企業の目的は、利益の追求や、株主価値の最大化、ととらえる方が多いかと思います。
しかしドラッカーは次のように述べています。
事業体とは何かを問われると、たいていの企業人は 利益を得るための組織と答える。たいていの経済学者も 同じように答える。この答えは間違いだけではない。 的外れである。利益が重要でないということではない。 利益は企業や事業の目的ではなく、条件である。 |
ピーター・ドラッカー
つまり、
利益は企業の存続のための条件であり、企業の目的ではない
と述べています。
では、企業の目的とは何なのでしょうか。
それは、「関係する人々を幸せにすること」にあります。
この記事ではそのことについて解説します。
1.企業の目的とは
1.1企業の目的は「関係する人々を幸せにすること」
企業は何を目的に存在しているのか?という問いに対して、多くの方は「会社を成長させる事」「株価を上げる事」「利益を出す事」が思い浮かびます。
しかし、企業の真の目的は、「関係する人々を幸せにすること」です。
京セラ創業者の稲森和夫氏は、当社の経営理念にもある通り
「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する』これ以外に、企業の目的はない」 |
と述べています。
従来の経営学では、企業の目的を「顧客第一主義」や「株主の利益極大化」という言葉で説明されてきました。経済が成長し、何もしなくとも「モノが売れる」時代には、社員や外注先にも、その恩恵は、給与という形で与えられたかもしれません。
しかし、「顧客第一主義」や「株主の利益極大化」の裏では、企業で働く社員や、また仕入先などの関連企業はその為に犠牲になっても良い、業績を実現するための手段としてとらえられ続けられてきた事も、事実です。
お客様を喜ばせること、株主の利益を極大化させるための業績の拡大に従事するのは、誰でしょうか?それは、社員であり、仕入先の企業なのではないでしょうか?
もし、企業が利益を目的とし、その実現のために、そこで働く社員などを犠牲にするような経営を行うとすれば、その組織の人間は、業績を高めるために努力することはないでしょう。特に、現代は人不足の時代です。そのような会社で社員が働き続ける事を望むとは思えません。
1.2 利益は目的ではなく、「人の幸せ」の為の手段
もちろん、企業である以上、利益を求めることは重要です。
しかし、これは、企業の目的である「人の幸せ」を達成するための手段であり、あくまで目的ではありません。
人を大切にする経営学会の坂本光司先生は、利益を次のように定義しています。
利益は企業経営の目的ではなく、目的である社員やその家族をはじめとした関係する人々の幸せを実現するための、手段であり結果と評価・位置付けている |
伝統的な経済学では、利益を上げるには、売上高の最大化と費用の最小化を求めます。しかし、その考えでは利益第一主義となってしまい、企業の目的や使命、そこに関わる人々を、利益実現のための手段・コストとして評価されてしまいます。
坂本先生は、利益について、「目的を実現する手段、もしくは目的を正しく実現した会社に対して結果的に与えられる神様のご褒美」とも述べています。
つまり、利益はあくまで、目的達成の手段の一つであり、結果的にもたらされるものである、ということです。決して、会社の成長、業界シェア、株価の上昇が目的となってはならないのです。
もちろん、結果として利益が出れば、社員にもたくさんの給与を支払うことができます。社員にとって、高給与も大きな魅力であり、幸せの為の大切な要素です。
1.3 経営理念・使命感は社員の幸せな活躍を作り出す手段
企業にはそれぞれ経営理念や使命感があり、それに基づき商品・サービスを開発し、営業しています。
松下幸之助氏(パナソニック創業者)は、
人々の生活に役立つ優れた品質の商品やサービスを、適正な価格で、過不足なく供給し、社会の発展に貢献するのが企業の本来の使命だ |
(パナソニックHPより)
という言葉で、経営理念・使命感は、「社会の発展に貢献」する為、と述べています。
2023年のパーソル総合研究所の調査では、就業者の社会貢献意識(ソーシャル・エンゲージメント)が高い従業員は、低い従業員と比べ幸せな活躍をしている割合が2.9倍であり、パフォーマンスなどの指標も高い傾向にあるとの調査が発表されています。
先にご紹介した京セラ社やパナソニック社のような、経営理念・使命感の追求は、社員に働く幸せをもたらすための要素であるのです。
つまり、「関係する人々を幸せにすること」の実現のために、「利益」と「経営理念・使命感」が両輪として支えていると言う事です。
利益が出る:金銭的な幸せ 経営理念・使命感:幸せな活躍 |
まさに物心両面での幸福をもたらしてくれるものこそが、企業の目的であり、企業のほかにこれを代替できるものはないのです。
