事業計画書とは、企業が事業の目標達成を目指して作成する具体的な行動計画のことです。
事業計画を作成すると同時に収支シミュレーションを用意すれば、自社のお金の流れが予想できるため、資金繰りがしやすくなります。
そこで今回は、収支シミュレーションの必要性や作成方法、実施する際の注意ポイントを解説します。
本記事を読めば、収支シミュレーションの必要性や作成方法が理解できるため、収支予測が立てやすくなったうえで事業計画書を作成できるでしょう。
事業計画とは
事業計画とは、事業の具体的な目標や戦略を計画して可視化することです。
事業計画を作成すれば、自社の事業の展開について具体的な道筋を把握できるため、すべての社員が同じ方向性でビジネスに取り組みやすくなるでしょう。
また、事業計画は金融機関から資金調達をする際に提出を求められる傾向があります。
事業計画をあらかじめ作成しておけば、金融機関からスムーズに資金調達をすることが可能です。
事業計画では、主に1~5年後までの近い将来の目標や経営戦略を記載します。
事業計画を作成していなければ、ビジネスを展開していく際にどのように進めていけばよいのかがわからなくなる場合もあるでしょう。
しかし、事業計画には事業の進め方があらかじめ記載されているため、進め方がわからなくなる事態を防げます。
事業を効率的に進めていくためにも、事業計画を作成したうえでビジネスを展開していく必要があります。
収支シミュレーションの必要性とは
収支シミュレーションを作成すれば、実際に収入と支出が発生する時期や金額を明確にできるため、お金の流れを把握できます。
シミュレーションが必要な理由は、自社の資金繰り状況によっては、収入と支出の発生時期が異なることで、運転資金が不足する可能性があるからです。
運転資金が不足してしまった場合は、事業を継続することが困難になってしまうため、黒字倒産してしまう可能性があります。
また、収支シミュレーションを作成すれば、金融機関から資金調達がしやすくなります。
金融機関は、企業へ融資をする際に返済ができる経営状況なのかを確認しなければいけません。
収支シミュレーションを確認すれば、自社の事業計画や将来の事業の収支予想などが把握できるため、融資の判断スピードの向上につながります。
収支シミュレーションは、資金の流れの把握や金融機関へ提出するために必要な内容です。
収支シミュレーションは3パターンで作成する
収支シミュレーションの作成方法として、以下の3つのパターンが挙げられます。
- 楽観ケース
- 普通ケース
- 悲観ケース
ここで解説したパターンを参考にしたうえで、収支シミュレーションを作成しましょう。
①楽観ケース
楽観ケースとは、収支シミュレーションの理想的な予測のことです。楽観ケースで収支シミュレーションを作成すれば、事業がうまくいった場合の収支が予測できます。具体的に楽観ケースは、以下の手順で作成するとよいでしょう。
- 3~5年先まで予測した予算計画の目標値を設定する
- 全体的な目標に対して売上高や利益の期待値を提示する
- 各部門担当者と収支シミュレーションの作り込みを実施する
- 収支シミュレーションを利害関係者から承認を得る
- 承認された収支シミュレーションを各部門責任者へ説明する
楽観ケースでは、上記の手順を参考にして事業を理想的に進めていった結果を収支シミュレーションに投影します。事業が理想的に順風満帆に進んだらどのような数値目標になるのかを検討したうえで、収支シミュレーションを作成してください。
②普通ケース
普通ケースでは、収支シミュレーションの理想的な形にリスクを加味したうえで作成する予測のことです。例えば、収支シミュレーションの普通ケースでは、以下のポイントに気をつけて作成しましょう。
収支シミュレーションを作成する手順 |
理想 |
リスク |
会社の目標設定 |
実現性があると自らが信用できる目標 |
単純に数値を羅列しただけの目標 |
ガイドラインの提示 |
各部門の状況を踏まえたうえでの期待値 |
過去の傾向や既存計画の延長線上にあるガイドライン |
計画の作り込み |
施策やKPIと連動した数値 |
提示されたガイドライン通りの計画 |
利害関係者の承認 |
中期的なビジョンや構想につながる計画 |
詳細の説明ができない計画 |
具体的な計画の説明 |
背景も含めて納得のある説明 |
他責的で説得性のない説明 |
上記の表を参考にしたうえで、収支シミュレーションの普通ケースを作成してください。
