固定比率とは、会社の財務状態を表す指標の1つです。
しかし、その数値をどのように経営に活かせば良いのかについては、あまり理解していないという方も少なくありません。
そこで今回は、固定比率の求め方から、経営にどのように活かせるのかまでを解説していきます。
固定比率とは
経営者は持続的な健全経営を行うために、会社の状況を常にチェックする必要がありますが、中でも財務状況の正確な把握は欠かせません。固定比率は、財務状況の分析項目における「安全性」を評価する指標のことです。
固定比率は会社の安全性を図る指標
固定比率は、自己資本に対する固定資産の割合を数値化したもので、財務状況の「安全性」、つまり長期的な支払能力が十分であるかどうかを知るための目安となるものです。
会社の資産は土地、建物、車両、機械設備、ソフトウエアなどの長期間保有する「固定資産」と、現金預金、売掛金、受取手形、商品、有価証券などの「流動資産」に分けられます。
流動資産は短期間に現金化することができますが、固定資産は簡単には現金化することができません。そのため、固定資産を借金で購入した場合に、資金が足りなくなってもすぐには現金化できません。
固定比率は、固定資産の購入に際し返済義務のない自己資本がどれだけ占められているのか、購入資金に多額の借金が含まれていないかなどを知ることで、会社の支払能力の安全性を簡易的に評価する指標です。
固定比率からわかること
固定比率によって具体的にわかることは、主に次の2点になります。
⒈ 借金の有無がわかる
仮に固定資産よりも自己資本が少なければ差額は借金で充当したことになり、固定比率は100%を超える数値となります。
⒉ 会社の財務の安全性がわかる
固定比率が一定割合よりも低ければ支払能力に余裕があることを意味し、逆に固定比率が一定割合よりも高ければ借金があるため財務状況が不安定で、さらに高くなると会社が危険領域にある可能性が考えられます。
固定比率の適正水準とは?
不動産や設備への多額の投資が必要な業界と、ソフトウエア開発などを中心とするIT業界では固定比率の適正水準はかなり異なりますが、一般的には返済義務のない自己資本が固定資産よりも多い、つまり固定比率が100%以下であれば会社の財務状況は安全な水準にあると言えます。
固定比率が100%を超えると要注意
自己資本よりも固定資産の額が多ければ、固定比率は100%を超えます。これは自己資本で足りない金額を借金で補っていることを表し、財務状況を注視する必要が出てきます。
しかし、固定比率が100%を超えたからといって直ちに会社の財務が危険な状況にあるというわけではありません。借金はもちろん無いほうが良いのですが、業種や借金の種類によっても許容される範囲は異なりますので総合的に判断する必要があります。
固定比率の業界平均
中小企業庁が公表している調査データでは、2018年度の固定比率の業界平均は次のようになります。
業種 |
固定資産 (千円) |
純資産 (千円) |
固定比率 (%) |
建築業 |
69,361 |
86,916 |
79.8 |
製造業 |
194,300 |
196,050 |
99.1 |
情報通信業 |
79,782 |
121,103 |
65.9 |
運輸業、郵便業 |
221,237 |
139,822 |
158.2 |
卸売業 |
141,841 |
178,785 |
79.3 |
小売業 |
63,953 |
42,535 |
150.4 |
不動産業、物品賃貸業 |
276,903 |
170,853 |
162.1 |
学術研究、専門・技術サービス業 |
90,198 |
78,474 |
114.9 |
宿泊業、飲食サービス業 |
71,900 |
14,779 |
486.5 |
生活関連サービス業、娯楽業 |
203,082 |
99,423 |
204.3 |
上記以外のサービス業 |
64,442 |
75,812 |
85.0 |
(データの出典:令和2年7月 中小企業庁「令和元年 中小企業実態基本調査報告書」)
※上記「固定比率」は決算報告書の貸借対照表に記載されている「純資産」を自己資本とみなし算出したものです。
不動産業や宿泊業など事業に多額の投資が必要な業種の固定比率は100%を大きく超える傾向にありますが、後述する「固定長期適合率」も含めて評価すると必ずしも財務状況に問題があるとは言えません。
固定比率の計算方法
固定比率は、貸借対照表の数値を使って求めることができ、計算式は次のとおりです。
固定比率(%)=( 固定資産 ÷ 自己資本 )× 100 |
計算式自体は簡単ですが、実際にこの計算式を使って固定比率を計算するためには「固定資産」と「自己資本」についてきちんと理解する必要があります。
固定資産とは
固定資産は、貸借対照表の左側にある「資産の部」に記載されている項目のうち、1年以上の期間に渡り会社が保有する資産で、次の3つに分類されます。
分類 |
内容 |
有形固定資産 |
土地、建物、自動車、機械装置、器具・備品など |
無形固定資産 |
のれん、営業権、ソフトウエア、特許権・意匠権・商標権など |
投資その他の資産 |
有価証券(投資)、敷金・保証金、返済期間が1年以上の貸付金など |
自己資本とは
自己資本は、貸借対照表の右側にある「純資産の部」に記載されているもので、株主から得た「資本金・資本剰余金」、会社が稼いだ利益の蓄積である「利益剰余金」などの返済の必要がない資金のことです。
