月次決算とは、1ヶ月ごとの営業成績や財務状況を明らかにすることを目的とした決算業務です。
月次決算を迅速に実施するためには、社員とのスケジュールの共有や経費精算の締め日の徹底などをする必要があります。
そこで今回は、月次決算の具体的な業務内容について解説します。月次決算についてより詳しく知りたい方は、本記事をぜひ、ご覧ください。
決算手続きとはどういったものなのだろうか
決算手続きとは、元帳にまとまったデータから試算表を作り決算整理仕訳を追加した後、財務諸表を作成する決算業務です。
決算整理仕訳とは、決算をする際に最終修正を実施することを目的に計上する仕訳のことです。
通常業務であれば、請求書や領収書等から仕訳を記載することを繰り返して元帳へデータを集めています。
決算手続きでは、通常業務が日常的に記載しているデータを間違いが生じないように財務諸表へ書き写す必要があるのです。
また、決算手続きを効率的に実施するためには、決算整理仕訳の流れを明確に理解しておく必要があります。決算整理仕訳の基本的な流れは、以下の通りです。
- 現金と預金の残高を実際に確認して帳簿との過不足の有無を確認する
- 買掛金や売掛金の決算日の金額を修正する
- 前払金の調節を実施する
- 棚卸資産を計上したうえで売上原価を算出する
- 固定資産の減価償却を実施したうえで減価償却費を費用計上する
- 決算時の時価に基づいて有価証券の評価を実施する
- 貸し倒れが予測される場合は貸倒引当金を計上する
- 追加仕訳を仕訳帳へ反映させたうえで総勘定元帳へ転記する
ここで解説した流れを参考にしたうえで、決算手続きを実施しましょう。
月次決算と年次決算のちがいとは
月次決算を適切に実施するためには、年次決算との違いを把握しておかなければいけません。月次決算と年次決算の違いとして、以下の3つを解説します。
- 計算項目が異なる
- 決算についての趣旨が異なる
- 目的と必要性が異なる
ここで解説した違いを理解したうえで、月次決算を実施しましょう。
計算項目が異なる
月次決算と年次決算の違いとして、計算項目が異なることが挙げられます。
月次決算では1ヶ月分の利益を計上する必要があるため、減価償却費の金額を12分の1にしなければいけません。
しかし、年次決算では減価償却費を年間分計上して、1年間分の利益を確定する必要があります。
月次決算で減価償却費を年間分計上してしまったら、決算業務の計算そのものを間違えてしまうかもしれません。
そのため、月次決算と年次決算の計算項目が異なることを理解したうえで決算業務を実施しましょう。
棚卸資産と貸倒金の計上は月次決算で実施する必要がありますが、税金の計上は年次決算でしかおこないません。
月次決算と年次決算のちがいを理解したうえで、月次決算を実施しましょう。
決算についての趣旨が異なる
月次決算と年次決算の違いの1つとして、決算に関する趣旨が異なることが挙げられます。月次決算の趣旨は、直近の自社の業績を把握して年間の利益の調整を実施することです。
しかし、年次決算は課税所得の確定や財務諸表の作成を目的として決算業務を実施します。月次決算と年次決算の趣旨の違いを理解してそれぞれの決算業務をしましょう。
例えば、月次決算の利益を12倍すれば、おおよその年間の自社の利益が算出できます。
年次決算は課税所得の確定や財務諸表の作成を目的にしているため、数字の記載ミスは許されません。
月次決算は自社の利益を算出するために、年次決算は課税所得の確定や財務諸表の作成をするために実施してください。
目的と必要性が異なる
月次決算と年次決算では、目的と必要性が異なります。月次決算は、自社の事業動向や損益状況を把握するために作成する傾向があります。
しかし、年次決算では納税額の決定、次年度の経営戦略、資金繰りを実施します。
年次決算での経営状況を参考にし、企業への受発注や投資先の決定をするため、数字の記載ミスをしてはいけません。
数字の記載ミスをしてしまった場合は、外部からの信用を大きく失ってしまいます。
また、月次決算は細かな経営分析と状況把握を実施するために必要とされています。
年次決算は、企業の内情と情勢の把握を目的として実施し、企業全体の方向性を策定しやすくなるでしょう。
ここで解説した内容を参考にし、月次決算と年次決算の目的と必要性を理解しましょう。
月次決算は簿記の知識が必要?
