月次決算とは、自社の財政状況を明らかにするために1ヶ月単位で実施する決算業務です。
月次決算を実施する際はさまざまな決算業務を実施しなければいけないため、補助事務を設けることを検討している経営者の方も多いでしょう。
そこで今回は、月次決算の補助事務の業務内容や具体的な決算業務の流れ、月次決算で作成すべき帳票について解説します。
本記事を読めば、月次決算の補助事務の具体的な内容や決算業務で作成すべき帳票について理解できるため、自社への導入を決定する判断材料となるでしょう。
月次決算とは
月次決算とは、自社の経営状況を理解し、経営管理に役立てるために毎月実施する決算業務です。
月次決算を実施すれば、自社の経営状況が早期に理解できるため、経営改善がしやすくなります。
もし、自社が年次決算のみを導入していた場合は、決算期の途中で売上が伸び悩んでいることや資金繰りが悪化していたことに気づけないでしょう。
決算期の途中で経営改善をしなければ、経営目標を達成できず業績の向上につながりません。
また、月次決算を作成すれば、自社の直近の経営状況を金融機関へ伝達できるため、融資を得やすくなります。
金融機関は、企業の経営状況や資金繰り状況を把握したうえで、融資判断をしなければなりません。
年次決算では年度末の経営状況を金融機関へ伝えることになるので、直近の財務状況が把握できず融資スピードに遅れが生じる可能性があります。
月次決算は、自社の経営状況を早期に理解したり、金融機関から融資を得やすくしたりするために必要な決算業務です。
月次補助業務と経理事務の違い
月次補助業務と経理事務の違いでは、以下の3つの項目に分類して解説します。
- 経理事務
- 月次補助業務
- 月次決算補助業務
ここで解説した違いを理解したうえで、月次決算の補助事務を実施しましょう。
経理事務
経理事務では、経費旅費精算や銀行振込など日々のお金の出納と伝票処理を実施しています。経理事務の具体的な業務内容は、以下の通りです。
日常業務 |
現金・預金・手形管理・経費精算・売掛金買掛金の管理 |
月次業務 |
給与計算・売掛金の回収や買掛金の支払い・月次決算の試算表作成・予算と実績の差異分析 |
年次業務 |
年次決算書の作成・税金納付 |
経理事務で経験を重ねれば、月次決算や年次決算、帳簿の作成もできるようになります。
経理事務を実施する際は、基本的なパソコンの操作スキルや事務職としての基本スキルは取得していなければいけません。
しかし、経理に関する知識を保有していないと務まらないわけではないため、比較的誰にでも取り組みやすい仕事といえるでしょう。
月次補助業務
月次補助業務は、銀行預金や手形の管理、記帳などを実施する仕事です。銀行預金では、インターネットバンキングや銀行記帳などを通し、口座残高の管理を実施します。
多くの企業では売上代金の入金口座と給与や支払代金を支払う出金口座を分けている場合も多いため、複数の口座管理をしなければいけません。
また、手形や小切手を用いて入出金する会社の場合は、それぞれの証書の管理もする必要があります。
月次補助業務では、基本的に日商簿記3級以上を取得していることが望ましいです。
月次補助業務では手形や小切手の管理もしなければいけないため、約束手形と為替手形の違いを明確に理解していなければ、間違った管理方法をしてしまう可能性があるからです。
そのため、月次補助業務を任せる際は、日商簿記3級以上の資格を保有した社員に依頼しましょう。
月次決算補助業務
月次決算補助業務では、資金の収支管理や給与計算など月次決算の手助けをする仕事内容です。
例えば、月次決算補助業務では、自社の資金繰り表を作成して計画的に資金を使用できているのかを確認する必要があります。
資金繰り表は3ヶ月先の収入や支出の予測をしたうえで、預貯金が不足しないように管理しなければいけません。
もし、資金繰り表を作成して実際に資金が不足しそうな場合は、新規の借り入れや手形の割引などさまざまな対策を実施する必要があります。
また、月次決算補助業務では売掛金・売上管理や買掛金・支払い管理、事業者間取引など幅広い決算業務も請け負わなければいけません。
つまり、月次決算補助業務に従事する社員は、一通りの月次決算や財務の知識を保有しておく必要があるでしょう。
具体的な月次決算補助業務とは
