経営において「戦略が大事」ということについて疑義がある方は少ないと思います。
そもそも「戦略とは?」ということで、「戦略」を辞書で調べるとこのような内容となります。
1 戦争に勝つための総合的・長期的な計略。スポーツの試合においても用いる。
2 組織などを運営していくについて、将来を見通しての方策。
[補説] 具体的・実際的な「戦術」に対して、より大局的・長期的なものをいう。
しかし、これで戦略を理解し、戦略が立てられるようになるでしょうか?
経営戦略の定義や考え方ついては明確にイメージできる方はそう多くないと感じます。
また、MBAや中小企業診断士の勉強をすれば戦略が立てられるようになるか?
中小企業に絞ると、これまでの経験上、それも難しいと感じます。
どちらも理論的なことや戦略を考える際の切り口を学び、ケーススタディを通してディスカッション等も行いますが、どちらかというと机上の空論(頭でっかち)になりがちです。
それはなぜかと言うと、様々な経営資源が不足している中小企業の現場や特徴を前提としていない、もしくは理解していないからです。
私も中小企業診断士ではありますので、決してMBAや中小企業診断士の学びが役に立たないとうことではありません。むしろ役に立つと実感しています。
一方で、経営者でもMBAを学んでいるからよい戦略が立案できるかといったら逆のケースも多いのが現実です。現実的に実行可能なレベルまで落とし込まれているのか、社員・お客様にどのように伝えるのか、といった観点で考えるとそのような傾向があるのではないかと現場で感じている次第です。
そこで、今回は「経営戦略とは何か」を改めて整理した後に中小企業でも比較的簡単に戦略を考えられるような「戦略の立て方」のメソッドを紹介していきます。
1.経営戦略とは
1.1 経営戦略の定義
まず、戦略と言いましても、全社戦略、事業戦略、部門の戦略等階層がありますが、今回は全社戦略の部分について説明していきます。
戦略の定義は様々ですが、全社戦略の観点でいいますと例えば以下のような定義があります。
戦略とは、特定の目的を達成するために、長期的・大局的視野に基づいて組織行動を立案・遂行するための策略のことです。
株式会社日本M&Aセンター HP
企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく設定された大局的な方針
グロービス経営大学院
「経営戦略」とは、企業が競争環境の中で自らの経営目的・経営目標を達成するための方針や計画全般を意味する。
HRpro
経営戦略とは、企業が置かれている経営環境の下、企業の目的(目標)を達成するためのシナリオ(打ち手)のこと。
日本の人事部
戦略とは、目的を達成するための資源配分の選択。
「目的」を達成するために「資源」を配分する「選択」のこと。
何か達成したい目的を叶えるために、自分の持っている様々な資源を、何に集中するのかを選ぶこと。
KADOKAWA 森岡毅著「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」より引用
いかがでしょうか。
当然ですが、どれも正解です。共通していることは「目的や目標」に向かって、「どのような方針(ストーリー)」を立てるかということだと思います。
そして、それをもう少し分かりやすくまとめると、
戦略とは、目標と現状とのギャップを明らかにし、それをどのように埋めていくかという
方向性を明らかにすることであり、何が1番で何が2番かを決定すること。
|
と言えます。
言い換えれば、「目標」に向かって「対策・方針」を明確にし「優先順位をつける」
という3つの要素が含まれる概念とも言えます。
「対策・方針」は主にどのように「差別化」を図っていくか、「優先順位をつける」とは、「選択と集中」とも言えます。
そして、これは会社のTOPのみが決定するものです。
優先順位について、例えば、古田土会計の場合で考えてみます。
「会計事務所」という職種で考えますと、
会計監査と申告業務のみか周辺業務も行うか、周辺業務を行う場合はどこまで行うか(例 経営計画書、相続、労務、保険等)など様々な業務があります。
しかし、当然一度にそれを全て行うことはできません。
そこで、使命感や理念や中期計画に基づいて優先順位をつけていきます。
その際に、インパクトの大きさや時間軸も用いるとよりよいです
ただし、一般的にはインパクトが大きく時間のかからないものを優先させますが、あえて時間がかからずインパクトの小さいものから行うという場合もあります。
古田土会計の場合は、月次決算書と経営計画書を柱としながら、保険、労務と広がり、ここ最近ではコンサル事業(経営計画書作成合宿や同業者向けのコンサル)、事業承継対策と順番に成長拡大を行ってきました。この時にはインパクト・時間軸を意識したかというとあまりそうではなく、「お客様の要望(ニーズ)」を意識した方が大きいです。
1.2 戦略と戦術の違い
戦術とは、やり方・道具であり、全社員が頭を使うものです。トップも新入社員も関係ありません。
戦術で全員参加型経営を目指します。
戦略との関係性や流れ、違いを図示すると以下のようになります。
1.3 戦略の誤りは戦術ではカバーできない
