「三方よし」とは?そのルーツと、現代の活用事例を紹介!

    記事公開日: 2024.06.04

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    「三方よし」(さんぽうよし・さんぼうよし」という言葉を、ビジネスシーンで耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか?

     

    三方よしとは売り手よし・買い手よし・世間よしを表す、戦国~江戸時代に活躍した、近江商人の代名詞とも言える経営哲学です。

     

    現代でも、総合商社である伊藤忠商事が企業理念として掲げ、 また経営の神様と呼ばれる松下幸之助氏も大切にした言葉と言われています。

     

    この記事では、現代でも有名な経営哲学として存在する「三方よし」について、その定義や、語源、その理念を受け継いでいる企業などを紹介します。

    1.三方よしとは

     

                       (特定非営利活動法人三方よし研究所HP

     

    三方よしとは、日本に伝わる経営哲学の一つです。具体的には「売り手よし・買い手よし・世間よし」の三つの視点を指し、商売においては、売り手だけが儲けるのではなく、買い手にも価値を提供し、そして取引自体が地域・社会全体の利益につながるものでなくてはならない、とする言葉です。

     

    パナソニックの創業者、経営の神様とも呼ばれる松下幸之助氏は、「企業は社会の公器」であるとし、「人々の生活に役立つ優れた品質の商品やサービスを、適正な価格で、過不足なく供給し、社会の発展に貢献するのが企業の本来の使命」(パナソニックHPより)と述べています。このように三方よしという言葉は、現代においても多くの企業・人々に受け入れられています。

    1.1 「売り手よし」の意味

     「売り手よし」とは、商売する上で売り手自身にとって、利益がなければならないことを意味しています。ここで言う売り手とは、商品・サービスを提供する側(メーカー、商社、商店などと従業員家族などの関係者)を指します。

     

     次に述べる買い手よし・世間よしでなく、売り手を第一に語る事、売り手=自分自身の利益を重要視する事は、さすが商人との感もありますが、ボランティアではなく持続可能な貢献をするためには、最も重要である考えであるともとらえることができます。

    1.2 「買い手よし」の意味

    「買い手よし」とは、商品・サービスを購入する顧客の満足を意味します。近江商人は、商品を販売する際には品質保証を行っていたと言われています。また、一取引で莫大な利益を得ることはせず、薄利多売、長期的な経済合理性を求めたのも特徴です。

    1.3 「世間よし」の意味

    「世間よし」とは、売り手・買い手を取り巻く地域社会にとって、いい影響を与えることを指します。彼らは、教育やお助け普請と言われる、現代の公共事業のような対策にもかかわったと言われています。また、近江商人には「陰徳善事」、つまり人に知られないよう、密かに善い行いをすることこそ、重要であるとの教えがあります。多くの家の家訓に残されているこの考えは、見返りを求めない奉仕こそ、真の信用が得られることを教えてくれるものであるといえます。

    2.三方よしの語源とは

     

    三方よしの起源は、主に戦国から江戸時代にかけて活躍した、近江商人の経営理念として一般的に語られています。近江(現在の滋賀県)出身の彼らは、日本全国を行商していたために、行商先での「信用」が第一でした。その為に、売り手=自分自身だけのみならず、売り手と買い手、そしてその行商地のためを思う精神が必要とされていたからである、と伝えられています。

     

    しかし、三方よしという言葉は、実は後世の人間が生み出した造語とされています。

    近江商人が活躍した時代の彼らの商業活動や、倫理観が三方よしの理念を形成したことは間違いありません。しかしそれが「三方よし」という言葉になり、広がったのは、かなり後の時代、少なくとも20世紀に入ってからとされています。それでは、近江商人を代表する言葉である三方よしの語源は、いったい何なのでしょうか?

     

    この章では、三方よしの語源について、様々な説をご紹介します。 

    2.1 初代・伊藤忠兵衛(伊藤忠商事・丸紅創業者)

    初代・伊藤忠兵衛氏は、総合商社である伊藤忠商事・丸紅の創業者として、近江を代表する大商人です。三方よしを研究する、滋賀大学宇佐美名誉教授によると、 三方よしのルーツは、初代・忠兵衛の「商売は菩薩の業(行)、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの」という言葉にあるとされています。

    (伊藤忠商事HP・「近江商人研究と「三方よし」論(宇佐美英機)より)

     

    2.1 渋沢栄一(日本資本主義の父)

    日本資本主義の父、「論語と算盤」でも有名な渋沢栄一氏も、三方よしの精神に触れています。

    「われも富み、人も富み、而(しか)して国家の進歩発達を助ける富にして、はじめて、真正の富と言い得るのである」(「渋沢栄一訓言集」)と述べています。

     