具体的な月次補助業務の種類として、以下の4つが挙げられます。
- 売上管理
- 支払管理
- 給与事務
- 関係会社間取引の管理事務
ここで解説した内容を理解したうえで、月次決算の補助業務を実施してください。
売上管理
売上管理は、得意先の会社に対して代金の請求や回収に従事する業務です。
売上管理は担当者が発行した請求書を参考にして売上の計上処理をし、得意先元帳や売掛金元帳にて売掛金を管理します。
売掛金を回収する際は、期日通りに回収ができているのかを確認し、入金されていなければ担当の営業職員に連絡をして催促しましょう。
また、売上管理をする際は、自社がどのタイミングで売上計上をしているのかをあらかじめ確認しておかなければいけません。
売掛金を回収する場合は、得意先によって入金方法や条件が異なる場合もあるので、事前に確認しておくとよいでしょう。
支払管理
支払管理は、原材料を購入するための仕入れの実施や買掛金の支払確認などに従事する業務です。
支払管理では請求書を参考にして仕入れの計上をし、買掛金台帳や仕入先台帳にて買掛金の管理をします。
買掛金管理を実施する際は期日内に請求通りの金額を支払っているのかを確認し、支払っていると明らかになった場合は支払い完了したことを示す会計処理をしなければいけません。
また、支払管理で仕入れをする際は、自社がどのタイミングで原材料の仕入れを実施しているのかを事前に確認しておくとよいでしょう。
支払管理を実施する際は、仕入先によって振込手数料の負担や割戻しなどが異なっている場合があるため、事前に確認しておくべきです。
給与事務
給与事務では、社員が労働した分の収入を指定口座へ決められた期日に振り込む業務内容です。社員の給与は、以下の計算式で算出できます。
手取り額=基本給+各種手当-各種控除
会社には、社員に社会保険へ加入させる義務があり、健康保険や社会保険などの事務手続きや社会保険料の算定などの業務を実施する必要があります。
また、給与事務業務に従事するためには、社会保険の制度や税金に関する知識を理解しておかなければいけません。
月次決算補助業務を担当する社員に対しては、社会保険や税金に関する知識の豊富さを事前に確認したうえで業務を依頼するとよいでしょう。
関係会社間取引の管理業務
関係会社間取引の管理業務は、支社や営業所、子会社などの取引内容の管理をする仕事です。
会社の規模が大きい場合は、本社とは別に支社や営業所、子会社などを設立する場合があります。
関係会社間取引が少なければ経理業務として対処する必要があります。しかし、取引内容が多かった場合は月次決算補助業務として請け負わなければいけません。
また、関係会社間取引の管理業務で注意することとしては、取引内容をそのまま決算書に記載しないことです。
関係会社間取引の内容はあくまで内部取引であるため、会社内での取引を整理したうえで処理する必要があります。
関係会社間取引の処理を実施するのであれば、日商簿記2級以上の資格を保有しておかなければいけません。
日商簿記2級以上では、関係会社間取引の基本となる本支店会計を学ぶからです。関係会社間取引では、日商簿記1級で取得できる連結会計の知識も活用できます。
そのため、月次決算補助業務に従事する場合は、日商簿記1級を取得している社員に仕事を依頼したほうが良いでしょう。
月次決算と年次決算の違いとは
月次決算と年次決算とでは、実施する目的が異なります。月次決算は自社の経営状況を明確にし、直近の財務状況をもとに適切な経営判断をするために実施します。
しかし、年次決算では、金融機関や株主に対して自社の経営状況を公表するために実施しているのです。
自社が年次決算のみを導入していた場合は、今月得られた利益や年次計画に対する達成状況など業績を向上するために欠かせない改善点を把握できません。
自社の経営状況をより良くするためにも、月次決算を作成したほうが良いでしょう。また、月次決算と年次決算とでは法律に基づいた義務の有無も異なります。
年次決算の実施は、法律によって義務付けられています。
一方で、月次決算の実施は法律によって義務付けられているわけではありません。そのため、月次決算を導入する判断は企業が自主的に決定できるでしょう。
月次決算と年次決算の違いを理解したうえで、それぞれの目的に沿った決算業務を実施してください。
