「変動費」、「固定費」という名称は広く知られていますが、
毎月変動するような費用を「変動費」、固定的に定額を支払うような経費を「固定費」だと思っていないでしょうか。
これは、管理会計の考え方としては適切ではありません。
また、「変動費」「固定費」の分け方を難しく考えすぎていて、うまく活用できていない会社も多くみかけます。
管理会計で活用する「変動費」「固定費」の考え方は非常にシンプルで難しいものではありません。
この考え方が理解できれば、自社の数字を簡単に分析することができるようになり、適切に利益予測をすることもできるようになります。
古田土会計グループでは4,000社の顧問先があります。
そのすべての会社の経費を変動費と固定費に分けて会社の数字を分析し、オリジナル資料「古田土式月次決算書」や「社長の成績表」の形でご提供して、数字を経営に活かせるようにアドバイスしています。
この記事では「変動費」「固定費」とは何か、実務的にはどのように活用するのかを、図とイラストを使ってわかりやすく解説していきます。
1.変動費と固定費の基礎知識
この章では変動費と固定費の基本的な考え方を説明していきます。
1.1 変動費は売上が増えれば増える費用
変動費とは、売上が増えれば、増える費用、売上が減少すれば、それに連動して減少する費用のことを言います。
具体的には、
①商品仕入
②材料費
③外注費
この3つが多くの会社で該当する代表的な変動費です。
来月、売上が2倍になる見通しであれば、仕入や材料費など2倍の量にして準備します。
どんな経費も変動はしますが、管理会計でいう変動費とは、売上高に紐づいているというのがポイントです。
その他には、通販などで商品を販売した際に、売上高に直接的に連動して支払うことになる販売手数料や、商品とセットで売ることになる包装材の費用などが代表的な変動費になります。
一般的に変動費は、「売上や生産量に比例して増減する費用」と説明されることが多いですが、実務的には「生産量」は無視して、「売上」だけの関係性で捉えた方がシンプルになり、活用しやすくなります。
1.2 固定費は売上がゼロでもかかる費用
固定費とは、売上がたとえゼロでもかかる費用です。
具体的には、以下のようなものがあります。
・人件費
・家賃
・水道光熱費
・減価償却費
・リース料
・保険料
・借入の支払利息
この固定費は毎月定額で支出するものとは限りませんが、年間を通してみれば、ある一定金額は発生するような費用です。
売上に直接的、比例的に連動して増減しなければ、基本的にはすべて固定費と考えて良いでしょう。
1.3 変動費と固定費はざっくり分ける
実は会社の決算書や試算表を見ても、変動費、固定費という項目は出てきません。
そのため、決算書や試算表のすべて経費の中から、変動費や固定費を抜き出してまとめ直す作業が必要になります。
ポイントは厳密に考えすぎずに「ざっくり」分けるということです。
①最初に変動費を抜き出し、
②残りをすべて固定費にする
何が固定費に該当するのかと考えるよりも、「変動費以外のすべての費用」とシンプルに抑えておけば大丈夫です。
1.4 変動費と固定費に分ける際の失敗例
実は多くの会社で、変動費を選ぶ際に厳密すぎるために失敗をしています。
よくある失敗例です。
例えば製造業であれば、売上が増えれば、工場の稼働も増えることが多いでしょう。
そうすると、工場の電気代や機械の燃料費、消耗工具の購入費用も多少は増えると思います。
その他にも受注に連動して営業マンにインセンティブを支払っている会社であれば、社員のお給料も多少増えます。売上好調で忙しいということは残業代も連動して増えているかもしれません。
厳密すぎる会社はこれら増える費用をすべて切り分けて変動費にしようとします。
しかし、これらの費用は確かに多少は増えているかもしれませんが「変動費ではない」と決めた方が、正しい経営判断をすることができます。
売上が減少した時のことを考えると、何が変動費なのかを正しく判定できます。
売上が来月以降、1/3に減少してしまうことがわかっている場合、来月以降の①商品仕入、②材料費、③外注費はすべて今より1/3の金額に減らすことができます。
ただし、毎月社員に支払うお給料や工場の水道光熱費、機械の燃料費などは多少は減らせても総額を1/3の金額まで減らすことはできません。
売上高の減少割合と比べると、ほとんど減らせないのです。
これら分類が難しい項目については、「準変動費」や「準固定費」」などと分類されることもありますが、実務的にはあまり役に立ちません。数字を経営に活かすためには、これらの費用はむしろ細かく分類する必要はないのです。
何が変動費か迷ったら、①商品仕入、②材料費、③外注費の3つだけが自社の変動費、それ以外はすべて固定費と決めてしまうことをお勧めします。
2.変動費と固定費に分ける理由
この章では、なぜ経費を変動費と固定費に分ける必要があるのか解説していきます。
2.1 利益を予測するため