③悲観ケース
収支シミュレーションの悲観ケースは、事業計画が上手くいかなかった場合の予測です。悲観ケースはさまざまなリスクを加味して数値目標を設定できるため、ビジネスの展開で失敗した場合の収支シミュレーションが把握できます。
悲観ケースの場合では設定した売上目標が実現できない前提で数値を設定しなければいけません。
例えば、売上目標が達成できなかった場合のために、クーポン券の配布や価格設定の向上など具体的な対策を講じたら、収支計画がどのような数値になるのかを記載するとよいでしょう。
悲観ケースを作成することで、事業展開をした際のリスク軽減につながります。自社が事業を運営するうえでリスクを軽減するためにも、悲観ケースの収支シミュレーションを作成しましょう。
収支シミュレーションの作り方
収支シミュレーションを作成する際は、以下の6つの観点を踏まえるとよいでしょう。
- 固定費の算定
- 変動費の算定
- 粗利益の算定
- 損益分岐点売上高の把握
- 目標売上の算定
- 目標売上達成のための細かな数値の設定
ここで解説した作成方法を参考にしたうえで、収支シミュレーションを作りましょう。
固定費の算定
収支シミュレーションを作成する際は、固定費の算定をする必要があります。固定費とは、人件費や水道光熱費など売上が0でも継続的に発生する費用です。
例えば、固定費の1つである役員報酬の金額を決定する場合は、生活費を賄える最低金額を設定するとよいでしょう。
役員報酬は、一度決定すると事業年度内の変更は認められないからです。役員報酬を高く設定してしまうと、事業の利益を圧迫してしまう可能性があります。
事業の利益を圧迫しないためにも、役員報酬の金額を設定する際は生活費を賄える最低金額にしましょう。
また、店舗や事務所を借りて事業を運営する場合は、必ず水道光熱費がかかるので固定費の一種といえます。経営者の自宅で事業を営んでいる場合であっても、仕事場の面積に応じて水道光熱費を費用計上することが可能です。
変動費の算定
変動費とは、売上に応じて変動する費用です。具体的に変動費には、以下の4つの項目が当てはまります。
- 商品の仕入費用
- 消耗品費
- 広告費
- 水道光熱費
固定費は金額で算定するのに対し、変動費は売上に対する割合で表します。例えば、仕入費用10%、広告費5%、消耗品費3%、水道光熱費2%と売上に対する割合を記載したうえで、変動費を算定するのです。
明確な収支シミュレーションを作成するためにも、全ての変動費を算定しているのかを確認しましょう。
粗利益の算定
自社の粗利益を算定したうえで、業界内で平均的な粗利益がどれくらいなのかを把握する必要があります。粗利益を算定する際は、以下の計算式で求められます。
粗利益=売上総利益÷売上高×100
例えば、売上総利益が1,000万円で売上高が5,000万円の場合は、粗利益が20%と求められます。業界によって平均的な粗利益が大きく異なるため、それぞれの業種の平均値を求めなければいけません。目安となる業種別平均値は、以下の通りです。
業種 |
粗利益 |
建設業 |
22.48% |
製造業 |
20.58% |
情報通信業 |
46.79% |
運輸業・郵便業 |
24.43% |
卸売業 |
15.98% |
小売業 |
29.82% |
不動産業・物品賃貸業 |
42.10% |
学術研究、専門・技術サービス業 |
52.66% |
宿泊業・飲食サービス業 |
61.18% |
生活関連サービス業・娯楽業 |
36.52% |
サービス業(ほかに分類されないもの) |
42.36% |
参照:e-Start 政府統計の総合窓口「中小企業実態基本調査 令和3年確報(令和2年決算実績)2022年7月28日」
上記の表を参考にし、自社の粗利益が業界内で平均的なのかを収支シミュレーションに記載しましょう。
損益分岐点売上高の把握
損益分岐点売上高とは、固定費や変動費などの発生費用をカバーしたうえで損益がちょうどゼロになる売上高です。損益分岐点売上高を把握すれば、自社が黒字なのか、赤字なのかが理解できます。損益分岐点売上高を算出する際は、以下の計算式で求めてください。
損益分岐点売上高=固定費÷((売上高-変動費)÷売上高)
損益分岐点売上高は、自社が利益を効率的に獲得するうえで把握しておくべき指標です。事業継続をするためにも、必ず損益分岐点売上高以上の売上を実現し、利益を獲得できるように対策する必要があります。