月次決算の実施には、日商簿記2級の知識を保有しておいた方が良いでしょう。月次決算を実施する際に、仕訳や記帳の知識が必要となるからです。
厳密には月次決算の業務を実施する際には、資格は必要とされません。
ただ、月次決算を実施する際に日商簿記2級を保有していなければ、適切な仕訳や記帳ができない可能性があります。
月次決算を実施する際は、業種や業界のそれぞれの会計処理に関する理解も求められます。
そのため、日商簿記2級の資格を保有している社員へ月次決算の業務を任せれば、安心できるでしょう。
基本的に経理部に所属する社員は請求書の発行や会計ソフトへの入力などを通して、段階的に月次決算の業務へ携わる傾向があります。
日商簿記2級を保有していない新入社員に対しては、段階的に決算業務へ携われるようにするとよいでしょう。
月次決算の流れとは?
月次決算の基本的な流れは、以下の通りです。
- 現金および預金の残高確認
- 棚卸高の集計
- 仮払金や仮受金の振替
- 経過勘定の処理
- 減価償却費の計上
- 退職給付費用などの計上
- 月次資料の作成
- 財務分析
- 月次報告
ここで解説した流れを把握したうえで、月次決算を実施しましょう。
①現金および預金の残高確認
月次決算を実施する際は、現金および預金の残高確認をする必要があります。現金および預金の残高確認では、帳簿残高と実際の口座残高の差異の有無を確認します。
もし、帳簿残高と実際の口座残高に差異が発生していた場合は、原因を追究したうえで修正するとよいでしょう。
帳簿残高と実際の口座残高に差異が発生している原因を追究しなければ、次回の月次決算でも間違いが生じてしまうかもしれません。
帳簿残高と実際の口座残高に差異が生じないようにするためにも、現金および預金の残高確認では間違いが発生している原因を必ず確認しましょう。
また、金融機関別に作成した利息計算書を受取利息の帳簿残高と同時に確認することも忘れないようにしてください。
②棚卸高の集計
現金および預金の残高確認が完了したら、棚卸高の集計を実施する必要があります。棚卸高の集計では、現在の在庫数と帳簿での金額が一致しているのかを確認しましょう。
棚卸高の集計では、社外に保管している在庫や不良品、長期滞留在庫、返品の有無を確認してください。棚卸高の集計の数を間違えないように、隅々まで確認するとよいでしょう。
棚卸高の集計額に差異が発生していたら、一から在庫数を確認する必要があります。
ただ、棚卸資産の管理手続きが整備されている場合にのみ年次決算や四半期決算の実地棚卸が省略できる可能性もあるので、確認してみてください。
③仮払金や仮受金の振替
棚卸高の集計が完了したら、仮払金や仮受金の振替を実施しましょう。仮払金や仮受金の振替では、一時的に仮勘定にしておいた勘定科目を適切な科目に振り替える必要があります。
仮勘定のままでは適切な勘定科目に振り分けられていないため、自社の明確な経営状況が把握できないからです。
自社の明確な経営状況を把握するためにも、仮払金や仮受金の振替をしなければいけません。
ほかにも、仮勘定の振替をする際は、前払費用の計上漏れの有無や長期にわたって未精算のものはないかを確認するとよいでしょう。
仮払金や仮受金の振替で全ての勘定科目を適切な科目に振り分けていることが確認できたら、次のステップで決算業務を実施してください。
④経過勘定の処理
仮払金や仮受金の振替が実施できたら、経過勘定の処理を実施しなければいけません。
経過勘定の処理では、当月分の費用や収益を未払費用や未収収益としてそれぞれの勘定科目に反映します。
例えば、経過勘定の処理では給与残高が0になっているのかを確認したり、長期未払費用の取引の有無をチェックしたりする必要があります。
経過勘定の処理を実施する際は、事前に対象項目や計上基準を設定しておけば迅速に算入が完了します。
月次決算を効率的に進めていくためにも、経過勘定の処理を実施する際は事前に対象項目や計上基準を設定しておくとよいでしょう。
⑤減価償却費の計上
経過勘定の処理を完了したら、減価償却費の計上を実施する必要があります。
減価償却費の計上では、1年間の費用を見積もったうえで月額費用として12分の1の価格を算入してください。
そもそも減価償却費とは、固定資産の費用の取得にかかった費用を耐用年数に応じて配分して費用を計上する際に活用する勘定科目です。
