純資産とは企業が所有する総資産のうち、借入金などの負債部分を差し引いた部分のことをいいます。純資産は「自己資本」や「正味財産」と呼ばれることがあります。
純資産とは正味財産のこと
純資産とは総資産から負債を差し引いた残りの部分のことをいい、企業が所有する正味の財産を表すことから、「正味財産」とも呼ばれます。
たとえば、
・総資産:9,000万円
・負 債:4,000万円
である場合は、純資産は5,000万円(9,000万円-4,000万円)ということになり、企業の正味財産は5,000万円ということになります。
貸借対照表では資産や負債などを左右に分けて表示することが一般的であり、
・資産:左側
・負債:右側
・資本:右側
このような形で表示されます。
右側に表示される資本や負債の合計を「総資本」といい、総資本のうち、「負債」を差し引いた残りである「資本」が純資産ということになります。
また、一括りに純資産といってもその内容は様々あり、資本金や資本準備金、利益準備金といった様々な項目で構成されます。
純資産と総資産の違いとは
純資産と総資産は同じ資産となりますが、その内容は大きく異なり、「総額」であるか「純額」であるかという点がポイントになります。
・総資産:すべての資産のこと
・純資産:すべての資産から負債などを差し引いた残りの部分のこと
総資産とは企業が所有するすべての資産のことを意味するため、返済する必要がある負債などを考慮しないことになります。それに対して純資産はすべての資産から負債を差し引いた残りの部分となるため、正味の財産部分と言い換えることができます。
たとえば、5,000万円の資産と2,000万円の負債がある企業の場合、
・総資産・・・5,000万円
・純資産・・・3,000万円(5,000万円−2,000万円)
ということになります。
また、同じ資産という名前ですが、貸借対照表上での表示位置は異なるため注意が必要です。貸借対照表上では次のように表示されます。
・総資産:貸借対照表上の左下に表示される
・純資産:貸借対照表上の右下に表示される
純資産と負債の違いとは
純資産と負債の大きな違いは「返済義務」にあります。純資産と負債の合計を「総資本」と呼び、企業にとって重要な資金部分のことを意味しますが、純資産と負債とでは返済義務が異なります。具体的に次のような違いがあります。
・純資産・・・返済義務がない資本
・負 債・・・返済義務がある資本
純資産は返済義務がない資本であり、株主から受けた出資金やこれまでの利益の蓄積部分を意味することから、「自己資本」とも呼ばれます。負債は返済義務がある資本であり、金融機関からの借入金や未払費用などの債務部分を意味することから「他人資本」と呼ばれます。
純資産の内訳
純資産は返済義務がない資産のことをいいますが、純資産を構成する項目は様々なものがあります。大きく区分すると「株主資本」「株主資本以外」に区分されます。ここでは純資産の項目を詳しく解説していきます。
資本金
資本金とは事業活動をおこなうために経営者などが出資した資金や、株式と引き換えに集めた資金のことをいいます。資本金は事業活動などによって発生した売上や利益の蓄積部分ではないため、毎年利益が出ている場合においても資本金が増加することはありません。
また、資本金の金額はいくらでも良い訳ではなく、税制によっては優遇措置などがあることや、消費税の納税義務にも影響をあたえることから、慎重に検討していく必要があります。
事業規模などによって異なりますが、一般的に資本金を抑えることで税制上の優遇措置を受けることができるケースが多いため、法人を設立する際などは資本金の金額に注意するようにしましょう。
資本剰余金
資本剰余金とは経営者から出資を受けた資金や、その他の資本取引などによって生じた剰余金のことをいい、すべての剰余金から利益剰余金を差し引いた残りの部分のことをいいます。
資本剰余金は株主に対して行われる配当源泉となる部分であり、資本金や資本準備金と内容が異なることが特徴の1つとなります。実際に配当をおこなう場合は、一定の要件を満たす場合、資本準備金を計上する必要があるなど、様々な制約を受けることがあるため注意が必要です。
資本準備金
資本準備金とは経営者が出資した資金や、株式と引き換えに集めた資金のうち、資本金として設定しなかった資金のことをいいます。資本金については金額を抑えることで税制上の優遇措置を受けることができるケースが多いため、集めた資金のすべてを資本金としてではなく、一部を資本準備金とすることで資本金を抑えることができます。
