「自社の課題は何でしょうか?」中小企業を経営者の皆さんは、すぐに答えることができるでしょうか?
中小企業の経営者は、自ら営業・製造・銀行対応・採用etc、まさに「先頭を切って」日々仕事に取り組んでいらっしゃいます。ですが、「自社の課題」を明確に答えることのできる経営者の方は少ないのではないでしょうか?自社の課題が明確になれば、成長や安定した経営に近づくことができます。
古田土会計では約3,700社の中小企業経営者と接する中で分析した、【中小企業の課題】をランキング形式で解説します。自社の課題発見に役立てれば幸いです。
1.中小企業の課題Top13
古田土会計は中小企業に特化した国内最大規模の会計事務所グループです。現在約3,700社の中小企業のお客様に経営に関するアドバイスを行っております。
こちらのグラフは、2023年9月に古田土会計のお客様である中小企業の経営者約1,000名の方を対象に、「現在抱えている課題は何でしょうか?【第1位】を教えてください」という内容で、直接アンケート調査を行った結果です。
中小企業の経営者約1,000名のアンケート結果は、回答の多い割合から順に、
① 利益を増やしたい:回答率29.9%
② 売上を上げたい:回答率18.4%
③ 財務体質を改善したい:回答率11.8%
④ 新事業をやりたい:回答率6.9%
⑤ 事業承継の方向性を明確にしたい:回答率4.2%
⑥ 理念の浸透を図りたい:回答率3.5%
⑦ 資金繰りを改善したい:回答率3.5%
⑧ 給与を増やしたい:回答率3.1%
⑨ 後継者教育をしてほしい:回答率2.4%
⑩ 社員教育をしてほしい:回答率2.4%
⑪ 戦略を教えてもらいたい:回答率2.4%
⑫ 社長の考え方を社員に伝えたい:回答率2.1%
⑬ 役員報酬を増やしたい:回答率0.3%
という結果となりました。
このアンケート結果は、現役の中小企業経営者に直接ヒアリングした課題です。つまり、現在の中小企業のリアルな課題であるといえます。
皆様の会社に当てはまる課題はありましたでしょうか?
2.自社の経営課題を発見する為の38のチェックリスト
1章で解説したアンケート結果では、具体的な指標や、満たすべき水準が不明確であるという問題点があります。
その為、今回古田土会計がお客様に指導をさせていただいている使用・水準を用いて、より具体的に「自社がどのような状態であれば課題か?」を発見する為の38のチェックリストを作成しました。
このチェックリストに当てはまる項目があれば、そこが自社の課題であるという事になります。
是非、このチェックリストを使って、自社の課題発見に役立ててみてください。
2-1 利益を増やしたい:回答率29.9%
① 経常利益が赤字
国税庁が発表している2020年度の日本の中小企業の黒字割合は35.0%です。(反対に、赤字企業は65.0%も占めています)
まずは黒字化が最優先です。
ちなみに古田土会計のお客様の黒字化割合は78.5%と、全国平均の2倍以上の割合を占めています。
② 黒字だが借入返済額を賄うことができない
借入の返済原資の一つに、税引後利益が挙げられます。年間の借入返済額より税引後利益の金額が小さければ、その分会社のキャッシュは減少をし、追加借り入れなどの必要性が生まれます。
利益目標金額は【借入返済額を賄う金額】であることが求められます。
③ 売上高経常利益率10%が確保できていない
売上高経常利益率は、【経常利益÷売上高】で計算され、売上高のうち、経常利益として残る割合の事を指します。京セラ創業者である稲盛和夫氏は、売上高経常利益率10%が企業の利益水準として必要なラインであると述べています。
④ 損益分岐点比率80%を確保できていない
損益分岐点比率は、【固定費÷粗利益額】で計算されます。【粗利益=売上高-仕入高】で求められる、自社が生み出した付加価値の事です。そこから、毎月かかる経費と除いた残りが経常利益となり、粗利益額のうち、20%は経常利益として残すべき、という考え方です。
損益分岐点比率は業種による粗利益率の高低に影響はない為、全業種にあてはまる指標といえます。
2-2 売上を上げたい:回答率18.4%
