既存の経営方針を延長した路線で会社を経営できるかどうかも後継者に必要となる大事なマインドです。
    会社が現在まで存在しているのは、代々の経営者や従業員の方々の軌跡があってのことです。今の従業員も現社長の考え方の下に集まった人が多く、方針が180度変わってしまうとついていけず、辞めてしまう可能性が高まります。
    そうならないように一挙手一投足を踏襲することは不要ですが、過去に敬意を払った言動が大事になります。

    2.3 事業の未来像を考えることができる人間か

    事業はリニューアルないしは新しいことに挑戦し続けることが必要不可欠です。
    前項でお伝えした考え方(経営理念・価値観等)は大事にしつつも、手段は絶え間なくアップデートしなければいけません。
    以下の中小企業庁のデータからもわかる通り、若い経営者ほど、新規事業に挑戦していく傾向があります。

     


     ※出典 中小企業庁 第7節経営資源の有効活用
    https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/shokibo/b1_1_7.html

    反対に事業の方向性として現状維持で考えてしまうと、劇的に変化している世の中に対応することができずに衰退の一途をたどってしまいます。
    年齢が若い経営者ほど“5年後、10年後”という目線も持ち合わせて考え、もし失敗したとしてもどこかで自分自身で挽回しようとなる方が多いです。

    3.ステップ3:後継者に機会を与える

    後継者候補の人物像を見極めたとしても、実践する力が無い場合もあります。引き継ぐ側の立場になって考えてみても、いきなり引き継げと言われても能力に気づいていないことも多く不安になることでしょう。そこで試す場を設けることで、お互いに資質を確認する場を設けることも大事になってきます。

    3.1  大きな社内プロジェクトを任せてみる

    一番判断しやすいのは、社内の大きいプロジェクトを任せることです。
    プロジェクトリーダーが良い理由としては、
    ・自分だけではなく他人を巻き込みながら進める
    ・大局的に考える
    ・本業との併走をしながら進めなければならない
    という経営者にとって必要な要素が盛りだくさんだからです。
    プロジェクトの内容は本業に関連しなくてもよいです。その場合社員旅行や会社の○○周年記念行事などが良いかもしれません。
    2章の見極め方法で触れた要素を満たした人物か判断することができます。

    3.2  半年~1年で完結させる

    期間は半年~1年くらいがベストです。
    長すぎるプロジェクトだと結果が出るまでに時間がかかりすぎ、短すぎると素質が分からない場合があります。
    大事なことは後継者候補がふさわしい資質を持っているかどうかを認識することなので、1年で完結させるようにしましょう。

    3.3 後継者にふさわしいか判断する

    プロジェクトが完結したら、プロセスや成果で後継者としてふさわしいか判断をしていきます。
    一般的に評価する要素としては、
    ・組織をまとめるリーダーシップ
    ・責任を持った決断力
    ・周囲との適切なコミュニケーション能力
    があげられます。
    この要素は会社の企業理念や文化とも密接関わってくるので、ぜひ会社独自の項目を検討し、設定してください。

    後継者としてふさわしい資質を持った人間か確認出来たら、次は育成に移っていきます。

    4.ステップ4:後継者を育てる

    4章では育成するにあたって気を付けるべき重要なポイントをまとめていきます。

    4.1 引継ぎ期間を逆算した育成期間を設ける

    冒頭でもお伝えしましたが引継ぎ期間は5年を軸に考えましょう。
    そうなると自ずと育成にかけられる期間は長くても3年が目安になります。
    後述しますが事業の引継ぎだけでも最低3年かかります。株式や財産の対策も同時並行で進めるとなると3年+αが現実的です。
    以下の2021年のデータも示しておりますが、移行期間として中小企業だと3年以上かかっている企業は55.1%を占めています。また業種も建設業を筆頭に技術や経験、業界内外のコネクションが重要になってくるようなところは3年以上かかる傾向にあります。

     

    ※出典 帝国データバンク 後継者への移行期間、「3年以上」が半数超
    https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/s210904_20.pdf