経営者の戦略が誤っていると、人の倍は働いても利益は出ません。会社をつぶすこともあります。
逆に、戦略が正しいと遊んでいても利益は出せます。
また、の図のポイントは、未来像(ビジョン)は戦略・戦術・目標数値それぞれとつながっていますが、
戦略・戦術・数値は一方通行の矢印になっている点です。
つまり、戦略の誤りは戦術ではカバーできないということにあります。
2.古田土式 中小企業の戦略作成の手順
戦略の定義は1章で述べた通りですが、実際に中小企業が活用できるレベルに落とし込んでいくにあたっては、
・どこの市場で
・何を提供し
・ライバルとの「差別化」をどのように図っていくか
が大きなポイントとなります。
以下、この流れに沿って説明していきます。
2.1 現状分析
まずは、業界の流れや自社の立ち位置を確認し、どこの市場に進んでいくかを明らかにするために現状(環境)分析を行います。
その際に有効とされている分析方法ではSWOT分析、3C分析、5フォース分析などとなります。
この辺りを詳しく知りたい方は検索してみて頂くとすぐに出てきます。
しかし、SWOT分析で「これは弱み?脅威?」ですとか「強み?機会?」といった細かい部分に捉われすぎないように注意してください。
意外とよくある質問の1つですが、自社にとってプラスの要素、マイナスの要素というくらいシンプルに考えた方がよい場合もあります。
以下に古田土会計の例の一部を示しますが、明確に「SWOT」として表しているわけではありません。
2.2 ドメインの設定
次に、どこの市場でどのように戦うのかを検討します。
ドメインとは自社の事業活動療育のことで、ドメインを定義する考え方として、1980年にD・F・エイベルが、顧客層(市場)、顧客機能、技術の3つの次元で事業を定義することを提唱しました。
簡単に表現すると以下のようになります。
① 誰に ② 何を ③ どのように提供するか |
例えば、古田土会計で表すと
① 日本中の中小企業に ② 元気を ③ 経営計画書と月次決算書を通じて提供する |
となります。
ポイントは、②です。
ここを「モノ」ではなく「コト」で表現することがとても重要です。
なぜなら、②を「モノ」で表現してしまうと、モノの寿命=企業(ビジネス)の寿命となってしまう恐れがあるためです。
例えば、化粧品を販売している会社が②(何を)について「化粧品」と定義している会社と「美と健康」と定義している会社をみてみましょう。
「化粧品」と定義している会社は今後のビジネスの展開を考える際に、「新しい化粧品」という発想となり化粧品の世界からなかなか抜け出しにくくなります。
一方、「美と健康を追求する」となると、化粧品の販売以外にも健康食品の販売、エステ、美容整形外科。美と健康によい旅行、資格の学校など様々な発想が出てきます。
つまり、後者の方が存続期間が長くなる可能性が高いということになります。
2.3 ペルソナの設定
ドメイン(標的市場)の設定ができたら、「誰に」の部分をさらに具体的・明確にしていきます。
古田土会計の例を参考に考えてみてください。
ここでの重要なポイントは、BtoB、BtoCに限らず「お客様が抱えている悩み」を言語化することです。
個人の場合は年齢・性別・家族構成・趣味趣向など、法人の場合は規模や場所、業種・職種等できるだけ細かい条件でペルソナを設定することも大事ですが、一番は「こんなことで悩んでいる、困っている」という要素が入っていることです。
これが入ることにより、より商品やサービスが絞り込みやすくなっていきます。
2.4 自社のポジショニングの確認
続いてポジショニングです。
この目的はライバルがいない市場、戦いやすい市場はどこかを探すことと、自社がどこの市場で戦うのか=差別化の要因を明確にすることです。
よくあるポジショニングの軸は「価格×品質」の2軸ですが、以下の3つの要素で考えてみるとよいですが、2,3でのペルソナの設定(悩み)が明確になっていると軸を作りやすいと思います。
・購買決定要因
顧客の購買判断に影響を与える製品やサービスの特徴・機能など
・購買の要因(決定要因からさらに絞り込む)
購買の決め手となるものを絞り込みます。絞り込むためには、ターゲットを明確に設定します
→2.3が大事になります。
・競合他社と比較する
また、軸は縦横1種類ではなく、何種類も試してみるとその中で「これ!」というものが見つかる場合がありますし、古田土会計のように3次元で考えてみるのもありです。
2.5 他社と差別化できているポイントを言語化する
ポジショニングマップで差別化の要因が明確になったら、それを言語化していきましょう。
以下は、古田土会計グループと一般的な会計事務所の違い(差別化)についてまとめたものです。
このようにまとめていくと整理がしやすいと思います。
目的や商売の発想法など業界問わず使えるものがあると思いますので、是非作成してみてください。
2.6 商品の特徴と差別化要因をまとめる(商品に関する方針)
2.5は全体的なスタンスでの差別化をまとめるものですが、それを商品に落としこんだ時に何が差別化されているのかを明確にします。
要因(縦軸)は古田土会計のものを参考にしていただいてもよいですし、ポジショニングマップを考える際にでた軸などで独自に作成してみてもよいです。
