会社を経営するうえで、数字の理解は欠かせません。
そして、数字の理解をするための一丁目一番地が、変動費と固定費の把握です。
とは言え、いざ変動費と固定費を分けようと思っても、どうすれば良いか分からないという方も少なくないかと思います。
そこで今回は、実践に即した形で、変動費と固定費を活用する方法について説明していきます。
変動費と固定費の違いとは
会社を経営する上で「費用」を正しく理解していなければ、黒字と赤字のボーダーラインを把握できないだけでなく、経費削減に際してどの経費を削って良いかが判断できません。そこで、重要となるのが「変動費」と「固定費」です。
変動費
変動費とは、売上高や生産量に応じて増減する費用のことです。例えば、1000個の商品を販売する場合には、1000個分の原材料費、仕入原価、販売手数料、外注費、運送費などの支払が必要になります。
また、一般には人件費は変動費に含まれませんが、生産量を増やすために派遣社員や契約社員を一時的に雇用するケースにおいては、増員する派遣社員や契約社員の給与、残業代、交通費などを変動費と考えることも可能です。
このように、変動費は売上高などに比例して増減するため、変動費を区別しておくと、売上高の増減による利益の変化を予測することができます。
固定費
固定費とは、売上高や生産量の増減に影響されず常に発生する費用のことです。例えば、製造業であれば、人件費、交通費、通信費、配送費、地代家賃、保険料、減価償却費、宣伝広告費、水道光熱費、各種リース料などが考えられますが、業種によって固定費の内容は異なります。
固定費は売上が大きい時にはそれほど目立ちませんが、売上が減少してくると会社の利益を圧迫し始めます。
仮に市場環境の変化や景気の悪化によって売上が全くなくなっても、固定費だけは発生するので、固定費の割合が大きな会社は売上が低下した場合、その分ダメージを大きく受けることになります。
変動費と固定費を分けるべき
会社の収益力を把握するために最初に必要となるのは「変動費」と「固定費」を明確に分類することです。どれだけの費用が常に発生し、どれだけの費用が売上などに比例して発生するのかを知ることで、安定した黒字経営が可能となります。
変動費と固定費を分けるメリット
変動費と固定費を分けるメリットには、次の3点が考えられます。
① 利益を予測することができる
会社は本来利益を得るために事業活動を行っているので、経営者は売上に対しどれくらいの利益が得られるかを知らなければなりません。
変動費と固定費を分類しておけば、予測売上から計算した変動費と固定費を差し引くことで、簡単に利益予測ができます。
② 費用の削減効果を予測できる
売上が低下すると利益が減少し、経営者は何らかの対応を求められます。この場合、売上を増加できれば問題はないのですが、一度低下した売上を回復させるのは簡単なことではなく時間もかかります。
しかし、売上を増加させることができなくても費用を削減することで、短期間に収益を改善することが可能です。変動費と固定費を分類しておけば、それぞれの費用を削減した場合の効果や、想定されるデメリットを予測することもできます。
③ 固定費を削減する際のターゲットが明確になる
固定費を整理しておくと、削減する際にそれぞれの費用の削減が収益性の改善にどの程度、寄与できるかを予測できるため、削減対象とすべき費用の絞り込みが容易になります。
つまり、変動費と固定費を分類することは、会計データを経営に活用するための会計(管理会計)の一環であり、経営状況の把握と早期の対応策の実施に不可欠なプロセスなのです。
変動費と固定費の分け方
前項で売上などに比例して発生する「変動費」と売上などには影響されず、常に一定額が発生する「固定費」を分けるメリットについて説明しましたが、費用の分け方にはいくつかの方法があります。
固変分解とは
会社の費用を変動費と固定費に分類することを「固変分解」、あるいは「費用分解」と呼びますが、その目的は後述する「損益分岐点」や「限界利益」などの会社の経営に関わる重要指標を算出するためです。
ここでは、広く使われている「一般的な固変分解」と、専門知識がなくてもできる「簡易的な固変分解」の2つを紹介します。
一般的な固変分解
経理の実務で良く使われる固変分解は「勘定科目法」と呼ばれる方法で、勘定科目ごとに費用を変動費と固定費に分類します。
分類の基本的な考え方は次のとおりです。
固定費 |
