自社の経営成績を判断するものとして、多くの経営者の方が「決算書」を思い浮かべるかと思います。
確かに、「決算書」は一年間の自社の「成績表」といえる重要な資料です。
しかし、「決算書」といっても、手元にある「決算書」には
・法人税申告書(別表)
・固定資産台帳
・決算報告書
・勘定科目内訳明細書
・税務代理権限証書
・法人事業概況説明書
・消費税申告書
・地方税申告書
といった、様々な資料が存在し、普段見ることのない資料ばかりです。
では、中小企業の経営者が見るべき「決算書」とはなんでしょうか?
古田土会計グループでは、毎年4,000社以上の中小企業の決算書を分析しています。
その経験から、中小企業の経営者が自社の「決算書」を分析するには、2つの資料と13のポイントのみで十分であると考えています。
この記事では、「中小企業経営者が知るべき決算書の見方」を解説いたします。
1.中小企業経営者が決算書を見るべき理由
経営者にとって、1年間の経営成績を表すもの、それが「決算書」です。
では、なぜ中小企業経営者は自社の決算書をよく見なければいけないのでしょうか?
この章では、まず2つの決算書を見るべき理由をお伝えします。
1.1 自社の財務状況の把握の為
中小企業の経営者の方はよく、
・黒字だから大丈夫!
・売上は、前年対比〇%伸びた!
・計画対比で▲〇%の未達だ・・・
など、自社の経営の結果を、黒字・赤字などの結果や、前年対比・計画対比の「率」で判断される方が多くいらっしゃいます。
しかし、これでは自社の稼ぐべき利益や、客観的な財務状況を判断することはできません。
なぜならば、会社の財務状況を決定するのは、「額」だからです。
自社の状態がどうかを、客観的に評価するには、絶対額でしか判断ができません。
決算書には、「決算報告書」と呼ばれる、いわゆる財務諸表(貸借対照表・損益計算書)が含まれています。
決算報告書には、1年間の経営で、どれだけ儲け、その結果自社の財務状況がどのように変化したのか、をすべて「額」で表示しています。自社の財務状況の客観的な把握には、前年対比や、計画の達成率などではなく、絶対額で表示をしている決算報告書の分析は欠かせません。
損益計算書の読み方はこちらの記事・貸借対照表の読み方はこちらの記事をご覧ください。
1.2 他社である取引先・資産状況の把握の為
決算報告書を活用して、自社の財務状況を見るだけでは、不足している観点があります。
それは、自社の取引先である他社への売掛金や、自社が保有する土地などの資産の状態はどうなっているのか、という観点です。
自社を評価する第三者である金融機関では、融資判断においての大きなウエイトを「勘定科目内訳明細書」という資料に置きます。
決算報告書で、自社の財務状況を「額」で把握しますが、それだけでなく、自社が保有する資産の内容や時価を評価して、実態の資産価値や経営者としての素質を判断し、融資可否を決定しています。
つまり、自社の取引先の信用力や、自社の資産の実在性も評価しなければ、実態の自社の財務状況がわからないのです。
いくら利益が出ていようとも、相手先の経営状況が悪く代金の回収ができていない・土地が値下がりし、資産価値が減少している場合、会社の体力はその分低く見積もらないといけないのです。
財務状況は「額」だけでなく、他社の信用力や、資産の時価評価も重要な判断材料です。
2.中小企業の経営者が見るべき「決算書」の種類
1章で、「決算報告書」と「勘定科目内訳明細書」を紹介しましたが、そもそも決算書といっても、そこには多種多様な資料が存在しています。
中小企業の経営者が、税理士から受け取る決算書には上記の資料が集約されています。
それぞれの資料が、様々な性質を持っており、計算式や税法によるルールが存在しています。
情報の開示や経営分析を、IRや社内の管理資料(KPIや財務分析数値)を用いて行う大企業とは異なり、中小企業の決算書は、比較的ボリューム(資料の数・情報量)が少ない傾向にあります。
その為、税理士から渡される決算書には、上記のすべての資料がまとめて渡されることがほとんどです。
その中から、中小企業の経営者は、自社の財務体質を把握し、経営判断に役に立つ資料を取捨選択する必要があるのです。
では、どの資料を選択すべきなのでしょうか?
