「損金の正しい意味や、経費との違いが分からない」「損金不算入になる項目や、処理方法を詳しく知りたい」など、法人税の計算をする上で、損金の処理に迷っていませんか?
「損金」は法人税上の経費や損失のことをいいますが、会計上の経費とは異なります。損金算入できない項目もあるため、正しい理解が必要です。
今回は「損金」について、意味だけでなく損金不算入の事例や損金算入できる勘定科目についても詳細に解説します。
この記事を読むことで「損金」について詳しく知ることができ、申告ミスや過納の防止に繋げられます。
損金とは?
法人税は、税務上の収益から費用を差し引いた「課税所得」から算出されます。法人税法では、税務上の収益のことを「益金」、経費や損失の部分を「損金」といいます。
損金の定義は法人税法によって定められており、具体的に次のようなものが損金として処理できます。
①当該事業年度の収益を得るために直接必要とする費用(売上原価)
②当事業年度の事業活動に必要な費用のうち、売上原価を除いた費用(販売費および一般管理費)
③当該事業年度に発生した「貸倒損失」「固定資産売却損」「災害損失」などの損失の額
参考:法人税法第22条第3項第1号~第3号|電子政府の総合窓口 e-Gov
「収益=益金」「経費=損金」ではない
「会計上の経費」=「損金」と認識してしまいがちですが、実務では会計上の経費と損金は一致しないことが一般的です。
「会計上の収益」 ≠ 「税法上の収益(益金)」
「会計上の経費」 ≠ 「税法上の経費(損金)」
「会計上の経費・収益」「税法上の損金・益金」は似ているようで異なるため、それぞれの定義や関係性を正しく理解する必要があります。
日々の会計処理によって算出される利益金額は、会社法に則ったものです。その目的は出資者である株主などに対して、会社の財政状況や経営状況を提示する点にあります。
一方、法人税の算出に用いられる課税所得金額は、法人税法に則って計算されたものです。納税者に対して平等に、かつ適切に法人税などを課税することを目的としています。
会計上と税法上で「収益」と「費用」の認識や考え方に異なる点があることから、会計処理上費用とした場合でも税法上損金とすることが適さない場合があります。
そこで、法人税の計算では会計上の当期純利益の金額を法人税法に基づき、金額を加算減算することで調整をおこないます。これを「法人税の申告調整」といいます。
損金算入とは?
人税法上の益金から法人税法上の損金を差し引くことを「損金算入」といいます。
一般的に、会計上費用として計上されたものがそのまま損金に算入されますが、会計上費用として計上されていないものが税法上損金に算入される場合もあります。
たとえば、前事業年度以前の赤字の繰り越しである繰越欠損金などは会計上は費用として計上されませんが、法人税を計算する際には損金に算入することで所得金額を減らせます。
損金不算入とは?
「損金不算入」とは、会計上において費用として処理されたものを損金から除外することをいいます。
通常では会計処理によって費用として計上されたものがそのまま損金へと算入されますが、交際接待費や寄付金など、一部の費用については損金算入額に上限額が設定されているため、上限額を超えた場合などはその金額が損金不算入となります。
そのほか、役員報酬も、定期同額給与の要件を満たしていない場合などは損金算入の条件が設定されています。
損金処理とは?