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変動費 |
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売上原価や販売費及び一般管理費のように、同じ科目内の費用を変動費と固定費に分類する場合には、費用明細を基に各費用の分類先を判断しますが、明確に分類できない場合には、比重の重い方に分類するか、割合を決めて変動費と固定費に配分します。
勘定科目法の長所は、多少あいまいな部分があっても全ての費用を分類することができ、比較的正確な金額が得られる点です。また短所は、変動費と固定費の分類を担当者の判断で行うため、事業内容を熟知したベテランの担当者と、事業内容の理解が不足している新人の担当者では、分類の精度に差が出る点です。
注意しなければならないのは、業種が変わると固定費に計上していた費用が変動費に分類される場合があるため、業種に合わせて固変分解をしなければならない点です。
例えば、製造業などでは人件費や宣伝広告費は固定費に分類されますが、人材派遣業のように売上拡大に従い増員が必要になるような場合の人件費や、通信販売業のように売上高と宣伝広告が連動する場合の宣伝広告費は、変動費に分類するのが妥当と考えられます。
簡易的な固変分解
勘定科目法による固変分解は、全ての費用を変動費と固定費に分類する必要がありますが、会社の利益に大きな影響を及ぼす主要な変動費を割り出し分類することで、より簡単に固変分解をすることができます。
仕入れ・材料・外注費だけを変動費にしてみると
勘定科目法では1円単位まで固変分解することが可能ですが、あまり細かな費用に気を取られすぎると、本当に重要なことが見えなくなってしまいます。
経営者が利益予測や経費削減などの判断を行う場合、詳細で正確な固変分解よりも、全体を大雑把に把握できるくらいの固変分解の方が、実際の経営判断に役立つことも少なくありません。
営業利益を求めるには「売上」から変動費と固定費を差し引きますが、前述したように業種によっては、変動費と固定費の分類が変わる費用もあります。
そこで、大雑把な固変分解をするために、売上原価の中から利益に大きな影響を与えない程度の費用は無視し、主要な変動費のみをリストアップし、その他は全て固定費に分類します。
例えば、製造業であれば売上原価に含まれる商品仕入、材料費、外注加工費、在庫増減のみを変動費とし、その他の人件費・減価償却費・水道光熱費などは固定費に分類します。
大雑把な固変分解の結果「売上原価=変動費」となるので、専門知識のない経営者でも、簡単に利益予測や収益改善策の検討が可能となるのです。
変動費・固定費から分かる重要指標
会社の利益は「売上−費用」で求められますが、変動費と固定費を明確に分類すると、収益改善や売上目標の設定などの際に必要となる、「限界利益」や「損益分岐点」などの重要指標を求めることができます。
限界利益が分かる
限界利益とは、会社の収益力の大きさを知ることができる指標の1つで、次の計算式で求めることができます。
限界利益 = 売上高 - 変動費 |
限界利益は、売上高から売上獲得のために生じた変動費を差引いた金額で、収益力が高い会社ほど限界利益は多くなります。逆に、限界利益が少ない会社はいくら売上が増加しても得られる利益は少ないため、変動費をできるだけ削減する必要があります。
ただし、限界利益は純粋な利益ではなく固定費は含まれていないので、経常利益を求める場合には限界利益から人件費や水道光熱費などの固定費を差引かなければなりません。限界利益が多くても経常利益が少ない場合には、固定費を見直す必要があります。
売上に占める限界利益の割合(限界利益÷売上高)を限界利益率と呼びますが、限界利益率を使うと、売上高の増減による限界利益の変化を簡単に計算することが可能です。
限界利益率は業種や事業構造によって大きく変化するので標準となる数値はありませんが、設備や原材料などが必要となる製造販売よりも、ITを利用した付加価値の高い情報サービス業などの方が、限界利益率は高い傾向にあります。
損益分岐点が分かる
損益分岐点とは、利益と損失の分岐点となる売上高、つまり売上高が損益分岐点を超えると会社は黒字になり、超えなければ赤字になるというボーダーラインのことで、いくつかの計算方法があります。
① 固定費と変動費を利用した損益分岐点の計算式
損益分岐点(売上高)= 固定費 + 変動費 = 固定費 + ( 売上高 × 変動費率 ) |
