残念なことに、本当に多くの経営者が、「経営計画を実施した後の進捗管理」を避けてしまっています。
進捗管理は単なる管理業務ではなく、「実際にプロジェクトを実行して試行錯誤した結果という貴重なデータ」を収集できる宝のような機会であるにもかかわらず、これを実施しないことは非常に勿体ないことです。
(机上の空論を追いかけるより、社内の進捗管理を徹底的に極めるほうが、経営者にとって貴重な知見を得られるのです。)
一見して面倒に思える進捗管理を着実に実行するために意識するべきポイントは、
- 個別の行動計画に落とし込む
- 月に一度は現状把握の時間を設ける
という2点です。
この記事では、今から遡ること100年以上前、第二次産業革命時代の欧米で活躍した実務家や経営学者たちのエピソードについても取り上げつつ、「進捗管理において大切にすべきポイント」についてお話ししていきます。
なお、経営計画書の全体像を把握されたいという方は、こちらの記事をご覧ください。
「中小企業こそ経営計画書を作るべき理由と作成から運用までの全ステップを解説」
目次
- 1.“組織をどう管理するか”は120年前の米国ですでに問題化していた!?
- 2.せっかく作った経営計画書が使われない理由
- 3. 進捗管理でチェックすべき項目の例
- 目標上の成果vs実際の成果
- プロジェクト費用の確認
- (計画作成時点との)状況変化の有無
- 4.経営計画書の進捗管理で意識するべき2つのポイント
- 5.社員のやる気をあげたければ数字は公開するべき
- 6.【事例紹介】ある会社を劇変させた数値管理の仕組み
- まとめ
1.“組織をどう管理するか”は120年前の米国ですでに問題化していた!?
現代の経営管理手法につながる初期の研究は、今からおよそ120年ほど前の米国で技術者・フレデリック・テイラーによって開始されました。この時代の米国の工場労働の現場では、「システム怠業」という名の“組織的なサボり”が大問題となっていました。
このシステム怠業の背景には、たとえ労働者側が一生懸命働いて生産高を増やしても、経営者側が「支払う給料を増やしたくない」という思惑から賃率を減らして、給料が増えないようにするという、いわば“搾取”ともいうべき行動が横行していたことがあげられます。
このような状態では、労働者側からみれば「頑張って成果を出すほど、報酬面が悪化していく」ことになるので、“必要以上に頑張らないようにしよう”と考えるようになるのはある意味当然でしょう。
以上のように、当時の米国の労働現場では現代とは比べものにならないほど激しい労使の対立が問題となっていました。たとえ「システム怠業」のような組織的反抗が行われない職場であっても、個々の労働者のモチベーションは極めて低いものでした。
ハーバード大学を退学し、工場でのキャリアをスタートさせた若き日のテイラーは、管理者としてこの問題に向き合う中で、解決策として
・労働者を搾取せず、「適正な賃金」を払うことで健全なモチベーションを持たせ、組織全体での生産性を向上させること
・「適正な賃金」を決めるための基準として、各労働者ごとの生産性を客観的に評価するための方法を確率すること
という課題に取り組むようになります。
これが、現代の「経営学」の起源となった「科学的管理法」の始まりです。
(この時のテイラーは、労働現場とは別組織として「計画部」を創設しました。これが、現代の会社では当たり前に見られるようになった管理部門の原型です。)
この時、テイラーがキャリアをかけて取り組んだ「生産性を適正に評価するための手法を確立する」ことは、組織の利益を増進することはもちろん、労働者側にとっても「頑張った分、きちんと報いられる」ことにつながります。
私たちが目指す「正しく効率的な進捗管理」も、テイラーと目指すところは同じです。
進捗管理を行う上では、「会社の目標達成を促す」とともに、「社員の努力に正しく報い、やる気をアップさせる」という意識を持って取り組む必要があります。
余談ですが、テイラーが工場労働の中で普及させた労働管理の概念は後世の経営者・経営学者に影響を与えました。
「POCCCサイクル(後の「PDCAサイクル」のルーツとなる概念)」を提唱したことでも有名な、フランスの実業家・経営学者であるアンリ・フェイヨルは、テイラーの没後2年後に発表した著書の中で「規則を守ること」と「(従業員へ)思いやりある配慮をすること」が両立できてこそ、企業を統治できると述べました。
