事業再構築指針から考える事業再構築の具体的な取り組みとは

    記事公開日: 2022.11.30

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    コロナ禍で先行きが見通せない中、国や市区町村が運営する補助金・助成金への関心が高まっています。中でも、既存事業から新たな事業展開を図ろうとする企業を対象とした、「事業再構築補助金」への注目が集まっています。

     

    そして、この事業再構築補助金の要とも言えるのが「事業再構築指針」です。

    事業再構築指針については、事業再構築補助金の適用要件ともなるため補助金を受けようとする場合は必ず理解しておく必要があります。

     

    そこで今回は、

    「事業再構築補助金はどのような取り組みが該当するの?」

    「事業再構築指針について詳しく知りたい」

    といった事業者の方向けに、必要な取り組み事例なども踏まえて説明していきます。

    事業再構築指針とは

    事業再構築指針とは、事業再構築補助金における「事業再構築」の定義をまとめたものであり、大きく分けて次の5つの類型に区分されます。

    ①新分野展開

    ②事業転換

    ③業種転換

    ④業態転換

    ⑤事業再編

     

    また、事業再構築指針では上記の5類型に加えて、下記の要件も事業再構築の定義として記載されています。

    ・中小企業卒業枠

    ・中堅企業グローバルV字回復枠

     

     

     

    「事業再構築」の5つの類型と具体的な取り組み

    事業再構築の基本的な定義となる5類型については、企業の取り組み内容によって区分されています。それぞれの類型には要件も設定されており、各類型に該当する取り組みをおこなうと同時に、指定された要件を満たす必要があります。

    まずは、5つの類型がどのようなものであるかを把握し、どのような取り組みが該当するのかを過去の採択事例などを参考に確認していきましょう。

    ①新分野展開

    新分野展開とは、主たる業種*¹・事業*²は変更せずに、新製品(商品・サービス)を新市場に展開する取り組みを指します。



    *¹ 主たる業種・・・直近決算期における売上高構成比率が最も高い業種(総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類の産業を参考

     

    *² 主たる事業・・・直近決算期における売上高構成比率が最も高い事業(総務省が定める日本標準産業分類に基づく中分類、小分類又は細分類の産業を参考

     

    引用:採択事例紹介|中小企業庁

     

    実際に採択された事例としては次のようなものがあります。

    業種

     

    宿泊業

    ・コワーキング機能付き宿泊施設を開業

    ・個人ではなく、法人との定額利用の獲得を目指す

     

    こちらの企業では、首都圏を拠点とする企業に注目し、ワーケーション滞在滞在者の新規獲得に向けてコワーキング機能付の宿泊施設を新たに開業し、ターゲットとする首都圏企業を定額利用客として獲得することを目指す計画をたてています。

     

    転載:採択事例紹介「事業計画書」 十勝シティデザイン株式会社|中小企業庁

    ②事業転換

    事業転換とは、新たな製品等を製造することなどにより、主たる業種はそのままで事業内容を変更することをいいます。

     

    引用:採択事例紹介|中小企業庁

     

    実際に採択された事例としては次のようなものがあります。

    業種

    概要

    飲食料品卸売業

    ・惣菜製造用のセントラルキッチン新設

    ・食品等小売業から食品製造卸売への事業転換

    こちらの企業では、新たな調理加工設備としてセントラルキッチンを新設し、地元食材などを使用した冷凍調理用品の製造を計画しました。また、製造のみではなく、卸売販売や通信販売を実施することで新たな市場への算入し、新たな顧客獲得に向けた計画をたてていました。

    転載:採択事例紹介「事業計画書」 株式会社 三本松茶屋|中小企業庁

     

    ③業種転換

    業種転換とは、新たな製品等を製造することなどにより、主たる業種を変更することをいいます。

     

    引用:採択事例紹介|中小企業庁

     

    実際に採択された事例としては次のようなものがあります。

    業種

    概要

    学術研究

    ・オンライン型の事業承継やM&Aプラットフォーム事業

    こちらの企業では、既存のM&A仲介事業(学術研究・専門・技術サービス業)ではなく、オンライン上で解決する事業承継やM&Aに関するプラットフォーム(情報通信業)を選択することで、従来の事業で培ったノウハウや顧客基盤を活用し、さらなる事業伸長が期待できると考え計画策定に至っています。