    あくまでも後継者候補が社内にいる場合の育成計画が5年計画で、1.1で紹介した外部で働いている親族に引き継ごうと検討している場合、事業の理解や社内外人間関係の形成など1から構築していきますので、育成だけで5年、全体の引継ぎは7~8年かかることを想定していた方が無難です。

    4.2 事業計画を後継者候補と一緒に立ててみる

    まず、事業の計画を立てることができるように指導しましょう。
    事業をいきなり引継いでうまく進めばよいですが、万が一失敗してしまったら元も子もありません。最初から上手く立てられる人はいないので、事業計画の立案も3年くらいの計画でできるとよいです。
    1年目は手取り足取り大事な部分を教え、
    2年目に一緒に計画を立て、
    3年目には現社長と遜色ない計画ができる
    というスケジュール感が理想です。

    4.3  外部の相談相手を作りながら育てていく

    ぜひ周囲の関係者も関与してもらいながら育成に力を入れていきましょう。
    特に期間が長いため、同じ悩みを共有できる経営者仲間や他社の引継ぎを何回も経験してきている税理士・会計士、金融機関等の担当の方にも積極的に紹介していきましょう。
    私の経験からも社内のアドバイスより社外の第三者からの助言の方が、感情の部分が排除されるため理解してもらえる傾向にあります。
    周囲のサポートを積極的に受けながら、考え方を従業員目線から経営者目線へ変えていき、責任感を持たせて育てましょう。


    2章で見極め、3章で試して、4章で育てることを紹介しました。
    もし後継者候補が上手くステップアップ出来ない場合は、また新しい人を探して2章から再スタートとなります。

    5.ステップ5:後継者に引き継ぐ

    前章までで後継者候補が確定すると、ようやく引継ぎの実行ステップに移ることができます。
    引き継ぐ上で外すことができない大事なポイントをご紹介します。

    5.1  3つの権利(事業・経営・財産)を軸に準備すると上手く進められる

    後継者への引継ぎで最も重要なことは、事業・経営・財産の軸で引き継ぐ事項をそれぞれ考え、バランスよく準備することです。
    当記事ではそれぞれの用語の定義として、事業は本業やヒトの部分、経営は株式や保証の部分、財産は社長の財産や納税の部分を指していきます。
    以下の図のように会社はそれぞれが独立しているのではなく、混じり合いながら成り立っています。

     



    例えば「今までの自分の頑張りをたたえて退職金を現金でたくさん支給したい」とすると、右下の個人の財産は大きく増えます。退職金を支給して赤字になると一般的には株価は下がるので左下の経営権の部分も好影響を与えるでしょう。しかしながら上部の事業は資金不足に陥ってしまい、調達に注力しなければならなくなります。一番大事にしなければならない本業の部分が蔑ろになるため、個人は潤っても法人が枯渇して引継ぎに失敗してしまう代表事例です。

    5.2  事業を引き継ぐタイミングを決める

    引き継ぐ人が決まったら、大まかな事業の引き継ぎのスケジュールを決めましょう。
    事業の中には本業の仕事だけでなく、財務や人事など多岐に渡っています。
    後継者一人が全てを担う場合は、引継ぎの優先順位をつけて進める必要があります。

    仮に現社長65歳、後継者候補40歳と想定します。
    5年後の70歳を引継ぎ完了のゴールとすると、
        現社長  新社長   
    1年後 66歳   41歳  重要取引先の引継ぎ
    2年後 67歳   42歳  社内発表 
    3年後 68歳   43歳  金融機関への紹介・対応
    4年後 69歳   44歳  社外発表
    5年後 70歳   45歳  引継ぎ完了
    というように逆算してスケジュールを組む必要があります。

    一人で到底できない場合は、社内で右腕となり得そうな従業員も巻き込みながら進めていくと上手くいきやすいです。この場合も従業員の方の年齢を加味しながら計画を立てられると現実味が湧いてきます。
    参考までに株式会社古田土経営の引継ぎの流れを以下に紹介します。

     