税法上で損金として計上するためには、会計上費用として計上しなければならないものがあります。そのための会計処理のことを「損金処理」といいます。
損金処理の代表的な勘定科目としては、次のようなものがあげられます。
・減価償却費
・評価損(棚卸資産や固定資産)
・貸倒損失
・各種引当金
ただし、評価損や貸倒損失などの費用は計上するために必要な要件もあるため注意が必要です。
経費=損金にならない7つの事例
会計上の経費はすべて損金となるのではなく、勘定科目ごとに上限額が設けられている場合やすべてを損金としない場合があります。
ここでは、損金に算入できない勘定科目や損金算入額に上限が設けられている勘定科目の事例をいくつか紹介していきます。
法人税や住民税などの税金
数ある税金のなかでも、法人税や住民税などの税金は損金として処理することはできません。また、延滞税や加算税といったペナルティの要素を持つ税金も損金とできない決まりです。
ただし、税金のなかには損金処理できるものもあり、具体的には次のような税金は損金とすることができます。
・法人事業税
・固定資産税
・自動車税
・軽油税
・不動産所得税
・利子税
・所得税
・事業所税
・酒税
・ゴルフ場利用税 など
法人税や法人住民税を支出した場合は会計上は費用として処理されますが、税法上は損金とならないため、申告調整として「損金不参入」の対象となります。
土地・建物などの評価損
土地や建物などの不動産について、評価額が下がったタイミングで「評価損」として費用計上することがありますが、税法上は原則損金として処理できません。土地や建物の評価損はあくまでも現時点での評価が下がっているだけにすぎず、評価額が下がることによる損失がまだ実現していないためです。
たとえば、所有している土地の評価額が100万円下がっていても、実際に企業に100万円の損失が発生している訳ではありません。そのため、評価額が下がった段階では損金には計上せず、実際に売買などの取引が発生し、損失が確定した時に「売却損」として損金に計上できます。
しかし、棚卸資産や商品について、
・自然災害による被害があった場合
・破損、型崩れなどにより通常の販売方法で売れない商品の場合
などは例外的に損金算入が認められています。
不当に高額な役員報酬
役員報酬が不当に高額な場合は損金に算入できません。役員報酬の金額は、会社ごとに自由に金額を設定できます。そのため、利益の調整を防ぐために金額が不当に高額である場合(※1)などは損金算入できない場合があります。
このほかにも、役員報酬には「定期同額給与」や、役員に賞与を支払う場合のルールである「事前確定届出給与」など、さまざまなルールが設けられています。これらのルールに則って支給されていない役員報酬は損金に算入できないため、注意が必要です。
※1 役員報酬が不当に高額であるかどうかは、「実質的基準」「形式基準」の2つで判定され、具体的に次のような基準で判断がおこなわれます。
・役員がおこなう職務内容や役員に発生する責任の度合い
・株主総会などの決議内容に基づいて役員報酬が支給されているか
役員の職務内容や株主総会における決議内容など、さまざまな観点から判断されます。
限度額を超えた交際費・寄付金
交際費や寄付金は、一定額を超える部分は損金に算入できません。交際費や寄付金は自由に支出できる費用であるため、不必要に支出して所得金額を減らし、法人税などの税負担を免れることを防ぐためです。
交際費の損金算入額の限度額は次のとおりです。
資本金1億円以下の法人の場合は年間800万円が限度額となっているため、年間800万円以上の交際費を支出した場合も損金に計上できる金額は800万円となります。
大企業の場合は、次の数式で計算した金額が限度額となります。
新限度額(交際費のうち飲食費)×50%
寄付金については、以下の計算式で限度額が計算されます。
(資本金額×当期月数/12×2.5/1,000 + 所得金額×2.5/100)×1/4
ただし、寄付先や内容によって取り扱いが異なるため注意が必要です。具体的には次のような寄付金の場合は、支出した全額が損金として計上できます。
・国や地方公共団体に対する寄付金
・財務大臣が指定した特定の寄付金
また、次のような寄付金の場合は損金算入額の優遇措置があるため、限度額が広く設定されています。
・日本私立学校振興団体
・共済事業団
・日本赤十字社
・特定公益増進法人
限度額を超えた減価償却費
減価償却費は、税法上の耐用年数に基づいて事業年度ごとに損金算入する必要があります。しかし、税法上の耐用年数とは異なる年数で減価償却費を計算するなどの例外もあり、その場合は税法上の限度額を超えた減価償却費は損金に算入できません。
