中小企業は資本力や従業員数といった規模の大きさでは大企業に劣ってしまいますが、中小企業だからこそ持ち合わせている、大企業には無い「強み」があります。
本記事では、中小企業の強みと弱み、そして中小企業の強みを活かした経営手法をご紹介します。
1.大企業と比べた中小企業の強みとは
中小企業は大企業と比べた時に「無い」「少ない」という事が目に行きがちですが、実はそのこと自体が中小企業の強みとなっていることにお気づきでしょうか。
以下に大企業と比べた中小企業の強みを6つ紹介します。
1-1 意思決定から実行までが早い
中小企業は、重要な意思決定から実行に移すまでが早いです。
大企業では間接部門が多く、制度の導入や事業判断にあたって何人もの決裁者を納得させ、理解してもらう必要があります。たとえ、現場の担当がお客様のためを思って制度や商品を変えようとしたとしても、何人もの上司や決裁者を通す間に、担当者のモチベーションが落ちてしまったり、導入までに時間がかかってしまいます。
一方で中小企業では、現場担当者と決裁者や社長との距離が近く、改善できる点をすぐに決裁者に提案したり共有することができ、改善も迅速に行えます。
結果として、迅速にお客様対応ができ、柔軟な対応の結果、お客様満足度の向上、高付加価値が実現しやすいです。
1-2 コミュニケーションが容易に取れる
中小企業では、社員の数が限られているため、社員同士のコミュニケーションが取りやすいです。
大企業では、組織上役割や明確に区分されていることが多く、違う部署の人が何をやっているか分からないといった現象も多く見られます。そのため、同じ部門だとしても違う商品課、営業や企画といった職務によって情報の共有がされない事もあります。
一方で中小企業では、現場社員と社長の距離、部署間、上司と部下といった関係性がつながりやすく、情報交換もされやすいです。また、多くの人との人間関係を構築しなくても、限られた社員同士ですぐに情報交換ができ、マネジメントもしやすく、社長の旗振りに対して一同が同じ方向を向きやすく、一致団結した会社経営を行いやすいです。
1-3 経営の柔軟性がある
中小企業は、柔軟に経営することができます。
大企業は株主との関係や従業員数、幹部の層の厚さから、経営方針の変更や事業領域を変えていくといった柔軟な動きが取りづらく、既存の事業や株主にも納得してもらえるような会社の方針にしていかなければいけません。
一方で中小企業は、株主が経営者家族であったり、従業員数も少ないため、会社の経営方針の革新や新規事業への取組といった事に着手しやすいです。
経営に柔軟性が生まれると、時代の変化への対応、マネジメントでの負担が減り、より事業に集中した組織体制へと変わります。
1-4 社員と社長の距離が近い
中小企業は、社員と社長の距離が近くコミュニケーションが取りやすいです。
大企業では従業員数が多く、社長の名前と顔を知らない事がざらで、社長と話したことが無いという事がほとんどです。ですから、会社としての決定事項やこれから会社を通して自分がどのように成長できるのか、といったことを社長本人から聞く事は滅多にありません。
一方、中小企業は社員と社長の距離が近く、会社の方向性についてや、社長の姿勢を間近で見る事ができ、社員はより会社の方針に納得して業務に取り組みます。また、社長の想いや考え方といった事を生で身近で感じる事によって、社長への憧れや尊敬が生まれやすいです。
1-5 理念の浸透が図りやすい
中小企業では、理念の浸透が図りやすいです。
大企業は従業員が多いため、社長や幹部が大切にしている経営理念が浸透しにくいです。社長から幹部、部長、課長、係長、社員と会社の経営理念や考え方を伝達していく中で、間違って理解する人も必ず出てきます。また、事業領域も多岐にわたるため、自分がやっている仕事がどのように経営理念に繋がっているのかという事が実感しにくく、やがて自分の業務と会社の経営理念を切り離して考える様になりやすいです。
一方、中小企業は従業員数が少ないため、直接社長から社員に向けて経営理念を伝えやすく、社長の想いや大切にしたい事、会社の方針といった事をそのまま社社員に伝えられます。自分が日ごろ行っている業務がどのように自社の経営理念と結びつき、会社に貢献しているかといった事も理解しやすく、理念の浸透が図りやすいです。
1-6 社内間競争が少ない
中小企業では、社内間競争が少ないです。
大企業は社員数が多く、出世の競争率が高い事もあります。役職者を目指したくても、多くの社員が狙って競争し、時によっては同僚や上司との人間関係が悪化するケースもあります。勿論、競争が悪という訳ではなく、一定の競争心を燃やして仕事に取り組むことは、成長にとっては必要にもなってきます。
