月次決算とは
月次決算とは、経営成績と財政状況を確定するという作業で、事業の年度末に行う年次決算とは別に、この作業を毎月一ヶ月単位で行うことを指します。この作業の目的は、営業成績と財政状況などの経営を管理するために参考となる情報を経営陣に伝えるために行いますので、予算や計画との比較をするために、正確性・詳細性よりも概観的で迅速な情報が必要になります。
また、経理・財務には、月次決算の早期化とKPI(「Key Performance Indicator」重要業績評価指標、目標達成のためのプロセスが適切に実行されているかどうかを評価する指標)に基づく予実差異分析が求められます。今回は、月次決算の目的に着目して、月次決算で作成すべき報告書を解説していきます。
月次決算と年次決算の違いとは
月次決算と年次決算はなにが違うのでしょうか。年次決算は年に一回一年間の経営成績と財務状況を確定する作業です。一方で、月次決算はその作業を月に一回一ヶ月単位で作業をおこないます。
また、年次決算は会社法や金商法、法人税法などの法律で実施することが義務づけられていますが、月次決算は企業が任意でおこなうもので、どの企業でも必ずおこなわなくてはいけないものではありません。目的も異なっており、年次決算は損益計算書や貸借対照表に1年間の売上実績をまとめ、株主や取引先に対して情報を提供することを目的としています。
一方で、月次決算は株主への報告が目的というわけではありません。経営陣が、自社の経営状況をタイムリーに確認し、経営方針や経営戦略を早期に考え、対策していくための資料として使われています。
月次決算をおこなう目的とは
月次決算には、下記4点の目的があります。
・会社の状況を早期に把握するため
・年次決算の事務負担を軽減するため
・経営判断を早期におこなえるようにするため
・融資を受けやすくするため
となります。
一つひとつ詳しく解説していきたいと思います。
会社の状況を早期に把握するため
まず、月次決算をおこなう一つ目の目的は、「会社の状況を早期に把握するため」です。月次決算は、毎月の経営成績と財務状況を試算表としてまとめて数値化する作業です。
毎月決算をおこなうことで、会社の経営状況をより正確に把握することができますし、年次決算だけをおこなっている企業と比べるとタイムリーに経営資料を確認できるので、期の途中でも計画した予算と実績が乖離していることや、想定外の売上減・経費増にも早めに気がつくことができます。
会社の状況を早期に把握できると、年間売上や利益の着地が想定しやすくなり、はやめに予算修正が可能です。また、手遅れになる前に、経営戦略や営業方針の転換をすぐに判断し実行もできます。
年次決算の事務負担を軽減するため
月次決算をおこなう目的の二つ目は、「年次決算の事務負担を軽減するため」です。年次決算は、一年間のすべての会計業務を確定する作業です。一年間の会計書類や帳簿を整理し、期日までに決算書類を作成して提出しなくてはなりません。つまり、年次決算はスピードも正確性も求められて膨大な労力がかかる作業になります。
月次決算として毎月会計資料をまとめておけば、年次決算の際にまとめる資料が減り、時間や確認項目なども大幅に軽減することができます。また、一年に一度の年次決算業務を毎月おこなうことで業務が楽になると考えれば、経理担当者の決算時の作業も減り、業務効率化にもつながります。
経営判断を早期におこなえるようにするため
月次決算をおこなう目的の三つ目は、「経営判断を早期におこなえるようにするため」です。月次決算は前述でお伝えした通り、毎月経営成績や財務状況をまとめる作業なので、経営状況をタイムリーに把握することができるというメリットがあります。
そのため、急激な経営環境の変化で売上減や経費増が起こってしまった場合でも、早急に原因の追究ができ、適切な経営判断をおこなうことが可能になります。
問題解決には早期発見が健全な経営の基本の基です。年次決算だけをおこなっていると、年次決算の時には数字が過去のものとなっていることが多く、原因の追究や対策の実施は難しい状況にあることがほとんどです。月次決算は経営陣が経営判断をおこなう基本の資料となるのです。
融資を受けやすくするため
月次決算をおこなう目的で最後にお伝えしたいのは、「融資を受けやすくするため」という点です。月次決算をおこなっているということは、経営や財務状況を管理していることの証明になりますので、融資や取引を持ちかける際の心証がよくなります。
また、金融機関への融資申請には時間がかかります。企業から融資の申込があった際、融資審査をしてしっかり返済をしてくれるのかを判断します。そのため、企業の成績が良かったとしても、直近の会計資料がない場合は融資審査に時間がかかってしまうことがあります。月次決算をし、毎月会計資料を整えておくことで、融資審査のスピードを早めることができるのです。
月次決算で作成すべき資料3選
月次決算ではどのような資料を作成すればよいでしょうか。月次決算は年次決算とは異なり法律で義務づけられているものではないため、実施するかしないかも、作成する資料も企業が自由に選択して問題ありません。
①月次決算書