月次決算の具体的な流れとは
月次決算の具体的な流れは、以下の通りです。
- 現金および預金残高の確認
- 当月の棚卸高の確定
- 仮勘定の整理
- 経過勘定の振替
- 減価償却費・各種引当金の計上
- 売掛金などの債権および買掛金などの債務の計上
- 月次決算書の作成
- 月次業績報告の実施
ここで解説した流れを理解したうえで、月次決算を実施しましょう。
現金および預金残高の確認
月次決算を実施する際は、現金および預金残高の確認をする必要があります。
現金および預金残高の確認では、現金と預金の帳簿残高と実際の口座残高に差異がないのかを確認しましょう。
もし、現金および預金残高の確認をした結果、差異が発生していた場合は原因を追究したうえで、修正業務をする必要があります。
現金および預金残高の確認で差異が発生していたのにも関わらず、原因を追究しなければ、同じ失敗を何度も繰り返してしまう恐れがあるからです。
現金および預金残高の確認でチェックミスがあれば、決算書の数字の多くを間違えてしまう恐れがあります。決算書の数字を間違えないようにするためにも、入念な確認が大切です。
当月の棚卸高の確定
現金および預金残高の確認が完了したら、当月の棚卸高の確定をしましょう。
当月の棚卸高の確定では、帳簿内の数字と現在の在庫数を確認して実際の金額を決定する必要があります。
当月の棚卸高の確定をする際は、社外に保管している在庫や不良品・長期滞留在庫・返品の有無などを確認しましょう。
また、当月の棚卸高の確定では、自社が抱えているすべての在庫を計算しなければいけません。
当月の棚卸高の確定で間違いをしないためにも、定期的に在庫を受け取った際に書類に記載しましょう。
ただ、棚卸資産管理手続きが整備されていた場合は、実地での棚卸が省略できる可能性があるため、事前に確認してください。
仮勘定の整理
当月の棚卸高の確定が完了したら、仮勘定の整理をしてください。仮勘定の整理では、仮払金や仮受金など一時的に設定した仮勘定を整理し、適切な勘定科目へ振り分けましょう。
仮勘定は、適切な勘定科目でないため、そのままにしておくと自社の経営状況が理解しづらくなります。
自社の経営状況を理解しやすくするためにも、仮勘定を適切な勘定科目へ振り分けておくとよいでしょう。
また、仮勘定の整理をする際は、仮受金や仮払金の精算漏れの確認や前払金の計上漏れの有無、長期にわたって未精算の勘定科目がないかを確認してください。
経過勘定の振替
仮勘定の整理が完了したら、経過勘定の振替をする必要があります。経過勘定の振替では、当月の費用や収益をそれぞれの勘定科目として計上しましょう。
経過勘定の振替には、膨大な時間がかかる傾向があります。少しでも時間短縮をするために、対象科目や計上基準をあらかじめ設定しておくとよいでしょう。
対象科目や計上基準の設定をしておけば、当月の経営状況がより鮮明に把握できます。
経過勘定の振替を実施する際は、長期未払費用の取引の有無や給与残高が0になっていることの確認、次月以降の支払いや受取の計上ができたのかをチェックしましょう。
減価償却費・各種引当金の計上
経過勘定の振替が完了したら、減価償却費・各種引当金の計上を実施します。
減価償却費・各種引当金の計上では、1年間の費用を見積もったうえで月額費用として1ヶ月分の金額を算入しましょう。
本項では、減価償却費・各種引当金以外でも賞与や各種保険料、労働保険料、固定資産税なども含まれますので、忘れないように計上してください。
また、減価償却費・各種引当金の計上をする際は、以下の4つのポイントをチェックリストとして活用しましょう。
- 各種勘定科目の計上漏れの有無を確認する
- 各保険料の月額の支払い費用がないのかを確認する
- 固定資産税を中心とした月額の支払い費用の有無を確認する
- 固定資産台帳と会計帳簿の取得価格や帳簿の金額、減価償却費の一致を確認する
上記のチェックリストを活用したうえで、減価償却費・各種引当金の計上をしましょう。
売掛金などの債権および買掛金などの債務の計上
減価償却費・各種引当金の計上が完了したら、売掛金などの債権および買掛金などの債務の算入をする必要があります。
本項では、当月中に回収や支払を実施した売掛金や買掛金の計上をしてください。また、売掛金の締め日では、回収ができているのかを定期的に確認するとよいでしょう。