② 固定費と限界利益を利用した損益分岐点の計算式
損益分岐点(売上高)= 固定費 ÷ 限界利益率 = 固定費 ÷( 限界利益 ÷ 売上高 ) |
損益分岐点の主要な活用方法には、次の3つが考えられます。
事業リスクを明確に把握する
損益分岐点と想定される売上高を比較することで事業の収益力が把握でき、損益分岐点を超える十分な売上高を見込めない場合には事業の見直しや、リスクが大きい場合には撤退の判断も必要となります。
投資配分の変更による事業への影響を予測する
当初、変動費に計上していた費用を設備投資によって削減する場合には変動費は減少しますが、固定費が増加するため損益分岐点が変わります。新しい損益分岐点を計算することで、投資配分の変更が事業にとってプラスとなるか、またはマイナスとなるかを事前に予測することができます。
利益目標を達成するための売上高を算出する
利益目標の達成を経営方針とする場合に、目標に到達するための売上高を損益分岐点の計算式を利用して、次のように求めることができます。
利益目標が達成できる売上高 = 利益目標額 + 固定費 + 変動費 |
変動費や固定費を削減する方法
会社の収益力を高めたり経営体質を改善したりするには、損益分岐点の引き下げが最も効果的な方法です。その場合、固定費と変動費の削減が課題となるので、その削減ポイントについて紹介します。
変動費の削減
変動費とは、売上高や生産量に応じて増減する費用のことですから、変動費の額よりも変動費が売上高に占める割合、つまり変動費率を引き下げることがポイントとなります。
具体的な引下げポイントには、次のようなものが考えられます。
① 仕入条件の見直し
この方法は、仕入先の絞り込みや大量仕入れなどによって仕入価格の引下げを図るものですが、特定の会社への依存度が高いと、トラブル発生時のリスク回避ができなくなる可能性があるので注意が必要です。
② 支払条件の変更
資金繰りが苦しい中小企業にとって支払条件は、非常に重要な要素です。そこで、取引先に対し現金仕入への変更や支払サイトの短縮を行うことで、価格の引下げを求める方法が考えられます。
③ 材料などの見直し
商品に使用している材料・資材・梱包材料などをより安価なものに変更したり、不要なものを削減したりすることで、原価の引き下げを図ります。ただし、過剰なコストダウンは品質の低下につながる可能性があるので、注意が必要です。
④ 在庫管理の徹底
過剰在庫や不良在庫が増加すると売上原価が増加し利益が低下するため、在庫管理を徹底し、常に適正在庫を維持することで売上原価の低減を図ります。ただし、在庫の抑制は品切れにつながる可能性があるので、適正な売上予測に基づいて行う必要があります。
固定費の削減
固定費は、売上高や生産量の増減に影響されず常に発生する費用のことですが、固定費の削減のために従業員が必要以上の我慢や節約をする方法は、モチベーションの低下を招く恐れがあるので、避けなければなりません。
長期に渡り大幅な固定費の削減を実現するには、それまで当然と考えていた会社の体制を根本的に見直す必要があります。
そこで、固定費の削減効果が高いと思われる見直し策について2つ紹介します。
① バックオッフィスの見直し
固定費の中でも本部経費は大きな割合を占めていますが、今のオフィススペースは本当に必要なのか、もっと安価な立地でも業務はできるのではないか、人員は適正かなどについてゼロベースで見直すと、削減可能な費用が明確になります。
② 業務のデジタル化
国や地方自治体のデジタル化が進む中、企業においてもインターネットの利用や各種書類のデジタル化による業務のスピード化、ペーパーレス化などが可能になり、人員削減やアウトソーシングによるコスト削減も期待できます。
業務のデジタル化は、固定費の削減と同時に業務効率を高める効果があるので、検討する価値は十分あると考えられます。
まとめ
ここまで説明してきたことを整理すると、次のようになります。
- 会社の経営には「費用」の正しい理解が不可欠
- 変動費とは、売上高や生産量に応じて増減する費用
- 固定費とは、売上高や生産量の増減に影響されず常に発生する費用
- 固変分解によって「限界利益」と「損益分岐点」が求められる
安定した黒字経営をするには、最初に「変動費」と「固定費」を分類するところから始めて、自社の「限界利益」と「損益分岐点」を求めてみると良いでしょう。
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