(はじめに)
近年、少子高齢化による労働人口の減少や物価高騰によって、これまで以上に人手不足が進んでいます。中には、人手不足が原因で倒産している中小企業も中にあるほど、甚大な影響を及ぼしています。
そこで本記事では、中小企業の人手不足の実態や人手不足対策、そして人手不足の予防策を
紹介します。
1. 中小企業の人手不足の今「人手不足」の回答割合は68%
日本商工会議所が全国の中小企業を対象に実施した「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」の結果を示しました。
こちらの結果によると「人手が不足している」との回答が68.0%までのぼり、2015年の調査実施以来最大となっています。全国にある中小企業のうち、約7割が人手不足であり人手不足ではない企業の方が少ないのが実態である事が分かります。
また、コロナ禍の期間は、人手不足感は一時的に収まったものの、その後は再び上昇し人手不足が悪化しています。
2. 中小企業の人手不足社会の未来
既に人手不足が悪化してきている中小企業の実態ですが、実は今後も人手不足が続く見込
みが予測されています。
2-1 15年後の生産年齢人口は17%減、30年後の生産年齢人口は現在の30%減
総務省の令和4年版高齢社会白書によると、2025年の生産労働人口は7,170万人程ですが
約15年後には約1,080万人減少し5,978万人になり、30年後には1,600万人程減少し、
5,028万人になると予測されています。
つまり15年後には生産年齢人口が17%減少し、30年後には30%も減るわけです。
2₋2 15年後の新卒人数は現在の15%減
厚生労働省の出生数・合計特殊出生率の推移によると2000年生まれ(執筆時新卒23
歳)の出生数が119万人である一方、2015年の出生数は100万人、2040年は74万人にまで
減少すると見込まれています。
同じ新卒採用をしようとしても、15年後には新卒の社会人が15%減少するわけですから、
次第に新卒の採用市場の激化が必然であることは明らかです。
参考:厚生労働省「出生数、合計特殊出生率の推移」
2₋3 15年後の企業数は2025年の7.6%減
一方で企業全体数の推移予測を見てみると、減少割合は大きくありません。
「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月より、
全国の企業数を推移予測されたデータをグラフに表しました。
2015年から2025年にかけては、企業の減少推移予測が大きいですが、2025年以降は減少
傾向は緩やかになっています。
以上、上記3点を踏まえると、企業数の推移予測に対して、生産年齢人口、新卒人数は
急速に減少していく事が分かります。
次第に人材獲得競争は激しくなり、これまで通りの採用の仕方、働き方を余儀なく変更され、時代に追いついていけない企業はますます厳しい立場になってしまいます。
3. 大企業と中小企業で異なる「人手不足」の深刻さ
企業規模の大きさが異なる大企業と中小企業では、ひとえに「人手不足」と言っても、その
深刻さが異なります。
以下に、実際のデータを示しています。
3₋1 大企業(従業員1000人以上)と中小企業(従業員30-99人)では2.8倍の人手不足の差
2022年雇用動向調査によると、人手不足を感じている企業は1000人以上の企業は
100人あたり1.6人不足、5-29人の企業では100人当たり3.5人不足となっています。
つまり大企業は1人で人手不足を埋められても、中小企業ではまだプラス1.9.人分人手不足である程、人手不足に差があるということです。つまり、この状態が続けば続くほど、「中小企業は更に人手不足」という状態が慢性化し、更に人手不足を呼び起こすという悪循環が続きます。
3₋2 大企業と小規模企業の労働分配率は1.5倍の差
労働分配率(付加価値額÷人件費=労働分配率)を企業規模で比較した表を以下に示しました。2022年版中小企業白書によると、2020年度の労働分配率は大企業で57.6%、中規模企業で80.0%、小規模企業で86.5%となっています。
上記から分かるとおり、同じ付加価値額を生み出すにあたって大企業は57.6%を人に依存し、小規模企業では86.5%も人に依存しています。
この2者を比較すると86.5%÷57.6%=1.5倍の差がある事が分かります。つまり、同じ付加価値を生み出そうとしても、小規模企業では大企業の1.5倍の人手が必要という事を示します。
4. 大企業と中小企業で「人手不足」の深刻さが異なる3つの原因
大企業と中小企業で人手不足の深刻さが異なる原因は主に3つあげられます。
それは「労働環境」「事業効率」「資金力」に課題がある事です。
労働環境
中小企業では、従業員に対する福利厚生やキャリアプランを示していない事が多いです。
大企業が提供できるような厚生施設や福利厚生を導入する余裕がない場合もありますが、
現場での慢性的な人手不足が続いているため、従業員のトレーニングやキャリア開発の支
援が追い付いていないのが実態です。
その結果、いつまでも社員の労働環境の改善にメスをいれられず中小企業は競合他社よりも優秀な人材を獲得しにくくなり、従業員の定着率が低下して、人が集まらなくなっていってしまいます。
事業効率
中小企業は多くの場合、効率的な業務プロセスや仕組みを構築できていない事が多いです。
組織が小規模であるため、業務の自動化やデータ分析ツールの導入をしなくても、社長が現
