日本国内の企業数は約359万社あるとされ、その中でも中小企業は99.7%、約358万社を占めます。その内中小企業で働く従業員数は約7割の3,500万人程と中小企業が日本を支えていると過言ではありません。
その中小企業で後継者不足が深刻な問題となっております。
後継者が不在のままだと従業員の方の生活が不安定になってしまうのは勿論のこと、創業から培ってきた技術やサービスが引き継げず、周囲の協力会社も巻き込んで悪い影響を与えてしまう可能性があります。
決して経営者個人や家族だけの問題ではありません。
後継者不足がなぜ深刻化しているのか、現状と原因を詳しく解説していきます。
そして自社が同じ道筋をたどらないように解決策も触れていきます。
1.後継者不足の現状
この章では中小企業の後継者を取り巻く現状を取り上げていきます。
1.1 50%以上の会社が後継者不足
帝国データバンクが実施した下記調査データからもわかる通り、後継者不足の割合は57.2%となっております。
ここ10年の数値から見ると改善傾向にありますが、休廃業・解散数も年間5万社以上、倒産件数は8,500社ほどあり、一概に後継者問題が解決されたから率が下がった訳ではないことがわかります。特に新型コロナウイルスの影響があった2020年以降、急激に不在率が下がっていることを踏まえると、実態としてはさほど変化がないのではないかと推測されます。
実際に後継者不足を含めた事業の承継に関して弊社へのお問い合わせ数も年々増えております。また後継者は決まっているが「○○が△△になったら」といった条件付きの場合も一定数見受けられます。不在率は確かに下がっているかもしれませんが、後継者が決定しており計画通り承継が進行している割合は年々減っているのではないかと考えます。
1.2 経営者の引退年齢の平均は68.8歳
1.1でも触れたように後継者が見つからないため、引退年齢も年々伸びており、最新のデータによると68.8歳となります。経営者の平均年齢自体も上昇傾向にあり、2022年時点では60.4歳と32年連続で更新しています。
社長を交代しても平均51.5歳と30年前の経営者の平均年齢54歳に肉薄している状況です。
経営者の年齢が上がっていることの要因の一つとして、後継者に引継ぎたくても引き継げない状況が取り巻いています。原因の部分は2章以降で詳しく解説していきます。
1.3 地域別・業種別にみた特徴
地域別にみると、地方だから後継者の不在率が高いということではなく、その地域が得意としている業種に応じて不在率が影響してきます。
実際に私達へ頂くご相談も地域に特化した産業のお客様からの問い合わせが非常に多いです。以下の帝国データバンクが出しているデータに基づくとその傾向がより顕著に伺えます。
不在率の高い業種は技術やサービスが属人化してしまっているものがランクインしており、“実務”と“経営”の両輪を回せる後継者が見当たりづらい現状があります。属人化する事業はそもそも会社にとって入口の採用の部分も難しくなっている傾向があるため、単に後継者不足という問題だけでなく、採用や離職率といった人事の部分も絡んでくる複雑な問題であることがお分かり頂けるはずです。
2.後継者不足の原因
前章の現状を踏まえて、この章では後継者不足が起きる原因を6つの側面から考えていきます。
2.1 組織の高齢化・空洞化
経営者自身の高齢化という問題もありますが、会社組織自体の高齢化も進んでいることがあります。社長の№2,№3となっている人材はいても、年齢があまり変わらないのであれば引継ぎの対象から外れ、その下の年代となると年齢や実力・経験で大きく劣ってしまい、組織として次を担う世代が空いてしまっていることも後継者不足の原因の一つです。
後継者どころかそもそも採用で苦労している会社が増え、その中で後継者候補を探すのは至難の業となってしまっているところが多くなっています。
中小企業では特に採用を中長期的に考えて進めることが難しいため、そのしわ寄せがいま押し寄せてしまっています。
2.2 親族内承継の割合が減少
長らく中小企業では親族内承継が大きな割合を占めていました。
準備や対策の講じやすさ、周囲への理解という会社を引き継ぐ上で、押さえておくべき大事な部分が優れていたためです。
しかし2023年初めて内部昇格が親族内承継を上回りました。
実際に相談を受けていると、親族内承継の減少は親側の考え、子側の考え共に原因があり発生していると感じます。
前者の社長である親側からは
・子供に大変な思いはさせたくない
・別の仕事に興味を持っているので本人の意思を尊重させたい