    ご覧いただくと、代表取締役に就任から逆算して、役職の部分が年々ステップアップしていったことがわかると思います。

    5.3  経営権の譲り方を決める

    3つの権利の中で重要度と難易度が高いのは経営権です。
    今回取り上げる経営権は、1)自社株式、2)個人保証の2点を検討していきます。

     

     

    1)自社株式

    一つの考え方として少なくとも、新しい後継者が50%以上株式を持てるように検討しましょう。理想は2/3以上を持つことです。
    中小企業の特徴として、経営者を中心とした同族の関係者が自社株式の大半を持っているケースが多いです。意思決定が早いというメリットはある反面、代表者と筆頭株主が異なる場合や株式が分散している場合などデメリットもあります。

    過半数以上を持つためには、前項と同様に計画が大事になります。
    譲り方の選択肢としては、
    ①贈与
    ②相続
    ③譲渡(=売買)
    です。実際に検討する事例を4段階で表現すると以下の表のような傾向になります。

     


     
    後継者が親族内だと贈与か相続、親族外(=従業員)だと譲渡から検討していきます。
    私達がご相談を受けた際には①~③を“いつ”、“だれに”、“どの程度(何株)”、“いくらで”移すかという項目を軸に検討していきます。
    例えば①贈与であれば、非課税の枠だけで進められるのか、多少贈与税を払ってもいいのかだけでも期間や金額感は大きく変わってきます。
    当然ながら引き継ぎに時間をかけられるほど、取れる選択肢も増えますので、前倒しで考えていくに越したことはないです。

    2)個人保証

    会社で金融機関から借り入れを行っていて個人保証がついている場合、保証をどのように引き継いでいくかも早い段階から検討しくことが重要です。
    早い段階から考えなければならない理由は、金融機関との調整が必要のため時間がかかるためです。
    理想は新しい後継者に出来る限り、保証を引き継がないようにすることです。
    特に中小企業の場合、経営者の個人保証や個人資産を担保にして融資を行っていることも少なくなく、保証の部分をクリアにしないと後継者もリスクが怖くて引継げないということがあります。
    金融機関としても「経営者保証ガイドライン」を設定して、引継ぎを阻害しないようにしています。
    後継者が決まったら、金融機関へ相談して計画的に引継ぎができるようにしていきましょう。

    5.4  個人の財産が混じっていないか確認する

    会社の貸借対照表(B/S)に個人の資産も引き継ぎのタイミングで一掃していきましょう。
    よくある事例は土地・建物が現社長個人のものというケースです。
    社長がご存命の間や親族が会社に入っている場合は問題ないですが、会社に全く関係のない人の名義になってしまうと安心して会社を運営することが出来なくなる可能性があります。そのため引継ぎの時に個人の保有資産の行先まで決めるとよいです。

    5.5  上記に関する計画を新旧経営者が一緒になって作成することが理想

    5.2~5.4で考えた計画は新旧経営者の意向を交えたものにしましょう。
    事業・経営権・財務のスケジュールを考えたとしても、どちらか一方の意向しか取り入れていないと揉め事の種になり、上手く引継げません。最悪のケースは途中まで引継ぎを動いたにも関わらず、どちらかが引継ぎを拒否してしまい頓挫してしまうことです。お金も時間も無駄になってしまい、また0から戻ってしまいます。
    そうならないように、社長交代の時系列に合わせて当てはめて、全ての項目を網羅した計画を一表に作成していきましょう。
    イメージとしては、以下のような表で作成できると一目瞭然です。

     


     
    事業計画の時と同様にこちらも新旧経営者が一緒になって考えるべき内容になります。

    5.6  旧経営者が元気なうちに新経営者の体制を見守る期間も考慮した計画が重要

    計画を実効する段階で大事なのは、“見守り期間”をしっかりと設けることです。
    引き継いで最初から順調に進んでくれるに越したことはないですが、ご自身も経験されてきたように経営を行うことは想像以上に難しい事です。
    生の声として「社長になってみて責任の重みが全然違う」と仰る方が数多くいらっしゃいます。
    そんな時に支えとなるのが、前社長です。
    社長から降りたからといってすぐに関与を0にするのではなく、
    徐々にフェードアウトすることが上手く引継げられるポイントです。
    そのため社長から退いても2年くらいは、呼称は会長でも顧問でも構わないので、
    何か困ったことがあれば助けられる存在として残って頂くことを強く推奨します。