変動費と固定費に分けることで、将来の利益を予測しやすくなります。
利益とは、売上から経費を引いたものです。
経費を分解せずに一括りで捉えていると、売上が増えた場合に、どの経費がどのくらい増えるのか、消耗品費は〇%増加、通信費は〇%増加と、科目の1つずつの影響を予測していくことになります。
その場合、一見すると厳密に計算しているようですが、増減させた各科目を積み上げていくと、かえって全体の予測精度は悪くなる傾向があります。
「売上に連動して増減する変動費」と、「売上が増えても減っても変わらない固定費」という大枠の2つに分けることで、
1.売上を予測する
2.売上に連動して変動費は増減する
3.固定費はほぼ変わらない
この関係性で簡単に予測することができ、①売上―②変動費-③固定費=利益という形で、シンプルにいくらの利益を稼げるかをシミュレーションすることができます。
2.2 コスト構造を分析するため
変動費と固定費は性質が異なります。
そのためコスト削減を検討する難易度や効果も変わります。
変動費は材料費や外注費など、売上を増やすために必要不可欠なものが多く、安易に削減してしまうと売上を十分に増やせない場合があります。
一方、固定費は残業時間の削減、効果が薄い広告の中止、見直しがされないまま払い続けている諸会費など、無駄な費用が隠れている可能性があります。
固定費は削減しても売上高には直接的に影響しない費用も含まれていることが多いため、継続的な収益改善が期待できます。
どの種類の費用を削減すれば、売上を減らさずに効果的に利益がでるのかを把握するためにも、費用をあらかじめ分類しておくことが大切です。
3.変動費と固定費に分けると活用できる3つのこと
変動費と固定費に分けることで自社の分析に活用できる3つの方法をご紹介します。
3.1 限界利益を把握できる
会社が儲かるかどうか、値下げをどこまでしてよいか、受注すべきかどうかの基準は、「限界利益がいくら稼げるか」で判断できます。
「限界利益=売上高―変動費」で計算します。
固定費よりも限界利益が多ければ会社は黒字ですし、固定費よりも限界利益の方が小さければ赤字です。
商品やサービスの限界利益をあらかじめ把握することで、適切な価格設定をすることもできます。
利益が出るかどうかは限界利益と固定費の比較で決まります。
前提としてまず変動費を把握しているからこそ、シミュレーションできるのです。
限界利益の具体的な活用の仕方はこちらの記事を参考にしてください。
(https://blog.kodato.com/management-plan/bmarginal-profit)
3.2 損益分岐点を理解することができる
いくら売上高があれば会社は黒字になるのか、あとどのくらい販売数量が減ってしまうと会社は赤字になるかを知る指標として「損益分岐点」があります。
損益分岐点とは、限界利益と固定費が一致するときの状態を言います。
自社の損益分岐となる売上高、つまり黒字になるための売上高を適切に理解するための前提条件として、変動費と固定費をまず把握しておく必要があるのです。
損益分岐点の具体的な活用方法については、こちらの記事を参考にしてください。
(https://blog.kodato.com/how-to-breakevenpoint)
3.3 利益計画を正しく作ることができる
利益計画とは、売上高、各種経費、利益の計画を作ることです。
会社が事業を継続するために必要なものは利益です。
ですから、本来、正しい利益計画は売上高からではなく、利益から逆算して作ります。
費用を変動費と固定費を分けていれば、この利益からの逆算の手順で正しい計画を作ることができます。
具体的には下記の順番になります。
① 1年間の借入返済額から稼がなければいけない経常利益額を算出 (10百万円)
② 前期の数字などを参考に固定費を計画する (200百万円)
③ ①+②で稼がなければいけない限界利益を算出 (10百万円+200百万円=210百万円)
④ ③÷限界利益率で稼がなければいけない売上高を計算
(210百万円÷70%=300百万円)
⑤ ④-③でこの売上高の時にかかる変動費を計算 (300百万円-210百万円=90百万円)
売上に連動する費用を変動費、売上に関係なくかかる費用を固定費にあらかじめ分類しておくことで、経常利益から売上高までスムーズに計算することができるようになります。
4.まとめ
変動費と固定費に分けることで、将来の予測や利益計画が簡単に計算できるようになります。最も大事なポイントは、変動費の選出です。
毎月変動する細かい費用を1つずつ抜き出すのではなく、ざっくりと売上高の増加と減少に直接的に大きく連動する、①商品仕入、②材料費、③外注費をまずは変動費にすることをおすすめします。
シンプルに捉えた方が、数字を経営に活かしやすくなります。ぜひ活用してみてください。
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