という意見をよく耳にします。
一方後者の子側からは
・客観的にみると社長である親のような能力を持っているわけではないため、経営者になることは難しいと判断
・自分のやりたいことではない
という意見を聞きます。
時代的な背景としても昔は“親や周りの環境が強制する時代”から“自由に個性を尊重する時代”へ変化しています。自分の子供を後継者候補から外す=有力な選択肢が1個消えるため、後継者を決められない要因の一つとなります。
2.3 経営が悪化、事業の将来性の問題
コロナが流行して以降、損益の悪化に伴い事業の将来性に不安を感じる会社が増えてきました。売上は戻りつつあっても原材料や物価の高騰、人件費上昇など様々な要因で以前より利益を出しづらい状況になってきました。
以下のデータは日本政策公庫総合研究所が出したデータで、後継者候補の有無と5年後の事業の将来性を表したものになります。
データからも読み取れるように後継者が決まっていると将来性がある企業が多く、決まっていない会社は将来性に不安を感じている企業が多いです。
つまり将来性に不安を感じる企業が増えてきたため、後継者への物理的精神的負担を感じて頼めなくなってきていることがわかります。
事業の将来性がない状況から、新規事業を作り会社を立て直せる人物となると候補が限定的になってしまうため、引継ぎづらくなってしまいます。
2.4 負債(借入金・保証)が重く引き継げない
後継者に引継ぐ意思があっても、現実問題として借入金や経営者保証の問題があり引き継げない事例もあります。2018年の中小企業基盤整備機構の調査によると84.3%が金融機関からの借入に対して何かしらの経営者保証を提供していることがわかります。
この保証が足枷となり、後継者候補がいるにも関わらず経営者保証を理由に承継を拒否していている割合が65%を占めております。
国としてもボトルネックになっていることは把握しており、「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、徐々に保証を外す動きを推進している状況です。実際にどこまで影響を及ぼすか今後の動向が注目されます。
2.5 経営者の仕事が属人化しており引継ぎができない
中小企業の経営者の仕事は多岐に渡っています。
https://blog.kodato.com/12job-sbusiness-owner
以前経営者の仕事について触れた記事がありますが、これらに加えて本業の部分を行っており、プレイングマネージャーでやっている経営者が大半です。
そうなると仕事として考えても引き継ぐことが難しく、当然ながら引き継ぎ書のようなものもないため、属人化してしまう傾向にあります。
後継者側としては全体像が見えづらく、不安に感じてしまい引き受けることをためらってしまいます。
引き継ぐためにも経営計画書の作成・活用が重要になってきます。
2.6 会社の株式を移動することができず引継げない
会社を引き継ぐ上では事業の部分だけではなく、経営権にも関わる株式の部分がネックとなりなかなか引継げないケースも珍しくありません。
株式について簡単に説明すると、中小企業の株式は市場価値が無いですが、税務的な価値はあります。そして厄介なことに過去から現在にわたって健全経営をしていた会社ほど価値=株価が高くなる傾向にあります。
経営権を引き継ぐ上では最低限過半数以上の株式を取得したいところです。
後継者候補はまとまった現預金を持っていることが少なく、株式を取得するために金融機関から借入を行うことに抵抗感を感じて、なかなか進まずご相談頂くケースも非常に多い事例となります。
3.解決策
後継者不足の状況を解決するためには、一にも二にもまずは後継者候補となりうる人物がいないか探すことが重要になってきます。そして年単位で時間がかかることでもあるため、なるべく早くから動き出すことも大事です。
後継者の決め方や育て方に関しては、過去に執筆した記事に詳細を記載しておりますので、そちらをご参照ください。
4.まとめ
後継者不足は今後益々深刻化していく問題になります。
引き継いだばかりの方でも頭の片隅には「次の代をどうするか」という考えは常に置いておくべき問題です。
古田土会計グループでは、年間150社以上、事業承継や組織再編に携わっており、
・後継者不足にならないような事前の対策
・問題に直面したときの対処方法
など中小企業の引継ぎに特化した知見があります。
将来に対して不安を感じたらぜひお気軽にお問い合わせください。
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