    6.どうしても見つからない場合はタイプD:社外×親族外で考える

    後継者候補がどうしても見当たらない場合は、以下のポジショニングマップのタイプDである社外×親族外で考えるしかありません。

     


     
    第一章でも紹介した帝国データバンクのデータに基づくと、過去5年以内で引継ぎが発生した会社の内3割弱は、外部の力を頼って承継を進めています。年々割合も増えており、それだけ成り手が不足しているとも言えます。

    6.1 適材な人物がいれば外部から招聘する

    取引先や同業の経営者仲間などが候補として考えられます。
    全くの第三者が引き継ぐよりいくらか会社のことを知っている方が引き継ぐ方が働いている社員は安心することでしょう。
    また外部から客観的に会社を見ている期間が長いため、会社の強み弱みを熟知しています。
    会社の今後の経営に関して、改善点を補える可能性があるため、更なる発展も期待することができます。

    6.2 従業員の雇用の安定、技術の継承を考えるとM&Aも選択肢になってくる

    引き継ぐ上で
    ・従業員の雇用の確保
    ・サービスや技術を承継できる
    といった未来を見据えたメリットを踏まえるとM&Aも選択肢として魅力的です。
    現実に2割の会社はM&Aを引継ぎの手段としています。

    引継ぎまでに時間がある場合、前項の“外部から”という選択肢も考えられますが、どうしても時間がなく限られている場合や成り手が見つからない場合、M&Aが有効になってきます。
    M&Aも大きく分けて2種類あり、
    ①株式譲渡
    ②事業譲渡
    に分かれてきます。
    前者の①は会社ごと他の企業や個人に譲る(=売る)場合を指しますので、譲渡代金(=売却代金)は株主に入ります。後者の②は会社の中でいくつかある事業の内、相手が望む事業だけを譲る場合となり、基本的には会社に譲渡代金(=売却代金)が入ります。

    また会社を売ったとしても契約次第で新しい会社の下で働くことも可能です。
    今まで背負ってきた会社を経営するという十字架から解放されるため、より事業に集中できるという効果も期待できます。

    6.3 最後の選択肢として廃業を考える

    後継者候補が社内や周りにおらず、M&Aで売ることもできない場合、やむを得ず廃業の選択肢を取ることになってきます。
    毎年500件以上引継ぎのご相談を受ける私達の経験に基づくと、廃業を選択肢に入れる会社は、従業員の方が5人未満で事業をされている会社が多いです。
    逆に言うと5人以上で経営している会社は、誰に引継ぐかは別として事業を継続する路線で検討する傾向にあります。

    廃業を考える上で一番大事なことは、社員のフォローをどうするかということです。
    会社が全員親族内で働いている場合や、従業員の方がみなご高齢の場合は不必要かもしれませんが、社長(経営陣)の都合で
    社員の方が路頭に迷わないよう最後の大仕事として、再就職口の斡旋を必ず行うようにしたいところです。

    7.まとめ

    後継者に関しての情報を紹介してきましたが、イメージは湧いてきましたでしょうか。
    繰り返しにはなりますが、引継ぎに際して時間があればあるほど様々な選択肢を検討すること、選択することが可能です。逆に時間が短くなるほど限られた選択肢で進めるしかなくなります。
    つまり後継者の引継ぎは年齢で考えることではありません。
    極端に言えば社長に就いた日から次の世代を考えていく必要があります。後継者選びに早すぎるという概念はありません。
    ぜひとも計画的に考えて頂くと良いかと思います。
    ・どのように計画を立てたらいいかわからない
    ・自分の会社はどの選択肢だとよいのだろうか
    など疑問・質問がある方はお気軽にご相談ください。

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