固定比率が高い場合の改善策
固定比率が高い場合には、会社の財務状況の安全性に問題があると考えられるので、固定比率を減少させなければなりませんが、その対処方法は、①不要な固定資産を減少させる方法と、②返済の必要がない自己資本を増加させる方法の2種類になります。
固定資産を減少させる
固定資産を減少させるには、次の2つの方法が考えられます。
① 固定資産を除却または売却する
事業で必要がなくなった固定資産を帳簿から除くと固定資産は減少しますが、土地や建物など高額な固定資産を短期間に売却することは難しいので長期計画で実行しなければなりません。
また、売却せずに使用の中止、または廃棄によって固定資産を帳簿から除く「除却」という方法でも固定資産を減少させることが可能です。
② 減価償却によって固定資産の額を減少させる
固定資産は長期で使用する資産ですから、継続使用し減価償却によっても徐々に金額を減少させます。ただし、使用することによって価値が減少しない土地や美術品・骨董品などは減価償却できないため注意しましょう。
自己資本を増加させる
自己資本を増加させるには、次の2つの方法が考えられます。
① 資本金を増やす
資本金を増やすには増資が必要ですが、利益剰余金などを資本に組み入れる方法(無償増資)は「純資産の部」内で資金を移動しているだけなので自己資本は増加しません。自己資本を増やすには新株を発行する増資が必要です。
② 利益剰余金を増やす
事業が順調であれば利益剰余金は年々増加しますが、株主への配当や、事業を成長させるための投資も必要ですから、経営全体を考えて利益の配分を決める必要があります。
固定比率と一緒に覚えておきたい経営指標
会社の中長期的な財務面の安全性を評価する経営指標には、短期的な支払能力を知る指標、長期的な支払能力を知る指標、財務の健全性を知る指標など、固定比率の他にも覚えておきたいいくつかの経営指標があります。
自己資本比率
自己資本比率は、会社経営の独立性や安定性を評価するために使われる指標で、次の計算式で求めることができます。
自己資本比率(%)=( 自己資本 ÷ 総資本 )×100 |
自己資本比率が低いということは借入金などの他人資本の割合が高いことになるので、会社の経営が他人の影響を受けやすくなり、逆に自己資本比率が高ければ他人の影響を受けにくくなるため経営は安定します。
流動比率
流動比率は、会社の短期的な債務に対する支払能力を示す指標で、次の計算式で求めることができます。
流動比率(%)=( 流動資産 ÷ 流動負債 )×100 |
流動資産とは、貸借対照表の左側にある「資産の部」に記載され1年以内に現金化が予定されている資産のことで、流動負債は貸借対照表の右側にある「負債の部」に記載され1年以内に支払が必要な負債のことです。
流動負債に対して流動資産の方が多いと流動比率は100%以上になり、数値が大きくなるほど短期的な債務に対する返済能力が高いことを示します。
当座比率
当座比率とは、会社の短期的な債務に対する支払能力を流動比率よりも厳しい基準で確認する指標で、次の計算式で求めることができます。
当座比率(%)=( 当座資産 ÷ 流動負債 )×100 |
当座資産とは、貸借対照表の左側にある「資産の部」に記載されている流動資産から棚卸資産を除いたもので、現金・預金・受取手型・売掛金・有価証券などが含まれます。
現金及び短期間に現金化しやすい流動資産から棚卸資産を除くことで、流動比率よりも厳しく支払能力を評価することができます。
固定長期適合比率
固定長期適合率は、財務状況の長期的な安全性を示す指標で、次の計算式で求めることができます。
固定長期適合率(%)= 固定資産 ÷( 固定負債 + 自己資本 )×100 |
固定負債とは、貸借対照表の右側にある「負債の部」に記載されており、社債・長期借入金・預かり保証金などが該当しますが、流動負債との違いは1年以内に返済する必要がない負債ということです。
返済の必要がない自己資本とすぐには返済義務がない固定負債の合計が固定資産よりも多ければ、固定長期適合率は100%以下となり固定比率が100%を超えていたとしても財政状況は健全ということになります。
まとめ
ここまで、説明してきたことを整理すると次のようになります。
- 固定比率は、会社の財務面での「安全性」を図る指標
- 固定比率が100%を超えると要注意だが、業界によってボーダーラインは異なる
- 固定比率は「( 固定資産 ÷ 自己資本 )× 100」によって算出できる
- 固定比率が高い場合の改善策には「固定資産の減少」と「自己資本の増加」の2つの方法がある
- 会社の財務面の安全性を正しく評価するには、固定比率の他に「自己資本比率」「流動比率」「当座比率」「固定長期適合率」などの指標もチェックする必要がある
固定比率の他にも指標はありますが、最初は自社の固定比率を算出することをおすすめします。そして、算出した固定比率が業界平均よりも高ければ、2つの方法によって財務状況を改善し、安定経営を目指しましょう。
なお、より具体的な固定比率の改善を進めるにあたっては、BSの理解が欠かせません。BSについて分かりやすく解説した資料をご用意いたしましたので、ぜひ有効活用していただけますと幸いです。
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