    2.3 廣池千九郎

    「道徳科学(モラロジー)」の提唱者である廣池千九郎氏は、「三方宜し」という言葉を、指導の場でたびたび使っていたといわれています。これは「自分よし・相手よし・第三者よし」を指しており、これが現代の三方よしにつながったとされるものです。

    (廣池千九郎記念館HP

     

    2.4 松下幸之助

    三方よしとともに、インターネット上では、近江商人「商売十訓」と呼ばれるものも見かけます。

    これは、パナソニック創業者、「経営の神様」と称される松下幸之助氏が提唱していた考え方である、「商売戦術30カ条」(昭和11年発行「松下電器連盟店経営資料」)を引用したものだといわれています。(近江商人研究の第一人者である、同志社大学末永名誉教授による)

    「商売戦術30カ条」もとても経営の参考になるものですが、この第一条「商売は、世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」が三方よしの語源となった、と言われています。

     

    ここで取り上げた説以外にも、さまざまな説があります。しかし、すべての説に共通していることは、三方よしという言葉は、「近江商人の到達した普遍的経営理念をごく簡略に示すためのシンボル的標語」である事です。

     

    三方よしというシンボル的な言葉が生まれたからこそ、近江商人の経営哲学は、現代にも生きているのかもしれません。

    3.現代でも生きている三方よし

    三方よしは、当時の近江商人が提唱していた言葉では無く、後世に生まれたシンボル的標語であるとしながらも、この理念は現代の企業・経営者にも受け継がれています。

    それは、売り手・買い手・そして社会全体の視点を持った経営は、現在の企業経営においても、CSRやサスティナビリティといった観点から高く評価されているからです。

     

    この章では、三方よしの精神を実践している企業や経営者を取り上げます。

    ・伊藤忠商事:三方よし

    伊藤忠グループは、創業者・伊藤忠兵衛の言葉から生まれた「三方よし」の精神を新しい企業理念に掲げます。これは、1858年の創業以来、伊藤忠の創業の精神として現在まで受け継がれ、そして未来においても受け継いでいく心です。

    現代における近江商人の代表ともいえる企業らしく、企業理念はずばり「三方よし」です。

     

    ・本田技研工業:買う喜び・売る喜び・創る喜び

    三つの喜び

    買う喜び:Hondaの商品やサービスを通じて、お客様の満足にとどまらない、共鳴や感動を覚えていただくことです。

    売る喜び:価値ある商品と心のこもった応対・サービスで得られたお客様との信頼関係により、販売やサービスに携わる人が、誇りと喜びを持つことができるということです。

    創る喜び:お客様や販売店様に喜んでいただくために、その期待を上回る価値の高い商品やサービスをつくり出すことです。

     

    創業者・本田宗一郎氏は「売ってよし・買ってよし・つくってよし」という「新・三方よし」を理念に掲げていましたが、現在はそれをさらにアレンジして企業理念としています。ものつくり企業らしいメッセージです。

     

    ・住友グループ:自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)

    「自利利他」とは仏教用語で、「自らの仏道修行により得た功徳を、自分が受け取るとともに、他のためにも仏法の利益をはかる」という意味。「公私一如」とは、「公」に思えることも「私」に通じ、この二つは相反せず一つのものであるという意味だ。

    住友の事業は、「住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない」と、「公益との調和」を強く求めている。

    日本を代表する住友グループも、三方よしの精神が息づいている企業の一つです。この標語は、住友財閥としての理念として、明治以前から提唱されています。

     

    ・サントリー:利益三分主義

    事業活動で得たものは、自社への再投資にとどまらず、お客様へのサービス、社会に還元すること。

    「おかげさまで」の心で、事業の成功をステークホルダーや社会全体と分け合い、互いに発展・成長していける関係づくりに全力を注ぐこと。これもまた、サントリーグループ不変の価値観です。

     

    サントリー創業者・鳥居信治郎氏から受け継がれる理念であり、現在でも文化・社会貢献活動に大きく貢献しています。

     

    4.まとめ

     

     

    現代では、SDGsや、CSRCSV経営ESG経営など様々な経営方針が提唱されていますが、「三方よし」は、日本ならではの経営理念と言えます。

     

    世界の100年企業における割合が日本がダントツの一番であることも、このような精神が永らく受け継がれてきたからなのかもしれません。

     

    また、最近では

    社員とその家族

    社外社員とその家族

    現在顧客と未来顧客

    地域や地域の社会的弱者(障がい者や高齢者)

    株主・関係機関

     

    「五方よし」経営を提唱する坂本光司氏(元法政大学教授・人を大切にする経営学会 会長)など、三方よしの理念が発展を遂げています。

     

    ぜひ、皆様がいる組織でも、「三方よし」の精神を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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