2.企業が幸せにすべき「関係する人々」とは5人
1章では、企業の目的は「関係する人々の幸せ」であることを述べました。
坂本先生は、企業が幸せにすべき関係する人々はこの「5人」であると述べています。
2章では、その5人の関係者と、大切にする優先順位をご紹介します。
2.1 社員
企業活動を行う上で、一番重要な人は、社員です。
企業が活動するには、商品・サービスを購入する顧客への営業活動が必要です。その顧客と接するのは誰か、それは社員です。所属する企業に不平不満や不信感を持ちながら、その企業の為に、努力する社員は存在しません。その結果、営業活動が行き届かなくなり、顧客側にも商品・サービスが売れず、企業は衰退をします。
企業の多数を占める社員は、常に顧客第一でなくてはなりません。自分自身の給与を払ってくれるのは、企業の商品・サービスを購入してくれる顧客がいるからです。その為に、社員は常に顧客第一主義、そして企業の経営者は、顧客第一主義を目指して、社員のことを第一に考えるべきなのです。
2.2 社外社員
社外社員とは、いわゆる仕入先や外注先のことを指します。
顧客への営業活動をするにあたり、商品・サービスや販売活動のサポートをするのが仕入先・外注先です。発注者と受注者という力関係を背景に、一方的なコストカットや、理不尽な要求を行うこと、また悪い支払条件を押し付けることで、仕入をする商品・サービスの質が上がることはありません。その結果として、自社の顧客満足度も下がり、業績も衰退するのです。
仕入や外注に出す仕事というのは、企業自身ができない仕事や、やりたくない仕事であることがほとんどです。無理なコストカットや理不尽な要求は、自社でできないことをやってくれている「社外の」社員を犠牲にして、利益のみを追求することに他なりません。
仕入先・外注先も、顧客第一主義を目指してくれる企業である為に行動することが重要です。
2.3 顧客
顧客に嫌われる企業に未来はありません。
社員が常に顧客第一主義でなくてはならない理由は、自社の商品・サービスを購入してくれる顧客の存在が、企業経営に必須であるからです。その為には、社員の姿勢と、自社の商品・サービスを常に磨き続け、お客様に認められる必要があります。
顧客第一主義とは、顧客に対して、自社の社員が「感動5段階」(下記)の精神で、顧客と接することができるかどうか、で決まります。
感動5段階 |
2.4 障碍者等社会的弱者
障碍者など、社会的に弱い立場にある方を大切にする事も必要です。
これは6,000社以上の現地視察を行い、研究を続ける坂本先生が発表したもので、40年以上業績を上げ続ける企業の共通項として、障碍者の方の雇用・施設に仕事を出す・商品を購入するなど、社会全体でのとりわけ障碍者の雇用拡大に力を入れている企業が、業績もよく良い会社であるとの調査結果から導き出されたものです。
人には4つの幸せがあると言われます。
「人に愛されること」 「人に褒められること」 「人の役に立つこと」 「人から必要とされること」 |
これらはすべて仕事をすることで手に入れることができます。生まれながらにして社会的に弱い立場の皆さんを、雇用の形で、幸せをもたらすことができるのは、企業にしかできない、社会貢献です。またそのような企業が当然、顧客から応援されるので、業績も上がります。
2.5 株主
その企業の法律上のオーナーです。
株主は、左記の4名とは異なり、優先順位は下がります。なぜならば、株主の基本的な関心は、企業価値・業績だからです。これらは、先に述べた4人の幸せが達成されれば、業績や企業価値として、株主にも還元されます。
順番は先ではなく、後なのです。
3.「関係する人々を幸せにする経営」の実践例
古田土会計では、「人を大切にする経営」を掲げ、自社の存在を「日本中の中小企業を元気にし、その社員と家族を幸せにする」為にあるとして、使命感としています。
そして、経営陣は、「社員第一主義」を掲げ、社員が「お客様第一主義」に邁進できるよう、「経営計画書」の形で、社員の未来(給与体系・待遇・キャリアプランなど)を約束しています。
利益は手段、ノルマ無し、障碍者雇用、喜捨(寄付)、など、一見利益に反するような取組を行っておりますが、増収をつづけており、社員数も400名を超える大規模会計事務所へ成長しました。
これは、「関係する人々を幸せにする」為に経営することが正しかったからだと感じています。
ぜひ、この記事を読んで、企業の目的である「関係する人々を幸せにする」事に取り組んでいただく企業が増えると幸いです。
ご質問や、詳細、取り組み事例などは、私たち古田土会計へご連絡ください。
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