経営戦略の立て方については一通り理解したが、実際の経営戦略がどのようなものか今ひとつイメージができない。そこで、経営戦略にはどのようなタイプがあるのか、成功した会社の経営戦略とはどのようなものかなど、具体的に知りたいと考えている経営者も多いと思います。
今回は事業の成長・拡大を考えている経営者に不可欠な経営戦略の基本型、及び代表的な成功事例について分かりやすく解説します。
1. 経営戦略の4つの基本類型
経営戦略の類型にはさまざまなタイプがありますが、多くの成功事例がある経営戦略を4つの基本類型に整理しました。
コストリーダーシップ戦略
この戦略は低コストで製品やサービスを提供できる体質(低コスト体質)を作り上げ、必要な利益を確保しながらライバル企業よりも低い価格設定により大きなシェアを獲得するもので、自社の利益を削って低価格を実現するような戦略とは全く異なっています。
メリット
- 1 他社が同等の価格帯で利益を確保するのは困難なので新規参入が難しくなる
- 2 ライバル企業から価格競争を仕掛けられても値下げ幅に余裕がある
- 3 原材料などの値上げに対しライバル企業以上の忍耐力がある
- 4 大口ユーザーなどへの値引き幅においても優位に立てる
ポイント
この戦略では低コスト体質の実現が最も重要になりますが、それには次にあげるような要件によって製品の単位あたりのコストダウンを図ります。
- 1 大きな市場シェア、大量販売
- 2 他社にない技術や生産設備
- 3 原材料などの有利な入手
差別化戦略
この戦略は、経営資源を集中することによりライバル企業にはない特色を強化し、簡単には真似ができない独自のポジションを獲得するものです。
代表的な差別化戦略には次のようなものがあります。
- 製品・サービスの特徴・価値の差別化
- ブランドやイメージの差別化
- 技術の差別化
- サービスの差別化
メリット
- 1 ライバル企業の模倣・追従が難しくなる
- 2 他社から入手できないため大きな利幅を確保できる
- 3 顧客からの値引き要求に対しても強い交渉力を持つことができる
- 4 原材料などの値上げに対しライバル企業以上の忍耐力がある
ポイント
差別化を実現するためには次のような点が重要となります。
- 1 注力する「特色」と、切り捨てる「特色」を明確にする
- 2 市場のニーズやウォンツに合致した「特色」を選択する
- 3 「特色」を強化できる技術力・開発力などの能力を獲得する
集中戦略
この戦略は、不特定多数の顧客を対象にするのではなく、地域や客層などを細分化した市場(特定セグメント)に対して経営資源を集中し、「コストリーダーシップ戦略」や「差別化戦略」あるいはその両方を実施するものです。
代表的な市場細分化の基準となるものには次のようなものがあります。
- 年齢、家族、所得、職業などの人口統計上の基準
- 地域、都市、人口密度、気候などの地理的基準
- 個性、性格、ライフスタイルなどの心理的基準
- 品質、サービス、デザインなどの製品・サービスの属性に関する基準
メリット
- 1 市場を細分化することでより的確にニーズやウォンツを把握できる
- 2 コスト・リーダーシップ戦略及び差別化戦略と同様のメリットが期待できる
ポイント
この戦略の場合には、コスト・リーダーシップ戦略及び差別化戦略に必要な手法の他に次の点が重要となります。
- 1 求める事業規模を確保するために市場を細分化しすぎない
- 2 自社の能力に合致した魅力的な特定セグメントを見つけ出す
ブルーオーシャン戦略
この戦略は、他の企業が事業活動を行っている市場とは重ならない、今まで無い新しい市場を創造することにより他社との競争を行わずに事業展開するものです。
メリット
- 1 他社との競争コストが必要ないので低コストを実現できる
- 2 商品・サービスの価格を独自に決定できる
- 3 認知度が高くなるので製品・サービスのブランド化が可能になる
- 4 高成長・高収益が期待できる
ポイント
既存の製品やサービスの価値を構成する要素に対し、次の4つのアクションを行い再定義することが、今までに無い新しい市場を見つけ出す手助けとなります。
- 1 業界標準となっている要素の中で必要ないものを取り除く
- 2 業界標準となっている要素で余計なものを大胆に減らす
- 3 業界標準となっている要素で要求が大きいものを大胆に増やす
- 4 業界には今までになかった全く新しい要素を付け加える
2. 経営戦略の成功事例
ここからは前項で紹介した経営戦略を採用することによって大きな成功を成し遂げた企業の事例を紹介します。
コストリーダーシップ戦略+差別化戦略の「ユニクロ」
バブル経済がスタートした1984年にユニクロ1号店となる「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」が広島市中区に出店されました。
そして、高額なデザイナーブランドの商品が飛ぶように売れていたバブル経済の中で、低価格・セルフ販売のユニクロは出店を重ね、バブル経済が終焉を迎える1992年には国内50店舗を達成。