また、減価償却できる資産とできない資産の一覧は、以下の通りです。
減価償却できる資産 |
建物、パソコン、プリンター、車両、構築物、ソフトウェア、商標権、特許権など |
減価償却できない資産 |
土地、電話加入権、稼働休止中の資産、借入権等、書画など |
減価償却できる資産は、以下の2つの項目に当てはまる場合をいいます。
- 時間が経過するにつれて劣化する資産
- 業務で使用している資産
一方で、減価償却できない資産は、以下の通りです。
- 時間が経過しても劣化しない資産
- 業務で使用していない資産
上記の内容を参考にしたうえで、減価償却費の計上を実施しましょう。
⑥退職給付費用などの計上
減価償却費の算入が完了したら、退職給付費用などの計上を実施する必要があります。
退職給付費用などの計上では、1年間の費用を見積もったうえで月額費用として12分の1を算入しましょう。本項では、退職給付費用以外にも以下の項目を計上する必要があります。
賞与 |
通常年2回払い |
各種保険料 |
損害保険は年1回払い、生命保険の支払い回数はさまざま |
労働保険料 |
通常年3回払い、7、10、1月払い |
固定資産税 |
通常4回払い |
また、退職給付費用などの計上を実施する際は、以下の3つの項目を確認するとよいでしょう。
- 固定資産と会計帳簿の取得金額や減価償却費、帳簿金額の一致を確認する
- 各種保険料の月額支払い費用の有無を確認する
- 固定資産税を中心とした税務関係の月額支払い費用の有無を確認する
ここで解説した内容を参考にし、退職給付費用などの計上を実施してください。
⑦月次資料の作成
退職給付費用などの計上が完了したら、月次資料の作成をする必要があります。月次資料の作成では、1ヶ月以内の仕訳内容をすべて総勘定元帳へ転記しましょう。
月次資料の作成では、以下の8種類の資料を用意する必要があります。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 各試算表
- 経費推移表
- 借入金一覧表
- 資金繰り表
- 在庫一覧表
- 受注残高表
また、月次資料で作成する各試算表には、以下の3つの種類があります。
合計試算表 |
勘定科目の貸借それぞれの合計金額が記載されている試算表 |
残高試算表 |
勘定科目の残高のみを記載した試算表 |
合計残高試算表 |
合計試算表と残高試算表を組み合わせた試算表 |
ここで解説した内容を参考にし、月次資料の作成を実施しましょう。
⑧財務分析
月次資料の作成が完了したら、財務分析を実施する必要があります。財務分析とは、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表から自社の経営状況を分析する方法のことです。
財務分析には、以下の4つの分析方法を活用するとよいでしょう。
収益性分析 |
企業が所有している資本を活用してどれほど効率的に利益を得ているのかを表す指標 分析で高い数値を出すと、金融機関からの調達や投資家からの出資を受けやすくなる |
安全性分析 |
企業の支払い能力の有無や倒産リスクがどれほどあるのかを表す数値 新規取引先企業の支払い能力の確認や投資家・金融機関が倒産リスクを確認する際に用いられる |
生産性分析 |
企業が人材や設備などの資源を効率的に活用しているのかを確認するための指標 例えば、労働者1人当たりや機械1台当たりといった単位でどれほどの利益を得られているのかを表す |
成長性分析 |
企業がこれからどのように成長していくのかを確認するための指標 一定期間の企業の売上高や総資本などの変化に着目するので、算出した数字が高いほど成長率が高くなる |
ここで解説した内容を参考にし、財務分析を実施しましょう。
⑨月次報告
財務分析が完了したら、月次報告を実施する必要があります。月次報告では、適切な経営管理ができているのかを資料にまとめたうえで経営陣へ報告します。
月次報告を実施する際は、年間推移や月別予算、前年同月との実績を対比する書類などを用意しましょう。
また、月次報告を実施したら、経営改善策を考えなければいけません。
自社の売上が先月よりも低かったら、新規顧客を獲得するためにキャンペーンを開催したり、商品の価格を値下げしたりする必要があります。