① 「顧客が誰か」が明確になっていない
自社のお客様は誰か?が明確になっていなければ、お客様が求めている商品・サービスを提供することはできません。いい商品・サービスは、「品質が高いもの」ではなく「売れるもの」です。
古田土会計では、お客様を「社員を大切にしようとする中小企業」と定義しています。
② 「顧客にとっての価値」が明確になっていない
自社の商品・サービスでお客様に「どのような価値をもたらすか?」、モノではなくコトを明確にすべきです。
古田土会計では、「社長になって年数の浅く、数字に少し弱いが、会社よよくするために社員みんなで頑張りたい」と考えているお客様に、明るい未来を見ていただき、夢・希望・やすらぎ・誇りを持てるようにすることを、私達が提供する価値と考えています。
③ 単価を上げるか、販売数量を増やすかの方針が明確ではない
売上高を上げるには、単価を上げるか、販売数量を増やすことが必要です。しかし、業種や粗利益率によって、採るべき方法は異なります。
・粗利益率の高い商品:販売数量を上げる
・粗利益率の低い商品:単価を上げる
方法をまず考えることがセオリーです。
④ 商品別販売計画を作成していない
自社が売りたい商品と、市場が求めている商品には「差」があります。自社の売りたい商品=市場が求めている商品であることを分析する為には、商品別販売計画を作成し、常に売れる商品に経営資源を投下する必要があります。
⑤ 付加価値から価格を決定していない
商品・サービスの価格は、①ライバルの価格②製造コスト③付加価値の3つの基準から決定します。中小企業は③付加価値、つまり商品・サービスが生み出すお客様の価値から価格決定をすべきです。
①ライバルの価格②製造コストから商品価格を決定すれば、常に他者の影響による売上の減少リスクにさらされ続けます。
2-3 財務体質を改善したい:回答率11.8%
① 現預金・借入金・自己資本の残高を把握していない
財務体質の改善とは、「借入金を減らし、現預金を増やしながら、自己資本を高める事」です。自社の現在の現預金・借入金・自己資本の残高を把握していることは必須です。
② B/Sがわからない
B/S(貸借対照表)は自社の財務体質を示すものです。B/Sの理想の形のイメージは
・左側「資産の部」が逆三角形:固定資産が少なく、預金が多い
・右側「負債・純資産の部」が三角形:流動負債・借入金が少なく、純資産が多い
形です。
③ 現預金比率・借入金依存度・自己資本比率がそれぞれ30%以上(借入金依存度は30%以下)でない
総資産(自社が有する資産)に占める現預金・借入金・自己資本の割合の事を指し、
・現預金比率・自己資本比率:30%以上
・借入金依存度:30%以下
であることが良い財務体質の条件です。
④ 現預金は固定費の6ヶ月分を確保できていない
現預金の残高は、毎月経常的に支出される固定費(給与・家賃など)の6ヶ月分は確保しておく必要があります。コロナ禍や事故などによる事業停止リスクにそなえ、事業を継続する為には、現預金の蓄積が重要です。
2-4 新事業をやりたい:回答率6.9%
① 研究開発費・広告宣伝費に投資していない
将来の売上を創るための投資である研究開発費・広告宣伝費は欠かせません。どんなに優れた商品も時間と共に必ず売上の低下を招きます。だからこそ、常に新しい商品・サービス開発を行い続ける事が必要です。
古田土会計では研究開発費や広告宣伝費の事を未来費用と呼び、経常利益の30%までを限度に新事業へ投資をしています。
② 多角化している
中小企業は「多角化」を避け、常に既存事業か既存市場の中で戦うことが必要です。「戦略的経営の父」と呼ばれるアンゾフは、事業を4つのフレームに落とし込んでいます。そして「多角化」は最もハイリスクであり、投資額も大きくなると述べています。中小企業は今持っているノウハウ・経験を活かすことができる
・市場浸透戦略
・新商品開発戦略
・新市場開拓戦略
の中で新事業を構築すべきです。
③ 経営者自らがお客様・現場を訪問をしていない
中小企業において、新事業を生み出すのは経営者です。その経営者がお客様・現場を見ていなければ、市場のニーズをとらえることはできません。
