経営管理とは、文字通り経営資源(ヒト・モノ・カネ等)を管理することです。
管理すべき項目は多岐にわたりますが、経営管理を進めるためには何が必要でしょうか?
データでしょうか。
システムでしょうか。
ルールでしょうか?
管理する人でしょうか。
これらに限らず色々な観点があると思いますが、そもそも経営管理とはどこまでの管理を含むのかとい
うたこともあいまいになっていることが多いと思います。
経営管理の範囲があいまいだと、管理も自ずとあいまいになってしまいがちです。
そこで、今回は経営管理とは何かを整理した上で、経営管理に必要な項目、管理を実施するうえでのポイントや必要なツールを整理していきます。
1 経営管理とは
経営管理を定義すると、
経営(事業活動)の目的・目標を達成するために、企業活動やプロセスを設計し、社内外の資源の調整やモニタリング、統制を行うこと。 |
と表せます。
もう少し単純に表すと、冒頭に記載した通り、
経営戦略・目標達成のために経営資源(ヒト・モノ・カネ等)を管理することです。 |
※参考
経営資源とは?経営資源を活かす3つのポイントと人を大切にする経営
また、経営管理をPDCAと捉えることもできます。その場合、経営戦略も経営管理の範疇と考えることもできますが、上述の通り、あくまでも経営戦略や目標達成のための管理となりますので、この記事において、経営戦略の立案は経営管理からは除き、財務管理から下のオペレーション部分に絞って解説していきます。
但し、経営目標や作成された計画に対してのチェックは管理として含まれます。
2 経営管理ができている会社はすくない?
経営管理の定義は1章で解説した通りですが、実際どのくらいの会社が経営管理を実施できているのでしょうか?
これまで多くの中小企業を見てきた中で、適切に経営管理が行われている会社は残念ながら少ないというのが実感です。
具体的には、管理ソフト等で管理できる状態にはあるものの、管理できていない状態、ということです。
例えば、見積管理のソフトはあり、見積書の作成はそこで行います。しかしながら、その見積そのものの精査ができていない、そして見積書通りに取引がなされているか等という管理ができていない、更にどのようなお客様(既存、新規、休眠)から依頼が来ていてるのか等といった管理(分析)もできていません。
つまり、「管理」=「PDCA」が回っておらず、表面的にデータが蓄積されているのみ、という状態です。
データがあるだけ良いと言えばよいのですが、データだけがあっても「管理」とは言えません。
データの蓄積=「管理」ではない |
また、経営管理を上手に進めるために「KPI」という考え方があります。これは、目標を細分化・定量化した指標を設定し、PDCAを回す手法の1つです。
そこで、2022年版の中小企業白書において、KPIによる経営管理の状況についての調査が掲載されているので確認してみます。
経営戦略を策定し、具体的な施策に落とし込んだ経営計画に基づいて事業を行っていく上で、計画が順調に進んでいるかを管理するためKPIが利用されているか否かといった視点です。
この表で見ても、KPIを利用している企業は36.7%と一定数存在するものの、利用していない企業の方が多くなっていることが分かります。
2022年版中小企業白書より引用
3 経営管理の種類
経営管理を実施するにあたり、まずは、具体的にどのような項目を管理すべきなのかを見ていきます。
経営管理の種類や項目をまとめると下図のようになります。
もちろん、これ以外にも項目は多く存在しますがまずはこのくらいが抑えられていると合格点といえます。自社に当てはめて確認してみてください。
※製造業でない場合は、生産管理は省いて頂いて結構です。
3.1 人材管理
人材管理は社員に関する管理全般となり、大きく労務管理と人的資源管理に分かれます。
労務管理は、従業員の働く環境を管理することで、労働条件や福利厚生等が該当し、労働基準法や最低賃金法などの労働法に基づいて管理を行います。コンプライアンス遵守が特に大事な分野です。
人的資源管理(HRM=Human Resource Management)は、採用活動から配置、育成、評価といった従業員に関すること全般となります。
必要な人員や人物像を明らかにしした上で採用活動を行い、目標達成に効果的な人材配置と育成、様々な情報管理までを含みます。