一方で中小企業では、従業員数が少ないため、社内間競争が比較的少ないです。社員間での激しい競争が生まれにくく、お互いに支えあう様な雰囲気を生み出しやすいです。ただし、全く競争せずにお互いに妥協してしまうと、会社としても成長が期待できませんから、適切な競争環境を作る事も必要です。
2.中小企業の弱みとは
中小企業は、強みを活かすこともできますが、反対に多くの弱みも抱えています。
以下に中小企業に共通する弱みを6つ挙げました。
2-1 知名度が低い
中小企業は知名度が低いため、そもそもお客様に知られていない事が多いです。
大企業は事業規模が大きいため、広告宣伝費の予算を多額に充てたり、大量生産商品を扱っている事があります。また、鉄道会社や携帯通信会社といったインフラを担っているような企業もあるため、普段から利用している身近な商品である事が多く、知名度が高いです。
一方で中小企業は広告宣伝費の予算は限られ、規模も一定に限られてしまうため、お客様がそもそも知らない事が多いです。業界では知名度が高く「うちの業界では指折りです」という会社もありますが、採用や業界をあまり知らない人からすると、「初めて聞いた」「こんな会社あったのか」という事が多いです。
2-2 生産性が低い
中小企業は生産性が低いです。
財務省の法人企業統計調査年報によると、2020年において、大企業は一人あたり年間1200万円の労働生産性がありますが、中小企業は一人あたり年間520万円の労働生産性しかありません。
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou07.htm
つまり、仮に中小企業と大企業で同じ事業を行って競争する場合、2倍以上生産性が低いため、薄利となって次第に競争に勝てなくなり、体力勝負で大企業には負けやすくなるのです。
2-3 リスク分散がしづらい
中小企業は事業領域が限られているので、リスク分散しづらいです。
大企業は多くの商品や事業領域を扱っているので、1つの商品や事業がうまくいかなくても、会社の存続を揺るがす大きな影響とはなりません。大企業でも存続が危うい状態となっていれば、その市場は急激な衰退市場だという事ですが、早々ありません。
しかし、中小企業はメインの商品や事業が1つであることが多く、1つの事業がうまくいかなくなってしまった場合、会社の存続に大きく影響を及ぼす可能性があります。急激な時代の変化や技術革新によって、商品やサービスが置いていかれない様に、少しずつ事業領域を広げていく必要があります。
2-4 人材を揃えにくい
中小企業は従業員数が少ないため、多様な人材を揃えにくいです。
大企業は従業員数が多く、多様な経歴や得意分野を持つ人材が集まってきます。事業領域も多岐にわたり、間接部門も多いため、様々な専門能力を持つ社員が揃っている事が多いです。
一方で中小企業は従業員数が限られるため、一人で何でもできる人材が重宝され、結果として多様な人材を揃えにくくなっています。しかし、近年では副業する人材が増えていたり、クラウドワークスで業務を依頼する等の社内には不足しているリソースを外部から揃えることもできます。
2-5 資金力がない
中小企業は資金力がありません。
大企業は知名度と信頼性、収益力と財務の安全性が高く、投資家や金融機関からの信用が得やすいため多額の資金を集めることができます。
また、規模の経済を活かしコスト削減と効率化を実現することで資金を蓄積しやすい体質となっています。
一方で中小企業では、オーナー企業である事が多いため投資家から資金調達することはほとんどありません。また大企業に比べて財務の安全性が低いため、金融機関からの信用が得にくく、多額の資金を集めることが難しいです。事業に投資した資金が回収できない場合、資金力の乏しい中小企業は企業の存続すら危ぶまれてしまいます。
2-6 大規模事業を行いにくい
中小企業は大規模な事業を行いにくいです。
大企業は資金力が豊富であり、大規模な投資や設備導入、研究開発への資金投入がしやすいため、最新の技術や大規模な生産施設を整備でき、高品質な製品やサービスを大量に提供できます。
さらに人材が豊富で専門的なスキルや知識を持つ社員が多いため、大規模なプロジェクトをそれぞれの専門分野で効率的に行うことができます。
一方で中小企業は資金力が限られており、大規模な設備投資や研究開発に必要な資金を調達するのが難しいです。中小企業にとって、多額の資金を投資して万が一資金が回収できない状態に陥ると、とたんに企業存続が危うくなってしまいます。