しかし、資本準備金として処理できる金額には制限があり、資本金の2分の1を超えない範囲で計上する必要があるため注意が必要です。
利益剰余金
利益剰余金とは企業がこれまでの事業活動によって生じた利益を積み立て、企業内部に蓄積されている部分のことをいいます。
資本剰余金と同じ剰余金ですが、株主への配当源泉である資本剰余金とは異なり、各事業年度で生じた利益の累計額が利益剰余金となります。そのため、利益剰余金は「企業の長期的な収益力」を表しているといえます。
利益準備金
利益準備金とは利益剰余金のうち、会社法により積み立てておくことが義務化されている部分のことをいいます。利益準備金は企業内部の財政保護や、債権者保護を目的としていることから、「法定準備金」の1つとなっています。
利益準備金は配当をおこなう際に発生し、配当金額の10分の1を利益準備金または、資本準備金として積み立てることが義務付けられています。
ただし、積み立てられる金額については限度額が設けられており、利益準備金と資本準備金の合計額が、資本金の4分の1に達するまでとされています。
評価・換算差額等
評価・換算差額等は企業が所有する資産などの購入価額と、現在における時価との差額のことをいい、資産や負債、新株予約権を除く株主資本のいずれにも含まれない項目が該当します。
不動産などの評価差額以外にも有価証券などの評価差額も、評価・換算差額等に含まれます。
新株予約権
新株予約権とは企業が発行する株式の交付を受けることができる権利のことをいいます。
具体的には新株予約権を行使することにより、企業の株式について一定の価額で交付を受けることができるというものです。ただし、新株予約権は株主資本には含まれません。
これは新株予約権が未実現の株主資本であるためであり、資本金などのように実現した株主資本と区別するためです。
少数株主持分
少数株主持分とは連結法人の子会社資本のうち、親会社以外の株主の持分のことをいいます。連結法人においては親会社が子会社の議決権を100%持たない場合があり、たとえば、親会社が70%の議決権を持ち、親会社以外が30%の議決権を持つといった形となります。
この場合における30%の議決権を持つ株主を「少数株主」といいます。
そのため、株主資本については純資産から少数株主持分や新株予約権などを差し引いた残りが株主資本となります。
純資産の数値を用いて計算できる経営指標7選
純資産の数値は企業にとって非常に重要視しなければならず、純資産の数値から企業の「財務における健全性」「事業における安定性」などを把握することができます。
このように一定の数値から様々な項目を分析することを財務分析といい、財務分析に用いられる特定の指標のことを「経営指標」といいます。ここでは純資産の数値を用いて計算できる7つの経営指標を紹介します。
①自己資本比率
自己資本比率とは企業の「財務における健全性」を表す指標のことをいいます。自己資本比率は企業の総資本と自己資本とのバランスを分析することで、財務の健全性が高いかどうかを把握することができます。自己資本比率は次の算式で計算することができます。
「 自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資本 × 100 」
自己資本比率は「負債と純資産(自己資本)のバランス」と言い換えることができ、自己資本比率が高いということは、金融機関からの借入金といった他人資本が少ないということになるため、結論として「倒産しづらい企業」と判断することができます。
一般的に自己資本比率が40%以上である場合、財務が健全に保たれているとされていますが、業種によって適正な自己資本比率が異なります。そのため、40%というのはあくまでも目安程度と考えるようにしましょう。
②自己資本利益率
自己資本利益率は株主などから出資を受けた資金から、どれだけの利益が確保できているかを表す指標のことをいい、「株主資本利益率」とも呼ばれます。自己資本利益率は次の算式で計算することができます。
「 自己資本利益率 = 当期純利益 ÷ 純資産 × 100 」
自己資本利益率は「投下資本に対する利益のバランス」と言い換えることができ、投資家にとっても非常に重要視される財務指標の1つとなっています。これは投資家が「自分たちが投下した資金などを使って、企業がどれほど利益を上げることができるのか」という点を重視しているためです。