たとえば、
名称:固定資産A
取得価額:300万円
税法上の耐用年数:5年
上記の固定資産Aについて、会計上の耐用年数を3年とした場合は、40万円が損金不算入となります。
会計上の減価償却費:100万円(300万円÷3年)
税法上の減価償却費:60万円(300万円÷5年)
損金不算入額:40万円(100万円−60万円)
限度を超えた引当金の繰入損
「退職給与引当金」や「賞与引当金」などの引当金は損金に算入できません。引当金は、将来発生する可能性のある費用を当期の費用として仮計上しておくものです。
たとえば、「貸倒引当金」は、売掛金や貸付金などの債権が将来回収不能となることを予測し見積もったものです。
貸倒引当金を事業年度ごとに費用として計上しておくことで、実際に貸倒損失が発生した場合に1事業年度に多額の損失計上を防ぐ効果があります。貸倒引当金は、会社の適切な利益を株主などに公開するために必要な「会計上の考え方」です。
しかし、税法上は未確定の損失は損金として計上できないため、法人税を計算する際に「まだ発生していない概算の経費」という認識から損金不算入となります。
ただし、貸倒引当金や返品調整引当金は確定申告書に所定の明細書を添付することで損金算入が認められるケースがあります。
期末までに債務が確定していない費用
期末までに債務が確定していない費用は損金に算入できません。期末までに債務が確定しているかどうかの判断は法人税法に規定されている次の3つの要件でおこなわれます。
①事業年度終了の日までに債務が成立していること
②事業年度終了の日までに債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
③事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定できること
そのため、実際にお金を支払っているだけでは損金だけでなく、会計上も費用として計上できません。
損金算入できる勘定科目一覧
会計上の費用と税法上の損金が一致する勘定科目はさまざまなものがあります。
具体的に、一般的にその金額がそのまま損金となるのは次の勘定科目です。
勘定科目 |
内容 |
水道光熱費 |
・電気代 ・水道代 ・ガス代 などの光熱費 |
通信費 |
・固定電話代 ・携帯電話代 ・インターネット通信代 ・切手代 ・郵送料 など |
広告宣伝費 |
・ホームページ制作費用 ・パンフレット制作費用 ・名刺代 ・看板代 など自社を広告するために支出する費用 |
旅費交通費 |
・飛行機代 ・船代 ・電車代 ・タクシー代 ・バス代 ・地下鉄代 など出張などを目的とする旅費にかかる費用 |
保険料 |
・車両保険 ・生命保険 ・事務所などの火災保険 ・自賠責保険 ・賠償責任保険 など各種保険料 |
地代家賃 |
・店舗や事務所などの賃借料 ・駐車場代 |
消耗品費 |
業務で使用する事務用品や各種消耗品の購入費用 |
販売促進費 |
・キャンペーンにかかる費用 ・割引券やクーポン券の発券費用 ・商品サンプルにかかる費用 ・ノベルティの製作や販売にかかる費用 など売上を促進するために支出する費用 |
修繕費 |
修理にかかる費用 |
外注費 |
外部の事業者に業務を委託する場合の費用 |
新聞図書費 |
定期購読の新聞や雑誌、書籍などの刊行物 |
役員報酬 |
会社の取締役に支給する報酬 ※ただし、不当に高額な役員報酬や支給額が一定でない役員報酬については損金算入額に制限があります |
給与賃金 |
正社員やパート労働者などの雇用者に支払う給与 |
福利厚生費 |
正社員やパート労働者などの雇用者に対しておこなう福利厚生目的の費用 また、雇用者の職場などの労働環境を整えるために支払う費用 |
迷ったら自分で判断せずに税理士に相談を
会計上の費用と税法上の損金の考え方は大きく異なるため、損金となると思っていても損金とならない場合も多くあります。そのような場合に損金計上をおこない申告してしまうと、税務調査の際などに指摘され延滞税や罰金などのペナルティが発生する可能性があります。
また、本来損金として計上できるにもかかわらず、損金に計上せずに申告すると無駄な税金を納めることになります。
そうならないためにも、少しでも疑問や不安がある場合は税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
当社でもご相談は受け付けておりますので、お悩みを抱えているようでしたら、ぜひお声がけください。
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