ESG経営とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を経営の指針等とすることであり、ESG投資という使い方もされます。
一方で、SDGsやサスティナビリティ経営など同じようなイメージの言葉もあります。
そこで今回は、ESG経営の定義や事例、類義語との違いや整理を通じてESG経営のイメージをつかんでいただければと思います。
また、どちらかと言えば大企業が取り組んでいるイメージも強いかもしれませんが、中小企業においても今後取り組む必要性が高くなることが予想されますので、中小企業の取組状況も踏まえ、取り組む際の課題や方法について解説していきます。
1.ESG経営とは?
1.1ESG経営の定義
ESG経営とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を組織の経営戦略や活動の指針にすることです。
3つを具体的に表すと以下の通りです。
環境(Environment):再生可能エネルギーの利用促進や温室効果ガスの外出削減など、組織が自然環境に対して責任を持ち、環境への影響を最小限に抑えるよう取り組むこと。
社会(Social):人権の尊重や多様性の受容、労働条件の向上など、組織が従業員、顧客、コミュニティ、およびその他のステークホルダーに対して責任を持ち、彼らの権利や福祉を尊重し、社会的側面での持続可能性を追求すること。
ガバナンス(Governance): 内部統制の強化など、組織が透明性、公正性、責任性、および企業行動の適切な監視を確保するための体制や慣行を整備すること。
そして、ESG経営は、単に利益追求だけでなく、社会的責任や環境への配慮も経営活動の中心にすることで、持続可能な価値の創造を目指すアプローチです。
1.2 ESG経営が進んできた背景
ESG経営が注目され始めたきっかけは、特に90年代以降企業が利益拡大を追求した結果、さまざまな環境問題や労働問題、経済格差等の社会問題が発生したことです。
そして、本格的に普及し始めたのは「ESG投資」という言葉が登場してからであると考えられます。
この「ESG投資」は、2006年に国連事務総長のアナン氏が提唱した「PRI(責任投資原則)」がきっかけと言われています。
参考
2.ESG経営と類義語の関係性
2章では、類義語との関連性や違いを解説していきます。
まず、前提として各言葉の位置づけを図のように整理しました。こちらをイメージしながら読み進めて頂けるとよいと思います。
2.1 ESG経営とSDGs
ESG経営は、企業が自らの経営戦略や活動において、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を統合するアプローチであることに対し、SDGsは、国際連合が提唱した17の目標であり、2030年までに世界の持続可能な開発を達成することを目指しています。
つまり、ESGは投資家への配慮としての性格が強く、SDGsの方が社会的に見た場合には上位概念であると言えます。
2.2 ESG経営とサスティナビリティ経営
ESG経営は、投資家や株主などのステークホルダーとの関係性や企業の長期的な持続可能性を重視します。対して、サスティナビリティ経営はより広範囲な視点を持ち、将来の世代に対する責任を強調し、持続可能な開発を通じて社会的・環境的価値を最大化することを目指します。
つまり、サスティナビリティ経営が戦略であり、ESGは戦術や行動指針と言えます。
2.3 ESG経営とCSR
ESG経営は上述の通り、企業の経営戦略における環境、社会、ガバナンスの要素を強調し、投資家や株主などのステークホルダーとの関係性や持続可能な価値の創造を重視します。対して、CSR(企業の社会的責任は、企業が広範な社会的活動や倫理的な行動に責任を持つべきであるという考えに基づいていおり「責任」の範囲を重視している考えです。
3.ESG経営の事例
3章では、ESG経営の事例として3社紹介します。
①トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車では、「サスティナビリティ基本方針」を定め、ESGの各項目について具体的に「ありたい姿」と「取り組み事項」が解説されています。
トヨタ自動車株式会社HP
https://global.toyota/jp/sustainability/?padid=ag478_from_header
https://global.toyota/jp/sustainability/esg/human-rights/?padid=ag478_from_header_menu
②株式会社ファーストリテイリング
ファーストリテイリングのサステナビリティステートメントは、「服のチカラを、社会のチカラに。」です。私たちが取り組むべき重点領域として6つのマテリアリティを定めました。私たちは、これらの実践に向けて真剣に取り組んでいきます。 |
として、ESG各々の取組を解説しています。
③ヤマトホールディングス株式会社
ヤマトホールディングスでは以下のように「ESGに関するデータ類」ということで人材関連データ、企業市民活動関連データ、情報セキュリティ関連データ、環境データ、コーポレートガバナンス関連データというカテゴリーごとに指標の公開を行っています。
4.中小企業におけるESG経営
4章では、2022年7月に商工中金が行った「中小企業のESGへの取組状況に関する調査」を元に解説していきます。
4.1 中小企業におけるESG経営の取組の現状
まず、中小企業の取組状況から見てみると、全く取り組んでいいない企業はわずか2.9%であり、ほとんどの企業が何らかの取り組みを実施しています。
その中でも取組が多いこととしては、労務環境対応(残業時間削減・有給休暇取得促進など)や財務・会計管理体制整備(月次決算のスムーズな作成など)です。
お分かりの通り、皆さんが既に取り組んでいる事も多いのではないでしょうか?