目標売上の算定
収支シミュレーションでは、目標売上の算定をしなければいけません。例えば、飲食店や美容室などの店舗ビジネスであれば、客単価×席数×回転率×営業日数で目標売上を定められます。店舗ビジネスで目標売上を算定するのであれば、以下の計算式を参考にしてください。
昼(11~15時):1,000円×30席×0.9回転×25日=675,000円
夜(17~24時):1,500円×30席×1.8回転×25日=2,025,000円
売上高:675,000円+2,025,000円=2,700,000円
上記の設定の場合は、1ヶ月で270万円の目標売上であると算定できます。収支シミュレーションで目標売上の算定をするためにも、客単価や席数、営業日数などを決定したうえで目標となる数値を決めましょう。
目標売上達成のための細かな数値の設定
目標売上を達成しやすくするためにも、細かな数値を設定する必要があります。例えば、売上目標を設定するのであれば、繁忙期や閑散期などを推測したうえで目標を設定しないと数値に大きな差異が生じます。
また、下記の2つのポイントに着目したうえで、適正な販売価格を設定するとよいでしょう。
- 仕入価格や必要経費を考慮したうえで採算の取れる価格を算出する
- 販売価格を想定して利益が発生する仕入方法や販売体制を考える
例えば、1つの取引先から大量に仕入れることで値引きできれば、利益が発生しやすくなる可能性があります。一般的な価格相場を調査したうえで適正な販売価格を設定し、目標売上の達成につなげましょう。
収支シミュレーションをおこなう際の注意ポイント3選
収支シミュレーションを実施する際の注意ポイントとして、以下の3つを解説します。
- 根拠をもとに数値化する
- 収支計画は月ごとに考える
- 3年後までを予測する
収支シミュレーションを実施する際は、さまざまなポイントに注意しなければいけません。ここで解説したポイントに気をつけたうえで、収支シミュレーションを実施しましょう。
①根拠をもとに数値化する
収支シミュレーションを実施する際は、根拠をもとに数値化しましょう。根拠をもとに作成されていなければ、金融機関からの信用を得られず融資を獲得しにくくなるからです。
例えば、何の根拠もなく適当に売上目標を設定したとしても達成できるはずがないので、目標設定した意味がありません。
収支シミュレーションで設定した数値は根拠をもとにして作成したからこそ、達成に向けて努力する意味があるのです。
根拠をもとにした売上目標を達成したら、自社の業績向上につながります。自社の業績をより向上させるためにも、収支シミュレーションを実施する際は根拠をもとに数値化しましょう。
②収支計画は月ごとに考える
収支シミュレーションを実施する際は、月ごとに収支計画を考えてください。月ごとに収支計画を考えれば、目標売上の達成ができなかった時のための費用の見直しがしやすくなるからです。
収支計画で利益を算出するためには、売上を上昇させると同時に不必要な経費を削減しなければいけません。
例えば、各工程・時間帯の人員数が適切なのかを確認して人件費が削減できないかを確認したり、製造方法を変更して材料費の削減ができないかを考えたりする必要があります。
費用の見直しがしやすくなるために収支計画を月ごとに考えたうえで、収支シミュレーションを作成しましょう。
③3年後までを予測する
収支シミュレーションは、3年後までを予測しておくべきです。収支シミュレーションを3年後までに作成しておけば、将来の経営状況の変化に備えて対処できるようになるからです。
収支シミュレーションは作成した後も、適宜修正できます。そのため、半年ごとに収支シミュレーションを確認して経営状況の変化によって数値の修正をしていくとよいでしょう。
黒字体制をつくるためにも収支シミュレーションは重要
今回は、収支シミュレーションの必要性や作成方法、実施する際の注意点について解説しました。
収支シミュレーションは、お金の流れの明確化や金融機関へ融資してもらいやすくするために必要な書類です。
収支シミュレーションを作成する際は、固定費や変動費、粗利益の算出などをしたうえで自社の目標利益の設定をしましょう。
また、収支シミュレーションを作成するのであれば、根拠をもとに数値化したり、3年後までを予測したりしなければいけません。
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