それが、「決算報告書」と「勘定科目内訳明細書」なのです。
自社の財務体質を表示し、相手先の信用力・資産評価を行う資料は、この2つのみであり、その他の資料は税金計算をするために存在しているからです。
中小企業の経営者が決算書を経営に活かすためには、「決算報告書」と「勘定科目内訳明細書」を活用するべきです。
3.中小企業経営者が見るべき13のポイント
ここまで「決算報告書」「勘定科目内訳明細書」の説明をしてきましたが、この2つの資料でチェックすべき項目は、13のポイントです。
この13のポイントを押さえれば、自社の経営分析を即座に行うことができます。
3-1 決算報告書
① 現預金残高は、月平均の一般販管費の6か月分以上であるか
一般販管費は「固定費」と言われる、売上・利益にかかわらず毎月経常的にかかる経費となります。(製造原価報告書・完成工事原価報告書がある場合、労務費を固定費に加える)
災害や事故などで、売上が確保できなくなった際にも、固定費はかかり続けることから、その6か月分の現預金残高を持つことは、会社と社員を守るためには不可欠です。
② 現預金残高は、月商の3か月分以上であるか
金融機関では、月商の3か月分の現預金残高を保有することが、安定した財務体質である指標の一つとされています。
災害や事故などに備え、現預金を確保することは、企業のBCP対策としても重視されます。
③ 現預金比率は、30%以上であるか
現預金比率とは、現預金残高÷総資産で計算され、自社の資産のうち現預金がどれくらいを占めるかを表す指標です。
企業は通常の運転資金の他に、突発的な支出や、ビジネスチャンスに備えて、現預金を総資産の30%以上持つことを、古田土会計グループでは指導しています。
④ ネットキャッシュはプラスであるか
ネットキャッシュは、現預金残高-有利子負債で計算され、これがマイナスであれば、保有する現預金よりも借入金の方が大きく、常に借入金返済のプレッシャーに追われることとなります。
ネットキャッシュがプラス=実質無借金である経営は、いつでも借入金を返すことのできる財務体質であることを表し、経営面での自由度が大きく増すとともに、金融機関からの調達も有利になります。
⑤ 借入金依存度は30%以下であるか
借入金依存度は、有利子負債÷総資産で計算され、自社の資産のうち借入金が占める割合のことを指します。
借入金依存度が30%以上を占める経営は、経営の大部分を借入金に依存しているということになり、金融機関の支援なしでは経営が成り立ちません。また、経営者は常に金融機関対策に時間を割くことになり、本業に集中する事がより難しくなります。
古田土会計グループでは借入金依存度を30%以下を目標に、計画を立てることを指導しています。
⑥ 自己資本比率は30%以上であるか
自己資本比率は、純資産÷総資産で計算されます。自社の資産のうち、自前での本当の資産を表し、会社の健全性・安全性を示す最も重要な指標です。
理想の自己資本比率は60%ですが、中小企業の場合は、最低限30%を確保することを目指しましょう。
⑦ 経常利益+減価償却費>借入金返済額であるか
借入金の返済は、企業の儲けである経常利益+減価償却費で賄うことが一般的です。これが、借入金の返済のほうが金額が大きいということは、現預金残高が減ってしまうということであり、会社が稼ぐべき利益が不足しているということを表しています。さらなる利益の捻出や、追加の借り入れを検討すべきです。
3-2 勘定科目内訳明細書
① 売掛先は得意先別に記載しているか
勘定科目内訳明細書は、それぞれの勘定科目の内訳を細かく記載することが求められています。しかし、よく見られるのが、その他として一括で記載されていることや、前年と同じ金額を記載しているものが散見されます。
これでは、金融機関側から見ると、売掛金が不良債権として回収できていないのではないか、と疑問を持たれることにつながります。
期末現在での正しい金額を、得意先別に記載することが重要です。
② 売掛先は少数依存していないか
売掛先とは、自社の販売先を示しています。売上のうち、30%以上を特定の1社に偏っていると、その会社が倒産・ライバルの出現により取引を失ってしまうと、売上の大部分を失っていしまう危険性があります。
販売先は、1社依存することなく、分散することが、経営の安定のために必要です。
③ 売掛先の信用力は問題ないか