このように、「従業員への配慮」を強調している経営学者は、実は少なくありません。
過去の欧米の経営学者たちの叡智から私たちが学べることは、「経営計画の進捗管理」が非人間的で(管理者から従業員への)一方通行であってはならず、むしろ従業員の話をしっかりと聞いて彼らの状況や考えを汲み取る努力が必要であるということです。
2.せっかく作った経営計画書が使われない理由
経営計画書が使われない理由の一つとして、「進捗管理をする仕組みを作ってないから」という点があげられます。
社員からすると、日々の数値を管理するのは面倒な事なので、放っておけば誰も経営計画書を使わなくなってしまいます。
例えば、学校の宿題も先生のチェックがあるから皆やってきますが、先生がチェックをしなくなった途端、多くの生徒は宿題をやってこなくなるでしょう。
経営計画書もそれと同じで、第三者のチェックが入ることが大切です。
裏を返せば、チェックの仕組みさえ作ってしまえば、経営計画書は正しく運用することが出来ます。
3.進捗管理でチェックすべき項目の例
進捗管理でチェックすべきポイントについて、それぞれの会社によって具体的な項目は違ってくるものですが、ここでは経営計画を順調に達成している企業の多くが共通して重視している「進捗管理でチェックすべきポイントの代表的な例」についてご紹介します。
目標上の成果vs実際の成果
経営計画上での成果と、実際の成果を比較し、「計画に対する達成率◯◯%」というような形で評価します。
例えば「営業目標:100万円」という目標に対して、実際の成果が80万円であれば「達成率80%」と表します。
プロジェクト費用の確認
計画上の予算と、プロジェクトを遂行する上で発生した実際のコストを比較します。
計画段階よりもコストがかかってしまった分については、必要に応じて現場担当者からコストが多くなってしまった理由の説明を受けます。
(担当者に説明を受ける際には、「追求する」「詰める」ようなスタンスではなく、「現場を知る人として尊重し、意見を求める」)というスタンスで臨むのがポイントです。このような点に気をつけないと、担当者は萎縮してしまい、やがて本当の事を言ってくれないようになってしまう可能性があります。)
(計画作成時点との)状況変化の有無
特に経営環境の変化が激しい業界の場合、経営計画の作成時点から大きな環境変化が生じる場合があります。
そして、このような変化をトップが察知する前に、現場担当者のほうが早く気づく場合も少なくありません。
管理側としては、現場からの最新情報を吸い上げ、場合によっては最初に立てた方針に固執せず、修正を図る必要があります。
「流行を扱うような業界」も、商売の相手である消費者の志向が短期間で著しく変化しうる業界です。
現場の営業マンに対して「最近商品が売れてないぞ、もっと販促に力を入れるんだ」と激励するばかりでなく、「実はこの商品の流行が終わってきてるみたいなんですよ...」というふうに営業現場の言い分を聞くことで、「流行が終わってしまえばどうしてもこの商品の売上は落ちてしまうから、その前に新商品を用意しないとな...」と、修正策を準備するきっかけとなります。
このように、経営計画に関して、「当初目標とした数字にこだわること」は大事ですが、「数字達成のための手段」については計画を立てた当初に想定していたやり方にこだわらず、柔軟に変更していくべきです。
そのためには、管理者側が現場へ「計画必達」を押し付けるばかりでなく、現場からの声を拾いながら、戦術を変更する必要はないかどうか定期的に考え直すことが大切になってきます。
4.経営計画書の進捗管理で意識するべき2つのポイント
ここからは、経営計画書の進捗管理をするうえで、意識するべき2つのポイントをご紹介します。
個別の行動計画に落とし込む
1つ目は、全社の目標を個別の行動計画に落とし込むことです。
理由としては、責任の所在がハッキリすることで社員一人一人が目標に対して自覚を持つようになり、結果的に全社の目標達成につながるからです。
トップダウンで決めるやり方もありますし、ボトムアップで目標を設定してもらい、後から全社の目標とすり合わせるやり方もあります。