売掛金などの債権および買掛金などの債務の計上では、確実に回収や支払が完了したのかを確認してください。
月次決算書の作成
売掛金などの債権および買掛金などの債務の計上が完了したら、月次決算書の作成をする必要があります。月次決算書の作成では、以下の3つの試算表を用意するとよいでしょう。
合計試算表 |
勘定科目の貸借の合計額が記載されている表 |
残高試算表 |
勘定科目の残高のみの金額が記載している表 |
合計残高試算表 |
貸借の合計額と残高のどちらも記載している表 |
また、月次決算書の作成では、試算表以外にも以下の書類を同時に用意してください。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 資金繰り表
- 在庫一覧表
- 借入金一覧表
- 受注残高表
- 経費推移表
上記の書類を用意したうえで、月次決算書の作成をしましょう。
月次業績報告の実施
月次決算書の作成が完了したら、月次業績報告を実施しなければいけません。
月次業績報告の実施では、自社が適切な経営状況を客観的に理解できるように資料にまとめ、経営陣に対して報告をします
月次業績報告を実施する際は、前年同月比や競合他社との比較、年間推移などの各種データ分析を実施した資料も作成するとよいでしょう。
データ分析を実施した資料をあらかじめ作成しておけば、自社の業務改善がしやすくなるからです。
より適切な経営戦略の立案をするためにも、事細かな自社の経営状況が理解できるデータ分析を実施しましょう。
月次決算で作成すべき帳票とは
月次決算で作成すべき帳票の種類として、以下の3つを解説します。
- 月次決算書
- 前期比較表
- 予算実績対比表
月次決算で書類を作成する際は、さまざまな帳票を用意しなければいけません。ここで解説した内容を理解したうえで、月次決算を実施しましょう。
月次決算書
月次決算書は、貸借対照表と損益計算書の2つの財務諸表で構成される決算書です。
月次決算書を用意すれば、自社の月間の経営状況が事細かに理解できるため、1ヶ月ごとの財務状況を理解しておきたいなら作成するとよいでしょう。
ただ、月次決算書を作成する際は会計期間内の収入と費用の整合性をとったうえで、決算書の作成をするように心がけてください。
例えば、1ヶ月分の収入の整合性がとれていても、2ヶ月分の費用が含まれていれば会計期間内の整合性は取れません。
整合性が取れていない月次決算書は、経営改善に活用できません。自社の経営改善に月次決算を活用するためにも、収入と費用の整合性をとったうえで月次決算書類を作成しましょう。
前期比較表
前期比較表とは、今期の実績と前年同月比の実績を比較する表のことです。業種によっては季節ごとに業績が大きく変動する可能性があります。
例えば、ケーキ屋を運営していたとしたら、夏とクリスマスがある冬とでは大きく業績が変動します。現在は12月なのに去年の5月の実績と比較していても、全く参考になりません。
より適切な経営戦略を立案するためにも、前期比較表を用意する必要があるのです。
予算実績対比表
予算実績対比表は、現在の予算に対する進捗度を把握するための資料です。
予算実績対比表を作成して自社の予算に対する進捗度が理解できれば、自社の予算を現状維持するか、達成するために方向転換するのかの判断ができます。
また、予算実績対比表には売上高以外にも、売上原価や人件費などの項目も比較分析できます。
予算実績対比表で比較分析すれば、必要以上に使用している費用が可視化できるため、費用の削減がしやすくなります。
予算実績対比表で進捗度が著しく低かった場合は、原因を記載しておくと次期の月次決算を実施する際に活用できるでしょう。
月次決算の流れを把握して効率よく作業を進めよう
今回は、月次決算の補助事務の具体的な業務内容について解説しました。月次決算とは、自社の財政状況を明らかにするために1ヶ月単位で実施する決算業務です。
月次決算の補助事務には、売上管理や給与管理などさまざまな業務内容があります。自社に月次決算の補助事務を導入することを検討している方は、本記事を参考にしてください。
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