たとえ売り上げが上がっても、代金の回収ができなければ、企業の利益が現金化されません。売掛先からのしっかり代金回収ができるかどうか、定期的に信用力を確認する必要性があります。帝国データバンクなどの信用調査機関を活用しましょう。
④ 土地・建物の時価は、簿価を上回っているか
決算書に記載されている金額は、購入時の金額が記載(簿価)されています。過去、土地などの価格が高い時に購入し、その後値下がりをしている場合、時価<簿価となり、その差額を純資産からみなし損失として控除される可能性があります。
⑤ 買掛先は少数依存していないか
買掛先とは、本業の仕入をしている先を表します。こちらも1社依存していれば、その会社のトラブルに影響を受けて、自社の仕入に問題が起きる危険性があります。できるだけ、仕入も分散して行えるよう、複数の仕入れ先を確保しましょう。
⑥ 借入金の明細に金利や返済条件が記載されていないか
金融機関は、各金融機関の貸出条件を詳細に調査しています。勘定科目内訳明細書に、借入ごとに金利や返済条件を表示をしていると、自社の信用状況を開示していることになり、金利や返済期間などの条件交渉が難しくなり、良い条件での提案が受けにくくなる可能性があります。
4.中小企業には決算書と合わせて「社長の成績表®(中小企業版)」がおすすめ
古田土会計では、決算書は1年間の経営成績を表す、社長の成績表®であると定義しています。
そのため、決算の説明を行う際には、決算書をよりわかりやすく分析出来るよう、ある資料を使っています。
それが「社長の成績表®(中小企業版)」です。
「社長の成績表®(中小企業版)」は、6つの指標を活用し、自社の課題を明確化させる為に作り上げた古田土会計グループオリジナルの資料です。
決算書を分析する際には、自社の現状を知るだけでなく、不足している項目を明確化し、何をすればより財務体質が良くなるのか、を考えることが、中小企業経営者にとって必要です。
古田土会計グループでは、顧問先3,700社の決算の報告時に、すべての経営者の方とこの資料を用いて、来期の計画を策定しています。
この章では、「社長の成績表®(中小企業版)」のご紹介と、自社の分析をするにはどうしたらよいか、を解説します。
4.1 「社長の成績表®(中小企業版)」の分析内容・使い方
「社長の成績表®(中小企業版)」は、6つの指標を使って、自社の「財務体質のレベル」を格付けしています。
そして、各項目を0~5点までランク分けし、その合計点で、自社の財務体質を分析します。
その際のポイントは、翌期の財務改善目標を立てることです。
決算書は自社の財務体質を分析するために重要な資料です。しかし、あくまでその中身は「過去」であり、「過去」の数字で出来上がった財務体質を「未来」でどのように改善するか、を検討することが最も重要です。
そのために、6つの項目それぞれに対して、改善するために何に取り組むのか、を経営者の方と共有します。
例として、収益性・生産性の指標である損益分岐点比率を取り上げます。
来期は、配点5点である損益分岐点比率80%未満を目指すためには、大きく分けて
・売価の上昇
・売買個数の上昇
・原価の抑制
・経費の抑制
の4つの方策が考えられます。
その1つ1つの項目のうち、何に手を打つかを考え、対策方法と実行期日を設定します。
もちろん、毎月の月次決算ではその結果をタイムリーに共有し、判断を行います。
このように、決算書は、「過去」分析で終わらせるのではなく、「未来」の改善に役に立てる為に、活用すべきなのです。
4.2「社長の成績表®(中小企業版)」で自社の財務体質を分析するには?
古田土会計では、顧問先のお客様はもちろん、契約のないお客様にも「社長の成績表®(中小企業版)」を用いた、【90分おためしコンサル】を無料で行っています。
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ご準備いただくものは、2期分の決算書一式のみです。
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5.まとめ
決算書は見る資料とポイントを抑えれば、決して難しいものではありません。
そして、「未来」を作るために存在しています。
この記事が、自社の決算書から1つでも経営に活かせる気づきにつながれば幸いです。
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