そして、適正な管理を行うことにより、従業員のモチベーション向上や生産性向上を実現していきます。
3.3 生産管理
生産活動を効率化することが生産管理の役割です。具体的には、経営計画や生産計画・販売計画に基づいて、期限までに効率よく生産できるよう管理することです。
需要と供給のバランスを調整するのも生産管理の仕事となり、在庫を切らしたり、逆に在庫を過剰に抱えてしまったりしないよう注意しなければなりません。
3.4 販売管理
企業活動における「お金」と「物」または「サービス」の流れを管理することです。仕入れ状況や在庫の管理といった購買管理も、広義では販売管理の一環となります。
適切な販売管理を行うことで、損益状況や売上を把握でき、利益向上策の提案が可能になります。また、販売活動に関わるさまざまな部署間の情報を管理することで、発注や納品のミス防止につながります。
そして、これらのデータを蓄積・分析することにより新商品・サービスの開発につなげることも可能です。
3.5 財務管理
企業経営に必要な資金や資産の管理を行い、業績管理・予実管理までを指します。
具体的には、事業活動に必要な資金の調達から資産の運用方法までを考え、実行していきます。資金・資産の管理を行うことで、安定した資金繰りの実現が可能となります。
また、業績管理・予実管理を行うことで数字を元にしたPDCAを回すことが可能となり、より収益性を高めることが可能となります。
3.6 リスク管理
見落としがちなのがこの分野です。今や10年~30年に一度と言われた災害が頻繁に起こるようになり、情報漏洩など時代に合わせたリスク管理が必要となります。
リスク管理は、想定されるリスクを洗い出し、まずは予防することが大切です。その上で企業に万一のことがあった際の損失額を把握し、それに備えることです。
備えとしては、現預金が基本ですが、それで不足する場合は保険の活用を検討します。
また、BCP(事業継続計画)の作成も重要となります。
4 経営管理の基本的な進め方
3章では、経営管理の項目についてみてきました。4章ではそれを一歩進めてどのように管理をしていくことが望ましいかを解説していきます。
進め方といっても、難しく考える必要はありません。「PDCA」に沿って進めることが肝心であり特別なことではなく仕事の進め方そのものです。つまり、当たり前のことを普通に行っていくことです。
4.1 計画(予算)の作成
まずは計画の立案です。
但し、ここで言う計画は1章で説明した通り、戦略の部分ではなくオペレーションの部分の計画となります。具体的には、
人材管理:採用計画・異動計画・人件費(賃金・昇給)計画、教育研修の計画
生産管理:生産計画・資材購入計画・品質方針(計画)
財務管理:投資計画・資金計画
等です。
予実管理も財務管理の一環ですが、全社の利益計画は戦略部分に該当しますので、その結果を管理し、改善活動を図っていくこととなります。そして、顧客別・商品別等細分化した計画の作成は経営管理に含まれると考えてください。
4.2 実績を正しく把握する
続いて実績の把握ですが、ポイントは「正しく」です。
正しい実績が把握できないと正しい対策が検討できません。つまり、「管理したつもり」になってしまうということです。もっというと、「間違った対策」を立てて実行してしまう恐れがあります。
例えば、財務管理の一環である予実管理をイメージした場合、会計が締まって試算表が出来上がりますが、売上が漏れていた、仕入れが漏れていた、経費が二重計上になっていた等ということが発生して不正確な試算表が出来上がるということです。
そのような場合は上流に遡って、売上管理、請求管理等を見直すことにはなりますが、それぞれの段階において正確性が重要になります。
4.3 予算と実績の差の要因を把握する
予算・計画と実績の差が明確になったらその要因を考えます。
考える方向性としては2つです。
- 4章で解説する経営計画書を元に考える
- 「なぜ」を3~5回繰り返す
- は4章で解説しますので、ここでは②についてみていきます。
こちらも例で考えると、採用計画10名に対し実績が5名だった場合、
・そもそも採用計画が多すぎた
→多すぎた原因は?さらにその原因は?と考えてください。
・プロモーションが弱かった
→具体的には?