月次報告を経営改善に活用し、自社の業績をさらに向上させられるように努めましょう。
月次決算は修正時に注意が必要
月次決算を修正する際は、注意が必要です。それぞれのパターン別に、決算修正の作業手順を解説します。収益の計上忘れが発生した場合は、以下の手順で実施しましょう。
- 当期の期首日付で修正用の振替伝票を作成する
- 借方へ資産科目を、貸方へ前期損益修正益を記入する
- 摘要欄へ取引内容が第三者が見ても理解できる内容と修正用仕訳の根拠を添付する
また、費用の計上忘れが発生した場合は、以下の手順で月次決算の修正を実施してください。
- 当期の期首日付で修正用の振替伝票を作成する
- 借方へ前期損益修正損を、貸方へ資産科目または負債科目を記入する
- 摘要欄へ取引内容と根拠を添付する
資産や負債の移動間違いに関する修正をしたい場合は、以下の手順で実施しましょう。
- 今期の期首日付で振替伝票を作成する
- 借方と貸方に、資産または負債科目と記入する
- 修正用仕訳であることが分かるようなメモを添付する
上記の手順を参考にしたうえで、月次決算の修正を実施してください。
月次決算を早期におこなうポイント3選
月次決算を早期に実施するポイントとして、以下の3つを解説します。
- 社員とスケジュールを共有する
- 経費精算の締め日などを徹底する
- 経理ソフトや会計ソフトを活用する
月次決算を早期に完了させるためには、上記のポイントを参考にする必要があります。ここで解説した内容を参考にしてうえで、月次決算を実施しましょう。
①社員とスケジュールを共有する
月次決算を早期に実施するためには、社員とスケジュールを共有する必要があります。
社員とスケジュールを共有しておけば、書類作成やデータのまとめなど具体的な業務へ早いうちに取り組めるようになるからです。
社員とスケジュールを共有して計画的に業務を遂行すれば、通常業務と並行して決算業務を完了させられます。
もし、月次決算のスケジュールを社員と共有しなければ、会計処理に時間がかかってしまい、経費精算の締め日に間に合わなくなるかもしれません。
効率的に月次決算を実施するためにも、社員とスケジュールを事前に共有して迅速に決算業務へ取り組めるようにする必要があります。
②経費精算の締め日などを徹底する
月次決算を迅速に実施するためには、経費精算の締め日などを徹底することが大切です。
経費精算の締め日を徹底すれば迅速に経営改善ができるため、自社の業績を高めやすくなります。
また、経費精算の締め日を徹底するためには、定期的に社員の進捗状況を確認するとよいでしょう。
定期的に業務の進捗状況を把握できれば、後れを取っている従業員の決算業務を他の社員が手伝って締め日を守れるようになるからです。
各部署からの経費精算書類や請求書などの必要書類を早めにまとめておくことも忘れないようにしましょう。
経費精算の締め日などを徹底し、迅速に月次決算を実施するようにしてください。
③経理ソフトや会計ソフトを活用する
月次決算を実施する際は、経理ソフトや会計ソフトを活用するとよいでしょう。経理ソフトや会計ソフトを活用することで、効率的に決算業務を実施できるからです。
例えば、経理ソフトや会計ソフトを活用した場合、乗換案内アプリと連携して自動的に交通費の申請や領収書の写真をスマートフォンで撮影して自動的に仕訳の入力ができます。
ほかにも、電子帳簿保存法に対応している経理ソフトや会計ソフトを活用すれば、領収書のスキャナ保存ができてペーパーレス化にもつながります。
また、クラウド型の経理ソフトや会計ソフトを活用すれば、いつでもどこでも利用できるので、社員と迅速に自社の経営状況の情報共有が可能です。
経理ソフトや会計ソフトを活用し、効率的に月次決算を実施するとよいでしょう。
ポイントをおさえてスピーディーに月次決算をおこなう
今回は、月次決算の具体的な業務について解説しました。月次決算とは、1ヶ月ごとの自社の財政状況を明らかにすることを目的とした決算業務です。
月次決算を迅速に実施するためには、社員とスケジュールの共有や経理ソフトの活用をするとよいでしょう。
月次決算をより効率的に実施するためにも、本記事を参考にして決算業務に対する理解を深めましょう。
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