月次決算で一番多く作成される資料は、月次決算書です。種類としては、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書です。月次決算は、経営陣が経営判断をおこなう基本資料となるので、売上高や利益率を確認できる損益計算書が特に重要視されています。
また、部門別で損益計算書を作成しておくと、会社のどこがネックで、どこで売上・利益をあげているかが見える化され、より分析しやすくなります。
②前期比較表
月次決算で大切な作業は前期との比較です。前年同月と比較しやすいように「前期比較表」を作成している企業も多くあります。業種によっては季節的な要因が関係して、利益率が上がったり下がったりしているケースもあります。
例えば、花粉症の時期にはマスクやティッシュなどを製造している企業の売上があがります。また、前年同月の売れ筋商品や気象データなども役に立つかもしれませんし、前年と比較して使いすぎている経費にも気がつきやすくなります。
③予算実績対比表
月次決算では予算と実績の乖離を確認して分析することが重要となります。そこで、予算実績対比表を作成し、予算の進捗率や達成度を把握することは大切な作業です。予算の達成度が把握できれば、経営方針の転換か現状維持をするか意思決定の役に立ちます。
また、予算実績対比表は、売上高・売上原価・人件費・販促管理費などの項目も比較できます。項目ごとに差異の理由を記入しておくことで、これからどこを改善していくかなどが把握しやすくなり、会議などで使いやすい資料となります。
月次決算における確認すべき3つのポイントとは
ここからは月次決算で見るべきポイントを解説していきたいと思います。月次決算で見るべきポイントとしては、「収益性」「安全性」「成長性」の3点です。一つひとつを詳しくみていきましょう。
収益性
月次決算で見るべき一つ目のポイントは、「収益性」です。収益性を知るためには「売上高総利益」を今年度と前年度で比べ、前年度よりも多くなっていれば、当期の収益性がアップしたということになります。
また、「売上総利益率(粗利率)」を調べることで、自社商品やサービスの付加価値を知ることも重要です。同業他社の数値と比較し、平均値よりも低い場合は改善が必要となります。
そして、「売上高経常利益率」も大切な指標です。「経常利益」とは本業・副業における企業の収益力を表すものになります。売上高経常利益率は、効率の良い経営を行っているかを示す指標で、1~3%前後が標準圏内、5%を超えると優良とされています。
安全性
二つ目のポイントは「安全性」です。安全性分析には短期的なものと長期的なものに分かれており、短期的な安全性分析は「流動比率」と「当座比率」を調べます。「流動比率」は流動負債と流動資産の比較を指し、「流動比率」が100%以上あり、流動資産が流動負債より多ければ安全性があると言えます。理想は200%以上で、平均値は120~150%です。「当座比率」は流動負債と当座資産の比較で、理想的な数値は150%となります。
また、長期的な安全性では「自己資本比率」と「固定比率」を分析します。「自己資本比率」は高ければ高いほど、企業経営が安定していると判断でき、「固定比率」は低ければ低いほど良いとされています。
成長性
三つ目のポイントは「成長性」です。成長率は、「売上高成長率」や「経常利益成長率」で表されます。「売上高成長率」は市場平均との比較が必要で、もし向上していたとしても市場より低ければ、市場売上の減少と解釈することができます。
また、急な売上成長も人材の確保や業務管理などが行き届かなくなってしまう可能性もあるので注意が必要となります。「経常利益成長率」は前期実績や同業平均値との比較をし、継続的に成長している場合は、安定していると言えます。
そして、「売上高成長率」と「経常利益成長率」がともに伸びている場合、企業は「増収増益」な状態だと判断できます。
月次決算の具体的な流れとは
ここからは、実際に月次決算を作っていきたいと思います。月次決算は毎月おこなう必要があることなので、何よりもスピードが求められます。進め方やスケジュールについては年次決算と変わりません。ここでは月次決算の一般的な流れを説明していきますので、できる限り早く作業を完了できる体制を整えていきましょう。
勘定科目の残高確認
月次決算をおこなう際、まずは「勘定科目の残高確認」をおこないます。勘定科目(現金・預金)の帳簿残高と、実際の残高に違いがないか確認しましょう。
通帳での預金残高、金庫に保管している現金残高の確認をし、帳簿残高と差異がある場合、どこでズレがでてしまっているのか原因を調査します。毎日の業務で、出納帳をつけていると思うので、毎日ズレがないか確認をしていると思いますが、締めである月末は特に注意を払うようにしましょう。
経過勘定および仮勘定の処理
次におこなうことは、「経過勘定および仮勘定の処理」をします。経過勘定の処理とは前払費用や日払い費用が月をまたいでしまった時に処理をすることを言います。早急に処理をするために、対象の科目や計上する基準をあらかじめ設定しておくようにします。