「ESG経営」と明確に歌っていなくても取り組まれていることも多いとおもいますので、それを元に「ESG経営」「ESGの取組」としてまとめてみることもよいかもしれません。
商工中金 2022年7月「中小企業のESGへの取組状況に関する調査」
商工中金 2022年7月「中小企業のESGへの取組状況に関する調査」
古田土会計グループでも残業時間の削減などの働き方改革、従業員満足度調査、女性活躍、経営計画の策定、月次決算等を実施していますので参考に資料を載せておきます。
こちらでは「人的資本経営」としていますが、これも「ESG経営」の一環といえます。
4.2 ESG経営を取り組むための課題
続いて課題です。課題としては、どの分野においても「情報不足」が挙げられており、続いて、環境分野ではコスト、社会・企業統治の分野では人材不足が続いています。
商工中金 2022年7月「中小企業のESGへの取組状況に関する調査」
一方で、中小企業においては、ESGに関わらず常にヒト・モノ・カネ・情報の不足があると考えた方がよいかもしれません。その上で、どのような事業戦略を描くか、事業構造にするか、社内体制を構築するか、やるべきことの優先順位をつけていくか、という視点も大切になってきます。
そして、自社だけで取り組むのではなく他社と協力・共同して進めるのも一つの選択肢かもしれません
5.ESG経営の進め方
ESG経営を推進していくにあたり、大切なことは「PDCA」をしっかりと回すことです。
そのためには、「経営計画書」の作成・運用をお勧めします。
5.1 方針を定める(P)
まず、会社としてESG経営に取り組むことを決定し、どのように進めるのかを具体化することです。
その際に、4章で解説した通り、労務環境対応(残業時間削減・有給休暇取得促進など)や財務・会計管理体制整備(月次決算のスムーズな作成など)の取組が中小企業では多い一方、人材不足が課題となっていますので、推進責任者及び担当者、KPIの設定を行うことをお勧めします。
また、以下の図にあるように簡単なことから始めることがポイントです。
ダイヤモンド社「PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント」
ジョージ・セラフェイム著・倉田幸信訳
注意点は、会社の経営理念や使命感、MVVから外れないようにすることです。「ESG」だけに目が行って本末転倒にならないようにしてください。
5.2 社内外に周知し、実施する(D)
方針が決まったら、それを社内外に周知することです。
その際にお勧めなのは「経営計画書」の作成です。更に 、「経営計画発表会」を開催して関係者を呼ぶと尚伝わりやすいです。
そして、設定したKPIに向かって実施です。
参考 毎年1,000社超の企業に指導してきた経営計画書の書き方
5.3 チェック・改善(C・A)
実施した結果を定期的に、出来れば月に1回は振り返る場を設けるとよいです。
・先月取り組んだ結果はどうだったか?
・出来たことやよかったことはなにか?
・出来なかったことや改善点は何か?
・なぜ出来たのか?
・どうしたらできるようになるのか?
等をメンバーで振り返って次の行動に結びつけてください。
その際に、「なぜ出来なかったのだろう?」「それはなぜ?」等と「なぜ」を繰り返すことも大切ですが、やりすぎると詰問になりやすいので、できれば前向きに「どうしたらできるのか」を中心に考えて頂くとよいです。
6.まとめ
今回はESG経営について解説してきました。サスティナビリティ経営やSDGs等との違いを理解することも大事ですが、「経営姿勢」でもありますのであまり細かいところに捉われすぎずに経営に活かしていってください。
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