そして、そもそも現在小規模な事業を行っているため、大規模事業を行ったノウハウが溜まっていない事が多いです。大規模事業には、お金や人材だけでなく、それだけの事業を行えるチームづくりやスキルセットが必要となりますが、一朝一夕では身につかないため、中小企業では大規模事業を行いにくくなっています。
3.中小企業の強みを活かした浜野製作所の事例
中小企業の強みを活かした中小企業の事例を紹介します。
東京都墨田区に拠点を構え、少量多品種の部品加工、精密装置開発、研究開発支援を手掛ける浜野製作所様です。
3-1 工場全焼を乗り越え、大企業やスタートアップから必要とされる中小企業へ
浜野製作所様は2000年当時、隣家からのもらい火で工場が全焼し、従業員はたった一人、その従業員にもお給料が払えないという状況でした。
火事の保障金も見込まれず、当時の浜野社長は寝る間を惜しんで現場で作業し、なんとか会社を存続させる日々が続いていました。
そんなあるとき、1件の依頼を受けます。
「半身不随の6歳の娘の誕生日にパイプの歩行トレーニング器具をプレゼントしたい」という依頼でした。
お客様の熱い姿を見て、当時の社長はなんとか力になってあげたいと思い、開発へ移ります。やがて商品が出来てお客様にお渡しした後、熱い感謝の思いが込められたメールを見て「こんなにもやりがいのある仕事があるんだ」と感じた社長は、「絶対にこういう仕事をしよう」と決意します。
この出会いをきっかけに、装置開発や設計開発をしたいと思うようになります。けれども、やったこともなければ、人材も採用できないし分からない。そんな時に電気自動車の話を提案されました。電気自動車のような最終完成商品は、部品加工もありますが、電気のことや制御のこと、素材、組み立てなど、ものづくりの要素が全て入っています。ですから、社長が中心に入って取り組みました。この取り組みが功を奏し、開発できる人材の入社が決まり、大々的に開発事業を進めていきます。
それから事業はうまく進み、現在では最先端の技術を持つスタートアップ企業の支援事業や、大企業の新規商品の開発と技術力が高く、高付加価値な事業を行い、ものづくり大賞を初めとした多くの賞を受賞しています。また浜野製作所の関係11社が「世界を変えるスタートアップ100選」に掲載される程、お客様に貢献しています。
3-2 活かした強み~経営の柔軟性~
浜野製作所様は、経営の柔軟性が活かされて事業の再興が成功しました。
工場は全焼、従業員は1人という状況から女の子へのパイプの制作をきっかけに、開発事業へと移行しました。当時は金型部品加工だけという所から、事業を柔軟にシフトさせることで、それまでの事業構造を変え、高収益型事業構造へと会社を生まれ変わらせました。
このように、お客様の状況、自社の持つ経営資源を良く把握して自社の方向性を柔軟に変えていくことで、会社を生まれ変わらせることができます。
3-3 活かした強み~意思決定から実行までが早い~
中小企業の強みである意思決定の早さが活かされ、事業展開が成功しました。
特に開発事業という点では、お客様との打ち合わせの中で、会社としての判断や案件を受けるかどうかという意思決定が求められ、その後はスピード感を持った業務が求められます。
浜野製作所様は、現場に社長が出て意思決定を行い、社長と社員間の距離感も近いためスムーズに事業を進めら、スピード感をもって進める事が出来ます。
その結果、最先端の技術を持ち、スピード感が求められるベンチャー企業等にも高付加価値サービスを提供できています。
古田土経営と浜野製作所様のインタビューはコチラ
https://www.kodato.com/blog/p7805/
4.中小企業は強みを活かして生き残ろう
中小企業は、大企業に比べて資本力や従業員数が少ないですが、中小企業にしかない強みを活かせば大企業にも負けずに、お客様に選ばれる企業になりえます。
多くの中小企業は、弱みばかりにフォーカスしてしまいますが、考え方を変えて強みがどこにあるのか、どのように活かすのかフォーカスすることによって、事業が発展していきます。
名だたる大企業も元々は中小企業でありました。
一人の社長から会社が始まり、少しずつ企業が大きくなり、年数を経て、大企業へと生まれ変わったわけです。中小企業だから市場で生き残れない、成長できないという事はありません。正しく自社の強みを理解して、強みを活かしていく事で、会社を成長させていく事が出来ます。
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