古田土会計では、社長室はありません。受付の一番近い所に経営者が座り、全てのお客様のお出迎え・お見送りをしています。
2-5 事業承継の方向性を明確にしたい:回答率4.2%
① 後継者を積極的に探していない
大原則は、「社内で後継者を探す」事です。2022年の帝国データバンクの調査では、後継者の2/3は社内から選ばれています。
社内から選ぶことの大きなメリットは、①経営者が後継者の事を良く知っている安心感②従業員の納得を得られやすい事です。
② 後継者候補に成長の機会を与えていない
経営者には決定し、実践する能力が求められます。後継者候補にもその経験をさせ、能力を試す機会を与えることが、経営者・後継者お互いに資質を確認する上で重要です。
引継期間は5年を軸に考え、その中で様々なチャレンジをさせ見極めることが必要です。
③ 引継ぐ権利を明確にしていない
事業承継で引き継ぐ「事業・経営・財産」の3つを整理していることが重要です。
事業:本業・従業員などのヒト等
経営:株式・経営者保証など
財産:社長の財産(退職金)・納税など
2-6 理念の浸透を図りたい:回答率3.5%
① 経営理念を作成し、社員に公表していない
経営理念は、自社の存在理由と、自社の未来を指し示すものです。旅行でいうならば、「目的地」です。これが無くては、自社の存在や、向かうべき方向を従業員に説明する事すらできません。
京セラの経営理念である「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」も、稲盛氏が自社の存在理由と未来を示したものです。そしてそれを伝え続けることによって、京セラは大きく成長しました。
② 自社の未来像を提示していない
従業員は、自分自身とその家族を幸せにするだけでなく、自分の成長や、やりがい・生きがいを常に求めて働いています。未来像とは、自社のこれからの姿のことです。未来もこれまでと変わらない、だけでは理念は浸透しません。「これからもっと良くなる」ことを説明する必要があります。
③ 経営者自らが繰り返し従業員に説明していない
経営理念は掲げるだけでなく、経営者自らが繰り返し従業員に説明する必要性があります。
41年間増収を続けている古田土会計では、社長交代した今でも、週2回創業者の古田土より経営理念の浸透の為の勉強会を開いています。また、毎日の朝礼では、経営計画を読み合わせ、月に12時間以上もの時間をかけて、経営理念の浸透を図っています。
2-7 資金繰りを改善したい:回答率3.5%
① 借入金返済予定表を作成していない
今年度の借入金の返済額が明確にならなければ、資金をどれだけ確保すべきかがわからず、常に資金繰りに追われることとなります。
返済予定から逆算して、追加の調達計画や利益計画を作成する必要があります。
② 固定資産(土地・建物等)はすべて購入している
固定資産(特に土地・建物等)の購入は、一度に多額の資金が流出することから、資金繰り上大きなリスクとなります。
本業を営む上で必要な機械などはやむをえませんが、本業の収益に影響を及ぼすことのない資産の取得時には、賃貸やリースの活用も考慮すべきです。
古田土会計では現在でも自社ビルは持っていません。自社ビルが売上を上げるわけではないからです。
③ フリーキャッシュフローで借入金返済額を賄なうことができていない
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、営業キャッシュフロー+投資キャッシュフローの合計の事で、自社の経営で生み出したキャッシュの事を指します。借入金返済を賄うだけのFCFが生まれていないという事は、借入に依存した経営であるという事になります。
④ 会社規模が急拡大している(売上・固定費)
会社規模が急激に拡大すると、運転資金の増加・固定費の支出も大きくなり、利益が残らず、キャッシュが増加しません。
資金繰りの安定のためにはフリーキャッシュフローの増加を目指した、安定成長が重要です。
2-8 給与を増やしたい:回答率3.1%
① 事業所規模別・企業規模別の平均給与額を超えていない