場全体が見えているから導入しないという判断されがちですが、実際に分析ツールや自動化を見直す機会を設けるだけでも自社のムリムダムラが見つかります。
また、中小企業は従業員数が少ないため、各従業員が複数の業務を担当することがよくあります。これにより、従業員が常に複数の業務を抱え、業務に必要な専門知識が身につかず、生産性が低下している可能性もあります。
その弊害として、抱える業務の負担増が引き起こされ、安月給なのにどうしてこんなに働かなきゃいけないんだと見限られ、人が集まらなくなってしまいます。
資金力
中小企業は資金力が不安要素の一部となっていることが多いです。多くの中小
企業の資金調達方法は銀行からの融資ですが、逆に言うと常に銀行に返済していかなけれ
ばならない状態で事業を行っています。そのうえで商品を仕入れ、税金を納め、社員さんに
従業員を支払い、必要な経費を払っています。
時代として賃上げが進み、採用費用の高騰が続くと、あまり採用にお金をかけられなかった会社は、時代についていけず、銀行への返済で手一杯、事業に投資をしようとしてもお金が無い、人が辞めるので社長が現場に出なければならないという負のスパイラルに陥ってしまいます。
5. 今、人手不足が深刻な中小企業が取り組むべき人手不足改善策
人材不足を解消するためには、組織全体から見直しを図る必要がありますが、お金が余りかけられない中小企業にとっては、あれもこれもと対策ができません。
そんな時こそ、中小企業に効果的な対策は「やらない業務を決める」ことです。無駄な資料の準備や、必要以上の情報収集、利益の生まない会議、1人でできるのに2人で取り掛かっている業務は無いでしょうか。
5-1 お金をかけずに業務の見直しで人手不足を解消する
まずは、現在各部署で取り組んでいる業務内容を書き出しましょう。
各部署でどの業務に、誰が月に何時間業務に取り組んでいるのかを見える化すると、業務の全体像が見えるようになります。大きな業務の塊も細かく分類して、業務自体に名前を付けて、作業時間の記録を付けることで、俯瞰して見えるようになります。
そして、その業務全体を把握し、やらなくてもいい業務が無いかを見つけましょう。必ず一つはやらなくてもいい業務が見つかるはずです。多くの企業の場合は「二度手間」である事や「距離が遠い」事が多くあるはずです。
次に、これ以上やめられない業務が無い場合、他の誰かでもできる業務が無いか見つけましょう。
比較的単純な作業であれば、外部委託やアルバイトの方でもできます。毎月のルーティン作業や比較的重要でないコピーやスキャン作業等はアルバイトさんに任せることができます。
多くの中小企業の場合、現在の業務内容を書き出して、全体像を俯瞰し、やめられる業務が無いか、誰かに依頼できる業務が無いかをピックアップするだけで、かなり省力化が計れます。まずは業務全体を紙に書き出すだけで、お金もかけず、効果を実感することができると思います。
6. 未来の深刻な人手不足に対して取るべき人手不足予防策
人手不足な未来が待っている事は二章の労働生産人口推移や出生数の推移から見ても明らかになっています。
ですから、今は人手不足じゃないと感じている中小企業も人手不足予備軍と言えるわけですが、実際にどんな予防策を講じていけばいいのでしょうか。
6-1社員を大切にする
それは「社員を大切にする」ことに限ります。
「社員を大切にする」ことを経営の重要な指標とし、あらゆる施策が最終的に社員の幸せに結びつくような経営体制を築き、実際に行動する事で、社員からの満足度があがり、人が集まる会社へと変わっていきます。満足度の高い社員は、お客様に喜ばれるようになり、より高付加価値なサービスへと変わっていきます。
そのためには、利益が出ず給料が低いと感じる会社は、社員のために利益がでる事業へとへとシフトしていかなければなりませんし、労働環境を変えていかなければなりません。
常に、目的に「社員を大切にする」を据えることで、社員は社長のために頑張ってくれますし、事業が大きくなっても会社の方向性が間違えることはありません。
「社員を大切にする」経営を実施するには、大企業よりも中小企業の方が向いています。そもそも少ない人数ですから、社員の満足度が高ければ、会社が一丸となって事業に取り組むことができるのです。
そのスタートを切って会社の舵を取れるのは、中小企業の場合、社長ただ一人です。社長が先導をきる事で社員はついていきます。
6-2 人を大切にする経営学会
人を大切にする経営学会では毎年、「人を幸せにする経営」をしている中小企業を表彰し、世の中に人を大切にする会社が増える取り組みを行っています。
このうちの「人」の一番初めに来るのは「従業員とその家族」です。
未来の人手不足社会に対して「社員を大切にする」ことを目指していきたいという方は以下のリンクから、人を大切にする経営学会をご確認ください。
7. まとめ
中小企業の課題である「人手不足」という課題に対して、短期的にお金をかけずに解決する方法と、未来に向けた予防策を紹介しました。
多くの中小企業が抱えている課題ですし、これからより深刻な課題となっていきます。今のうちから、その予防策としても経営姿勢を「社員を大切にする」「人を大切にする」へとシフトしていき、本質的に人が集まる会社へと生まれ変わるように会社を変えていきましょう。
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