バブル後の平成不況と呼ばれる時期に当時1万円前後が相場だったフリースを1,900円という価格で販売し社会現象になるほどの大ヒットを記録し、これが日本を代表するファストファッションブランドに躍進する原動力になりました。
この成功の背景には「コストリーダーシップ戦略」がありました。ユニクロは、この戦略には欠かせない「低コスト体質」を次の手法で成し遂げました。
事業の「SPA化」
SPAは商品の企画・製造・販売を一貫して自社で行う会社のことで、日本語では「製造小売業」と訳されています。
以前はアパレルメーカーと言っても、デザインしたものを外部に製造委託し、店舗を持っている販売会社に納品するという形式を取っていましたが、ユニクロは事業をSPA化することでそれらの中間マージンを排除しました。
定番商品の大量生産、大量販売
流行に左右されないベーシックデザインの定番商品を大量に販売する商品政策を採用し、スケールメリットを生かして原料の大量購入や大量生産などで商品原価を大幅に低減しました。
ユニクロは「コストリーダーシップ戦略」でファストファッション分野でトップシェアを獲得した後、2000年代に入ってからは人気デザイナーとのコラボ商品や、ヒートテックやエアリズムなどの革新的な素材開発による「差別化戦略」も同時に行うことにより、他のアパレルメーカーが簡単には真似ができない独自のポジションを築き上げました。
徹底した差別化戦略の「スターバックス」
1971年にアメリカのシアトルで誕生したスターバックスは、西海岸を中心に発展したシアトルカフェの代表的な存在で、現在は約1,400の店舗数となっています。
コンセプトは、個人にとっての第1の場所「家庭」、第2の場所「職場」に次ぐ第3の場所を提供することでした。自宅でも職場でもない自分らしく時間を過ごすことができる非日常の空間を提供することです。
従来の男性中心の社会では喫茶店のメインユーザーは男性でしたが、スターバックスは女性をメインターゲットとして次の点で差別化を図ることで他のカフェやファストフード店などと異なる独自のポジションを獲得しています。
- 1 豆のロースト方法やコーヒーの抽出方法など、徹底して味にこだわった
- 2 全ての店舗で全面禁煙にした
- 3 オシャレで清潔感のある空間デザインを採用した
- 4 スイーツ感覚のドリンクなど女性が好むメニューを揃えた
また、業界ではいち早くWiFiやコンセントを顧客に提供するなど、若くスマートなビジネスマン達の取込にも成功しています。
Wiiを生み出した「任天堂」のブルーオーシャン戦略
Wiiは、ニンテンドーDSを中心とした携帯型ゲーム機が市場の主役に成長していた2006年に発売された据置型のゲーム機です。
ちょっとした時間があればいつでもどこでも楽しめる携帯型ゲーム機に対し、据置型のゲーム機はテレビの前でしか楽しめない制約があるためWiiの成功には困難が予想されました。
しかし、任天堂はWiiの開発にあたり「ブルーオーシャン戦略」を採用し大きな成功を手に入れたのです。
それまで、ゲームのメイン顧客は10代後半から20代でしたが、Wiiが狙ったのは「非顧客」。つまり、今までゲームで遊ぶことの少ない小さな子供から、ゲームをあまり良く思わない大人たちという、それまで誰も狙わなかった新しい市場を選択したのです。
その結果、家族全員がWiiを好意的に受け入れたことで、任天堂が目標としていた「1世帯あたりのユーザー数を増やす」ことが実現。開発にあたって課題としたのは次の点でした。
- 家族みんながリビングで遊べる
- お母さんに嫌われない
- 家族の誰にも敵視されない
- 年齢・性別・ゲーム経験の有無に関わらず遊べる
- 家族全員にとって関係のある存在になる
- 毎日電源を入れて貰えるようにする
ライバル企業がハイスペック、ハイスピード、ハイグレードの方向にゲーム機を開発している中で、過剰な機能は省略し省電力、小型化、使い易さに重点を置くとともに、ワイヤレスの「wiiリモコン」によるテニス、ゴルフと行った体感できるゲームなども開発し、ライバル企業のいない新しい市場(ブルーオーシャン)を開拓したのです。
3. まとめ
今回は、経営戦略の4つの基本類型とユニクロ、スターバックス、任天堂の戦略について分かりやすく解説しました。
経営戦略の基本類型の中で「コストリーダーシップ戦略」は、一定の事業スケールがある企業の方が実現可能性は高いので中小企業よりは大企業に適した戦略と言えます。
しかし、「差別化戦略」「集中戦略」「ブルーオーシャン戦略」は、徹底したマーケティングと発想力、そして最後までやり切る信念があれば中小企業でも十分活用できる戦略です。
今回紹介した基本類型以外にもさまざまな経営戦略がありますが、まずは、基本類型の中から自社に適した戦略を選択しポイントなどを参考にしながら1つ作ってみましょう。
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