    転載:採択事例紹介「事業計画書」 株式会社 M&Aナビ|中小企業庁

    ④業態転換

    業態転換とは、製品の製造方法など(業態)を相当程度変更することをいいます。

     

    引用:採択事例紹介|中小企業庁

     

    実際に採択された事例としては次のようなものがあります。

    業種

    概要

    映像・音楽制作業

    ・ドローンなどを使用し、画期的な画像提供システムの構築

    ・非対面、非接触化に寄与する新たな広報支援ツールの提供

    こちらの企業では、住宅会社や不動産会社を顧客とするチラシや集客イベントの開催などを活用した販促企画提案(印刷媒体を主とする)などをおこなっていましたが、高性能ドローンによる空撮や専用ECサイトを立ち上げ、SNS広告やランディングページなど、デジタル事業による広報支援事業を推進することで、事業再構築を図る計画をたてています。

    転載:採択事例紹介「事業計画書」 有限会社 市場印刷|中小企業庁

    ⑤事業再編

    事業再編とは、会社法上の組織再編行為などをおこなったうえで、新分野展開や事業転換などをおこなうことをいいます。

     

    引用:採択事例紹介|中小企業庁

     

    実際に採択された事例としては次のようなものがあります。

    業種

    概要

    飲料販売

    ・業界初の特許乳酸菌飲料の開発と製造販売

    こちらの企業では、これまでリキュール製品の企画開発から製造に至るまでおこなっていました。事業再構築にあたり組織再編をおこなったうえで、新たに開発した植物性乳酸菌を既存商品に取り入れた飲料や、乳酸菌原液そのものを製造、販売、そして健康志向者へSNSやHPを用いたマーケティングをおこなうことで、新分野展開の計画としています。

    転載:採択事例紹介「事業計画書」 株式会社 北岡本店|中小企業庁

    それぞれの類型に該当するための要件とは

    上記の5つの類型には必要となる要件が定められています。その中には各類型に共通の要件となっているものもあるため、まずは要件の種類について把握しておきましょう。

    要件は①~⑧まであり、それぞれの類型に応じて必要な要件は異なります。

    要件① 製品等の新規性要件

    製品の新規性要件については、次の4つの要件を満たす必要があります。

     

    ・過去に製造実績がないこと

    ・主要設備を変更すること

    ・新製品について競合他社がすでに製造しているものでないこと

    ・定量的に性能や効能が異なること(製品が計測できるものである場合のみ)

    要件② 市場の新規性要件

    市場の新規性要件については、次の2つの要件を満たす必要があります。

     

    ・新製品の販売後、既存製品の売上が大きく減少しないなど、既存製品と新製品の代替性が低いこと

    ・既存製品と新たな製品の顧客層が異なること

    要件③ 売上高10%要件

    売上高10%要件とは、事業計画期間となる3年~5年後において、新たな製品の売上高が企業の総売上高の10%以上となるような計画を策定していることを指します。

     

    事業計画期間後における売上高を予測していく必要があるため、事業計画などについても具体的で、かつ現実的な質の高いものにしておくことが重要です。

    要件④ 売上高構成比要件

    売上高構成比要件とは、事業計画期間となる3年~5年後において、新たな製品の属する事業が、企業全体の売上構成比率の中で最も高い事業となるような計画を策定していることを指します。

    要件⑤ 製造方法等の新規性要件

    製造方法等の新規性要件については、これまでの製造方法などの新規性を満たしていく必要があり、具体的には次の4つの要件を満たす必要があります。

    ・これまでおこなっていない製造方法などにより製品を製造すること

    ・製品製造にかかる主要設備を変更すること

    ・競合他社がまだおこなっていない製造方法など、独自性が証明できること

    ・性能や効能の違いを定量的に証明できること 

    要件⑥ 設備撤去等要件

    設備撤去要件については、製造工程の効率化などのために凡用性のあるデジタル機器やソフトなどを改良するといった工夫を行うことが条件となっています。

    たとえば、衣料品店が電子タグを用いた在庫管理システムを導入するなどの取り組みが該当します。

    要件⑦ 組織再編要件

    組織再編要件については、会社法上の組織再編行為のことを指し、具体的に次のようなものが該当します。

    ・合併(吸収合併)