ここでも大切なポイントは、「ペルソナの悩みが解決できるか、出来そうかどうか?」という観点で作成できているかどうかです。
2.7 今期新たに取り組むことをまとめる(新規事業に関する方針)
ここまでは既存の商品・サービス関するものをどうまとめ上げるかが主でしたが、当然新商品・サービスの開発も重要となってきます。
新規事業を考える際に参考になるのがアンゾフのマトリクスです。
商品と市場の組み合わせで考えます。
中小企業の場合は以下の順番で考えることをお勧めします。
① 市場浸透戦略:現商品(サービス)のシェアを向上させる
② 新商品開発戦略:新商品(サービス)を現市場に投入する
③ 市場開拓戦略:現商品(サービス)を新市場に展開する
④ 多角化戦略:新商品(サービス)を新市場に展開する
但し、④の多角化戦略はリスクが高くなるため中小企業にはあまりお勧めできません。
古田土会計で考えるとこのような形になります。
① 市場浸透 ⇒顧問契約を増やす
② 新商品開発 ⇒労務サポート契約・事業承継サポート等を既存のお客様に展開する
③ 市場開拓 ⇒古田土会計のノウハウを会計事務所業界に展開する
Webでの対応が可能となり、地域の制約が外れたため北海道~沖縄まで展開
2.8 高収益型事業構造になるかどうか数字でシュミレーションする
最後に、ここまでで出てきた商品・サービスの展開を数字に落としこんで確認してください。
高収益型事業構造とは、「能率や合理化」=「コスト削減」で利益を出すという発想ではなく、いかに付加価値(粗利益額)を稼ぐか、ということです。
そのために付加価値の高い商品・サービスを作り、増やす=売上を増やす、ということです。
つまり、この商品やサービスではどのくらいの粗利益額が稼げるのかを検証することです。
具体的には、実際に売上・粗利益がどのくらいになるのか?最終的な利益は?その売上・利益を出すために係る費用(変動費・固定費)はどのくらいか?人の採用は必要か?等々です。
その結果、かかる経費の方が多ければ効率(費用対効果)は低いということになりますが、それだけでその取り組みを止めるかどうかは別です。
かかる費用(投資)を未来費用として捉え、将来的にそれが回収され、高収益型の事業構造になる見込みがあるのであれば、取組む価値はあります。
2.9 優先順位をつける
ここまで差別化、新商品・サービスの考え方についてみてきました。
最後は、ここまで挙げてきたものに「優先順位をつける=何を選択し・集中するか」を明確にすることです。
特に、2.7で挙げた新商品・新サービスについては必要となります。
思いついたものを全て実施することは経営資源(ヒト・モノ・カネ)の分散につながるので避けましょう。
優先順位をつける際の主なポイントとしては以下の通りです。
① ミッション(使命感・理念)に則っているか?
② お客様の需要(ニーズ)があるか?
③ 業績に与えるインパクト=高収益型事業か否か(粗利益とコストの比較)
④ 資金に与えるインパクト(資金繰りは問題ないか)
⑤ 時間軸(時間がかかりそうか否か)
これ以外にも人材の確保や組織形態などもありますが、課特に中小企業は限られた経営資源の中でのやりくりが必要となりますので、今ある人材・資源でできるかどうか?最大限に活かせているか?という観点が必要となってきます。
3.経営戦略に関するQ&A
3.1 戦略は組織に従う?組織は戦略に従う?
よくある疑問ですが、企業の目的はミッション・ビジョンの達成と考えると
「戦略は経営理念やミッション・ビジョン・バリューに従う」
そして、その戦略を実行するために必要な組織を整える、と考えると
「組織は戦略に従う」
という考え方がしっくりくると思います。
3.2 経営戦略と事業戦略の違いは?
経営戦略は、組織全体これは、企業がどのような分野に参入するか、どの事業領域に焦点を当てるか、資産の構成をどうするかなど、組織全体の方向性と範囲を決定するものです。成長、多角化、組織構造などを含みます。
一方で事業戦略は全社戦略をA事業・B事業・C事業など事業ごとに落とし込んだものとなります。
事業部制であればその事業部の戦略となり、主に事業部長が戦略を考えることになります。
3.3 経営戦略が学べる本は何か?
経営戦略は様々なもので学ぶことが可能です。
・書籍から学ぶ
戦略に関する書籍は戦略論、事例を中心とした戦略の解説など本当に多く出ています。そのため、本屋
で中身を確認してから購入する、まずは本の要約サイト等で読み、より深く知りたければ購入するとい
ったこともおすすめです。
その中でもお勧めの本を3冊挙げさせて頂きます。
「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」 森岡毅著 KADOKAWA
「エッセシャル版 マイケル・ポーターの競争戦略」 ジョアン・マグレッタ著 早川書房
「ストーリーとしての競争戦略」 楠木健著 東洋経済新報社
4.まとめ
以上、経営戦略についてまとめてきました。
経営戦略自体はとても幅が広く、かつ深い分野です。従いましてこちらの記事が全てではありませんが、
中小企業経営者の皆様が「戦略を考える」際のヒントやひな形として活用していただければと思います。
いかがでしたか?お気に召したのであればシェアはこちらから。