一般的に自己資本利益率は10%が目安とされ、15%以上であれば非常に良好な状態であると判断されます。
③総資本利益率
総資本利益率は企業が所有する資産に対して、どれだけの利益が確保できているのかを表す指標のことをいいます。総資本利益率は次の算式で計算することができます。
「 総資本利益率 = 経常利益 ÷ 総資本 × 100 」
総資本利益率は総資本と利益のバランスを分析する指標であり、効率よく資産運用がおこなわれているのかを確認することができます。たとえば、
・10万円の総資本で100万円の利益を獲得している場合
・50万円の総資本で100万円の利益を獲得している場合
上記の場合では、10万円の総資本で100万円の利益を獲得している場合の方が、効率良く事業がおこなえているといえます。一般的に総資本利益率が20%以上であれば、非常に優良な企業であると判断することができます。
④固定比率
固定比率とは所有する固定資産を自己資本でまかなえているかどうかを表す指標のことをいいます。固定比率は次の算式で計算することができます。
「 固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 」
固定比率は固定資産と自己資本のバランスを分析する指標であり、固定比率が小さければ小さいほど、固定資産を自己資本でまかなえていることになります。そのため、固定資産を金融機関などからの資金で購入していないかなどを明らかにすることができます。
一般的に固定比率は100%が目安となっており、100%を下回っている場合は所有する資産をすべて自己資本でまかなえているということになります。
⑤固定長期適合率
固定長期適合率とは企業の長期的な安全性を確認するための指標です。固定長期適合率は次の算式で計算することができます。
「 固定長期適合率 = 固定資産 ÷ 自己資本 + 固定負債 × 100 」
固定長期適合率は固定資産を自己資本と固定負債でまかなえているかどうかを分析する指標です。一般的に固定資産を自己資本のみでまかなうことは難しく、多くの場合が金融機関からの借入金などによってまかなっています。固定負債は長期返済の項目であるため企業の安全性は高いといえます。そのため、固定長期適合率が100%を超えている場合は、企業の長期的な安全性に問題があると分析することができます。
⑥利益剰余金比率
利益剰余金比率とは企業の安全性を確認するための指標です。利益剰余金比率は次の算式で計算することができます。
「 利益剰余金比率 = 利益剰余金 ÷ 総資本 ×100 」
利益剰余金比率は利益剰余金と総資本のバランスを分析する指標であり、利益剰余金比率が多ければ多いほど、事業活動によって生じた利益の積み重ねが使用されずに残っていることになります。そのため、利益剰余金比率が多ければ企業の安全性が高いということになります。
⑦借入金依存率
借入金依存率は企業が金融機関からの借入金などに対して、どれだけ依存しているのかを確認するための指標です。借入金依存率は次の算式で計算することができます。
「 借入金依存率 = 短期借入金 + 長期借入金 + 受取手形割引高 ÷ 総資産 ×100 」
借入金依存率は名前の通り、借入金にどれだけ依存しているかということを確認するための指標です。そのため、借入金依存率は低ければ低いほど、借入金に依存せずに自己資本を活用して事業が運営できていると判断することができます。
また、算式の中に「受取手形割引高」が含まれている点については、手形を期日前に割り引くなどする際に「手形売却損」という損失が発生し、この損失が借入金利息と同じ性質の資金とみなされるためです。
純資産の金額や内訳を分析して経営状態を把握しよう
事業活動をおこなう上で純資産は非常に重要であり、純資産が多ければ多いほど経営は安定するといえます。しかし、事業活動をおこなう上で金融機関から融資を受けるなど、他人資本が増えることも仕方がないことです。
ここで重要なのが純資産とのバランスであり、上記で紹介した様々な指標を活用することで、それらのバランスを分析することができます。適切な分析は企業の経営状態を把握するという点で非常に重要であるため、まずは現況把握という観点からも、一度経営分析してみてはいかがでしょうか。
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