なお、会社が提示した目標と個人が提案してきた目標に乖離がある場合は、原則は会社が提示した目標を優先します。
月に一度は現状把握の時間を設ける
2つ目は、現状把握の時間を儲けることです。ポイントとしては、各自にまかせるのではなく、全社や部署ごとにチェックする時間を意図的に取ることです。
月に一度は開催する理由としては、計画との誤差にいち早く気づき、すぐに手を打てるようにするためです。
可能なら全社員を集めて開催し、各自の予実を発表してもらう機会を設けましょう。
人前で発表することによって、個人の目標や実績を再認識することが出来ますし、他の社員の目標や実績を確認することで、お互いに目標達成を意識できるようになります。
5.社員のやる気をあげたければ数字は公開するべき
さらに社員のやる気をあげたければ、会社の数字は公開するべきです。自分の頑張りがどれだけ会社に利益をもたらし、ひいては自分の処遇にもつながるのかは、社員にとっては重要な関心事だからです。
中には、社長の役員報酬を公開したり、経理のデータを全て公開している会社もあります。社員からしたら、そこまでオープンにされたら疑う余地がなく、会社に対してクリーンなイメージを抱きます。
ただし、数字をただ公開するだけでは、社員から意図しない誤解を招きかねません。
なぜそのような経営判断をしたのか、説明責任を果たせるかが重要となります。
そのため、いきなり完璧を目指すのではなく、まずは月々の売上目標と実績の予実を公開するなど、出来ることから検討されてみてはいかがでしょうか。
6.【事例紹介】ある会社を劇変させた数値管理の仕組み
最後に、数値管理の方法を見直して、会社の業績を激変させたお客様の実例を紹介します。
毎年赤字体質の会社が1年で数千万円の黒字体質に
生鮮食品の卸をされている会社で、業界的に元々粗利益率が低いうえに、さらに輪をかけたように利益が出ない状態でした。
原因を調べてみると、商品価格を決める際に、社員が自分たちの売りやすい価格で値付けをしていたため、粗利益が低くなっていました。
そこで、チーム単位で月間粗利益額の目標を定め、それをグラフによって「見える化」し、目標達成をしたチームには奨励金を出す仕組みにしたのです。
すると、奨励金が増えると自分達の収入も増えるため、売るときに粗利益を意識した値付けをするようになりました。
しだいに社員達は、「今月は奨励金がもらえそうだ」と、チェックをすることが励みになっていきました。
結果的に、以前は赤字体質だった会社が、数千万円の経常利益が出る黒字体質に大変貌を遂げたのです。
経常利益を固定費に組み込み、溢れた分を社員と山分け
この会社は、チームごとの目標粗利益額を決める際に、工夫を凝らしています。
会社が事業を存続させていくうえで必要な経常利益を見込んで、その金額を固定費に組み込み必要な粗利益額を算出します。
(粗利益額=固定費)そして、目標金額を超えた際には、報奨金として社員と山分けすることにしたのです。
すると、社員達は報奨金と粗利益の関係性を理解し納得出来たことで、俄然やる気を出しました。
稼ぎたい金額は変わらなくても、社員への伝え方を工夫するだけで会社に変化をもたらした好例です。
まとめ
経営計画の進捗管理は、単なる「管理業務」だと捉えず、経営者や管理者側にとっての「机上の計画を立てるだけでは得られない、貴重な知見を得られる勉強の機会」だと捉え、積極的に取り組むと良いでしょう。
また、トップダウンのような形で「計画を現場に押し付ける」「未達成の部分について現場を追求する」といった姿勢ではなく、「現場の声を大切にする」といった姿勢を持って説明してもらうことで、現場側が萎縮して「上にとって都合のいい情報ばかりあげるようになる」ことを防ぎ、自由闊達に意見を交換できる雰囲気を作れます。
「従業員を尊重する」という姿勢は綺麗事ではなく、今から100年以上前に活躍した経営学者のフレデリック・テイラー以来、数多くの経営学者が研究と実務経験を通して理論化してきた“鉄則”です。
チェック体制を築くうえで参考にして頂くべく、『チェック体制構築のヒントになる会議一覧』をご用意致しました。
会社の状況によっては今すぐに取り入れられる施策もありますので、ぜひダウンロードいただき、取り組みやすそうなものから試してみてください。
いかがでしたか?お気に召したのであればシェアはこちらから。