    ・合併(新設合併)

    ・会社分割(吸収分割)

    ・会社分割(新設分割)

    ・株式交換

    ・株式移転

    ・事業譲渡

    要件⑧ その他の事業再構築要件

    その他の事業再構築要件については、事業再構築の定義に該当する次のいずれかの要件を満たす必要があります。

    ・新分野展開

    ・事業転換

    ・業種転換

    ・業態転換

    5つの類型に必要な要件とは

    それぞれの類型に該当するために必要な要件をまとめると次のようになります。

    類型

    必要な要件

    新分野展開

    要件① 製品等の新規性要件

    要件② 市場の新規性要件

    要件③ 売上高10%要件

    事業転換

    要件① 製品等の新規性要件

    要件② 市場の新規性要件

    要件④ 売上高構成比率要件

    業種転換

    要件① 製品等の新規性要件

    要件② 市場の新規性要件

    要件④ 売上高構成比率要件

    業態転換

    製造方法を変更する場合

    要件① 製品等の新規性要件

    要件⑤ 製造方法等の新規性要件

    要件③ 売上高10%要件

    提供方法を変更する場合

    要件① 製品等の新規性要件 または

    要件⑥ 設備撤去等要件

    要件⑤ 製造方法等の新規性要件

    要件③ 売上高10%要件

    事業再編

    要件⑦ 組織再編要件

    要件⑧ その他の事業再構築要件

     

    中小企業卒業枠とは

    中小企業卒業枠は現在中小企業者として事業活動をおこなっている事業者が対象となっており、事業再構築をおこなうことにより、中堅企業や大企業などに成長していくことが目的の特別枠となっています。中小企業卒業枠では、上記の5つの類型の要件にもある⑦組織再編要件に加えて、

    ・新規設備投資要件

    ・グローバル展開要件

    上記3つの要件のうち、いずれかに該当しておかなければなりません。

    新規設備投資要件

    新規設備投資要件とは、新たな装置やプログラムなどの設備投資であることや、中小企業卒業枠による補助金額が上乗せとなる分の2/3以上の金額であるものをいいます。

    グローバル展開要件

    グローバル展開要件については、海外への市場開拓など海外向けに事業展開していくことが要件となっており、具体的には次のいずれかの要件を満たすことが必要です。

     

    海外直接投資

    補助金額の50%以上を海外支店や海外子会社などの事業活動の費用に充てるなど国内外における事業を一体強化すること

     

    海外市場開拓

    海外における市場開拓をおこない、事業計画期間終了までに事業全体売上のうち、海外売上高比率が50%以上になることが見込まれること

     

    インバウンド市場開拓

    外国人観光客向けの市場開拓をおこない、事業計画期間終了までに本事業における製品やサービスなどの提供先のうち、50%以上が外国人観光客向けとなることが見込まれること

     

    海外事業者との共同事業

    海外法人などと共同で設備投資をともなう開発などをおこない、成果物の権利について当該事業者に帰属すること

    中堅企業グローバルV字回復枠

    中堅企業グローバルV字回復枠は、新型コロナウイルス感染症の影響により売上が大きく減少した中堅事業者を対象とした特別枠となっており、通常枠の要件に加えてグローバル展開要件を満たすことが条件となっています。

    グローバル展開要件については、「中小企業卒業枠」と同じ内容となっています。

    自社の状況にあった事業再構築の取り組みをおこなおう

    事業再構築補助金を受けるために必要な事業再構築の要件については、様々な種類や要件があるため、困惑しがちですが、要件の中にはどの類型にも共通のものがあったりと、そこまで難しいものではありません。

    また、すべての事業再構築指針について網羅する必要は決してありません。自社の状況や業種、検討している事業再構築の方法に沿って該当しそうな定義について把握しておくことが非常に重要です。まずは自社分析をおこない、自社の状況にあった事業再構築の取り組みを検討していきましょう。

     

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