国税庁の令和4年度民間給与実態統計調査では事業所規模別・企業規模別の平均給与を公表しています。
給与水準がこの2つの水準を超えていなければ、早急に引上げを検討すべきです。
② 地方公務員の平均年収659万円を超えていない
総務省の令和3年度地方公務員給与実態によると、地方公務員の年収は、平均年齢42歳で年収659万円となっています。
③ 年収が「年齢×15倍」以下
「日本で一番大切にしたい会社」の著者である坂本先生は、中小企業の給与の目安は、「年齢の15倍」と述べています。つまり、30歳:450万円、40歳:600万円となります。
ちなみに②で述べた地方公務員の平均は15.7倍です。
2-9 後継者教育をしてほしい:回答率2.4%
① 経営計画書を作成していない
後継者にとって重要なことは、「先代や会社の経営方針を尊重すること」です。
会社がこれまで存続してきたのは、経営者と従業員が、経営方針に従って努力してきたからです。これを明確にし、後継者に伝える事が必要です。
② 自社の未来像を共に考える機会が無い
経営者が変わっても、会社は常に存続し続ける為には、事業を常に見直し続けなければいけません。経営の未来像を共に作ることで、今までの経営ノウハウを伝え、どの様に変革してきたかを教育することができます。
2-10 社員教育をしてほしい:回答率2.4%
① 数字教育を経営者が行なっていない
従業員には経営者自らがお金の儲け方・残し方を教育し、どの様に日々の仕事に取り組むべきかを考えさせる必要があります。
具体的には、従業員の給与などの固定費を知り、そこから逆算していくらの売上が必要になるのか、等です。
古田土会計では、「未来会計図」を作成し、経営者だけでなく社員にも数字教育を行います。
② 事例共有の仕組みがない
様々な情報をタイムリーに従業員に伝える事も重要です。経営者や一部の従業員だけが教育を受けられるのではなく、全社員が成長できる機会と仕組みを構築しなければいけません。
古田土会計では、創業者による数字教育を月4時間に加え、ミスなどの情報も全社員に発表し、事例の共有を行います。
2-11 戦略を教えてもらいたい:回答率2.4%
① 自社の状況を把握していない
代表的なものはSWOT分析ですが、自社の置かれている状況を把握しているかどうか、が重要です。
古田土会計では、以下のように自社の立ち位置を分析しています。
② 自社の商品・サービスの差別化要因を理解していない
商品・サービスの価値は、
商品・サービスの価値=理念×製品の価値×サービスの価値×情報の価値
で定義されます。【理念・製品の価値・サービスの価値・情報の価値】のそれぞれで、ライバルとの差別化された項目を明確化することを怠ると、価格競争に巻き込まれます。
2-12 社長の考え方を社員に伝えたい:回答率2.1%
① 社員教育を行なっていない
2-6・2-10で述べたことを実践しているでしょうか?
2-13 役員報酬を増やしたい:回答率0.3%
① 経営者の年収は1,021万円以上である
こちらは㈱パソナグループの渡辺社長にも評価された、古田土会計のお客様1,314社に調査した「経常利益」と「社長の役員報酬」のアンケート結果です。その結果、中小企業の社長の平均年収は1,021万円でした。
重要な事は、「利益」を基に報酬を決定することが必要であるという事です。
② 役員報酬は、社員の平均年収×5倍を超えている
「日本で一番大切にしたい会社」の著者である坂本先生は、社長の役員報酬は社員の平均年収の5倍まで、とも述べています。
利益が出ているから、世間相場以上の給与を従業員に払っているから、という理由だけで、役員報酬を高額にすることは、周囲の理解を得られるとは言えません。
3.まとめ
いかがでしたでしょうか?チェックリストに1つでもチェックがある項目は、それが御社の課題である可能性があります。
是非、自社の課題発見のヒントになれば幸いです。
課題解決のために何が必要か、お困りの方は是非我々古田土会計へご相談ください。
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