かけた金額が少なかった?業者(採用コンサル)があまりよくなかった?採用HP等の打ち出し方?
等と落とし込んでください。
・母集団は計画通りだが、採用プロセスにおいて離脱が多かった
→その原因は?・・・・
・内定辞退が多かった
→その原因は?・・・・
といった具合です。
4.4 課題を明確にする
原因・要因が明確になったら課題を特定します。
ここでのポイントは課題を3つ以内に絞ることです。
1つでも差し支えありませんが、ここで課題を多く挙げすぎると行動も多くなり資源(ヒトや時間)が分散し、結局効果が出ない、または見えにくくなります。
また、よく原因と課題が混同されることがありますが、
原因は~~~ができていないこと
課題は~~~をできるようにすること
という形で表現できます。
また、3.3で原因を複数挙げることになりますが、真因を明確にして「どこに手を打つと効果的」なのかを明確にすることでもあります。
よく使われる軸は、緊急性と重要性ですが、その他に金額と即効性、効果の大小とすぐできるか否か、というような軸で考えてみてもよいです。
4.5 対策を検討する
課題が特定出来たら最後に対策=行動です。
ここでのポイントも3.4と同様、対策案を複数出した上で1~3つに絞り込むことです。
以上を図で表すとこのようなイメージです。
5 経営管理に必要なもの
最後に、経営管理を進めるにあたり、必要なものは何かを見ていきます。
まずは経営計画書を作成し、自社のあるべき姿・行動・指標を明確にすることが必要です。
それを元に、予実管理を行い、計画と実績に差がある場合は「この方針通りに行動できているのだろうか?」と振り返ることになります。
そして、月次決算書を作成し、具体的な数値で振り返ります。
以下、1つずつ見ていきます。
5.1 経営計画書
まずは計画を立てるという意味で考えると経営計画書が必須です。
以下の経営計画キャンバスの中で1章、2章で説明した経営管理に関する内容は概ね網羅されますが、今回解説した内容は、主に「戦術」に当たります。財務管理という部分は利益計画を落とし込んだ商品別、得意先別、担当者別、資金運用計画が該当します。
それぞれの項目で方針を明確にし、数値化できる部分は数値化してみてください。
一例として、採用に関する方針、財務に関する方針の一部を例示します。
文章で表現されていますが、採用に関する方針では具体的な採用計画も記載しており、プロセスも明確にしています。
財務に関する方針でも同様に、内部蓄積の目標や固定資産購入の基準、不動産を持たないといったことを明文化しています。
そして、自己資本比率、総資本経常利益率、損益分岐点比率の目標も明示しています。
5.2 月次決算書
予実管理には月次決算書の活用がお勧めです。
月次決算書ではまず全社レベルでの数字の確認となり、財務(キャッシュ・資金)の観点も確認することになります。
そして、得意先別、商品別にチェックし、改善を検討します。
経営管理を実施していくにあたって、ツールの活用もお勧めです。
中小企業の場合はExcelでも十分管理が可能ですが、規模の拡大に伴ってHR専門のシステムや販売管理のシステムを導入することも必要になってきます。
古田土会計でも、15年前(社員100名未満)は「経営管理」はほぼ皆無でした。
そこから主に売上や人事系をExcel・Accessでの管理するようになり、今では人事系はクラウドのシステムに集約し分析にも活用しています。
そして、kintoneで各種ワークフローを整備し、分析も可能となっています。
今後は自社開発のクラウドを使って顧客情報の収集・分析していく予定です。
6まとめ
以上、今回は経営管理についてまとめました。
ポイントを再度まとめますと、
・管理する項目を洗い出す(KPIの設定)
・各項目で正しい実績を把握できるようにする
・計画と実績の差を確認し、対策を打つ
となります。
重要なことは、「過去」の管理ばかりではなく、それを元に今後どうしていくのかという「未来」目線で管理する姿勢です。
そのために、経営計画書と月次決算書の作成が有効です。
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