経過勘定で費用を損益計算書に反映させることで、その月の経営状況を正確に把握できるようになります。また、仮勘定とは、仮払金や仮受金などの正確な金額が分からない支出・収入のことです。仮勘定は名前の通り仮の情報なので、正確な金額がわかり次第処理をします。
また、仮勘定のままではなく、仮勘定の内容は何かを整理しておくことも重要です。仮勘定のままにしておくと、その月の経営状況が見えにくくなってしまいます。
棚卸高の計上
次におこなうことは、「棚卸高の確認」です。棚卸高の確認とは、月末の在庫金額を確定することを指します。可能ならば、帳簿と棚卸資産が一致しているかどうかも確認するようにしましょう。また、毎月棚卸をして棚卸資産管理の手続きがされている場合は、下半期決算や年次決算の時の棚卸に省力化することもできます。
売掛金および買掛金の計上
その次におこなうことは「売掛金および買掛金の計上」です。月次決算のタイミングで、売掛金と買掛金の内容を精査し、正しい科目に振り替えて整理します。そうすることで、払っていないお金、払われていないお金の内容が何かを整理することができ、その月の経営状況を把握しやすくなります。
減価償却費の計上
次に月次決算でおこなうことは「減価償却費の計上」です。減価償却費および退職給付費用などの期末確定費用は、年間でどのくらいの費用がかかるか見積もりが可能です。
年次費用をだしたうえで、月次費用として12分の1の金額を計上しましょう。それ以外にも、賞与、固定資産税、社会保険などの各種保険料なども月割計上処理をする必要があります。
試算表の作成
その後おこなう作業は、「試算表を作成」です。仕訳したものを総勘定元帳に転記し、月次試算表を作成します。試算表は3種類あり、「合計試算表」と呼ばれる勘定科目の貸借をそれぞれ合計したもの、「残高試算表」と呼ばれる勘定科目の残高を記載したもの、「合計残高試算表」と呼ばれる「合計試算表」と「残高試算表」のどちらも記載したものがあります。この3種類のどれを作るかは各企業の判断で変わります。
試算表の分析および今後の対策
最後に行うことは、「試算表の分析および今後の対策」をすることです。試算表を作成したあとは、前期比較表や予算実績対比表を作成し、月別の予算や前年同月実績の比較・年間計画との差異を予測して、経営状況を把握します。そうすることで、経営陣が今後の対策を検討することができ、早期に経営判断をくだすことができます。
月次決算をスムーズにおこなうためにできること
ここからは月次決算をスムーズにおこなうためにできることを解説していきます。前述の通り、月次決算はスピードが求められるものです。ここで紹介することを取り入れ、月次決算をより効率的にできるようにしていきましょう。
月次決算の流れを社内で共有する
月次決算をスムーズにおこなうために、「月次決算の流れを社内で共有する」ことが重要です。月次決算は経営者の努力だけでは、効率的におこなうことができず、業務が進まないことがほとんどです。月次決算に必要な書類をいつまでに作成するかが分かれば、社員もそこから逆算してデータの取りまとめや書類作成、棚卸業務など、具体的な業務に取りかかることができます。
社員にも月次決算のスケジュールがわかりやすいような体制にするためには、締め日が終わった後、毎月のスケジュールを経理部門で確認し、それぞれ何をおこなうかや、担当業務・進捗状況を全体で共有しておくようにしましょう。
経費精算の締め日を社員に徹底させる
次に月次決算をスムーズにおこなうためにできることは、「経費精算の締め日を社員に徹底させる」ことです。経費精算や請求書の締め日を徹底することは、月次試算表を停滞せずに行うために必要不可欠な要素となります。
経費精算の締め日などはしっかり管理し、経費精算の伝票や請求書は必ず期限通りに提出してもらうように従業員に呼びかけましょう。締め日のルールを具体的し社内共有することも徹底させる有効な手段です。
経費精算システムを活用する
月次決算をスムーズにおこなうためには、人力だけでなく「経費精算システムを活用する」ことも考えてみてはいかがでしょうか。経費精算システムを導入することで業務の効率化が進みます。これは、月次決算の作成だけでなく日常業務に対しても言うことができます。
経費精算システムは、自動仕訳や、預金残高の確認、記帳作業などもできます。また、スマホで領収書を撮影するだけで自動入力ができたり、ICカードの履歴と交通費が連動していたりと経費精算システムの種類によってできることも異なってきます。
また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ペーパーレス化やテレワークが推奨されるようになってきました。クラウド型の経費精算システムならば会計システムとも連動できるので、経理の負担も大きく軽減させることができます。
まとめ:月次決算で報告資料を分析し今後の経営戦略に活かしていこう
月次決算で分析に必要な報告資料やスムーズな月次決算の方法をお伝えしてきました。
月次決算は作成することが目的ではなく、その後の分析と経営に活かしていくことが目的となります。月次決算で作成した報告資料を分析し、今後の経営戦略を練っていきましょう。
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