社訓とは、企業や組織が掲げる基本的な方針や信念、行動指針をまとめたものです。
しかし、実際に経営理念・社是・行動指針とのすみ分けはどのようになっているのかあいまいな方も多いと思います。
そこで今回は社訓の定義を確認した後にこれらの言葉との違いについて解説していきます。
1.社訓とは
1.1社訓の定義
社訓とは、「社員が日々の業務や行動の中で守るべき具体的な指針やルール」です。
主に「社是」と一体(セット)で使われることが多いです。
社是との違いについては2章で解説します。
1.2社訓の構成要素
社訓には以下のような内容が含まれることが多いです。
①使命・ビジョン:企業が目指す方向性や存在意義
②価値観・信念:企業が大切にする価値や信念
③行動指針:社員が日常業務でどのように行動すべきかの指針
④倫理・コンプライアンス:法令遵守や倫理的な行動についての基本的な方針
こう見ると企業活動における思想全て、そのものとも言えます。
では社訓があればビジョン、理念、行動指針が不要かというとそういうことではありません。
あくまで、社訓の中に①~④の要素が入っていることが多いということなので社訓だけですべてをカバーできるとは考えない方がよいと思います。
2.社訓と関連用語の関係性
社訓と同じような言葉に社是、経営理念、行動指針があります。
この章ではこのあたりの整理をしていきますが、あえて上位~下位という順番に並べると、上位から「経営理念→社是→社訓→行動指針」とイメージをしていただくとよいと思います。
2.1社訓と経営理念
社訓と経営理念は、どちらも企業の方向性や価値観を示すものですが、その目的や内容に違いがあります。経営理念の方がより広範囲かつ長期的な視野にたった表現になります。
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経営理念軽々 |
社訓 |
定義 |
企業の存在意義や使命、価値観、ビジョンを包括的に示すもの。 |
社員が日々の業務や行動の中で守るべき具体的な指針やルール。 |
目的 |
企業の全体的な方向性を定め、長期的な成長と持続可能性を追求すること。 |
社員の行動や意思決定をガイドし、企業の一体感や統一感を醸成すること。 |
内容 |
抽象的で包括的な内容が多い。 |
実務に直結した内容が多い。 |
具体例 |
「全ての人々に豊かな生活を提供する」「持続可能な社会の実現を目指す」「革新と挑戦を通じて社会に貢献する」 |
「毎日改善を心がける」「チームワークを大切にする」「顧客の声に耳を傾ける」など、具体的な行動指針。 |
2.2社訓と社是
社是は企業の根本的な価値観や存在意義を示すものであり、社訓はその価値観や存在意義に基づいて社員が日々の業務で実践すべき具体的な行動指針を示すものです。
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社是 |
社訓 |
定義 |
企業の存在意義や基本理念を示すもの。 |
社員が日々の業務や行動の中で守るべき具体的な指針やルール。 |
目的 |
企業全体の方向性や価値観を示し、企業文化や経営理念を社員や外部に明示すること。 |
社員の行動や意思決定をガイドし、企業の一体感や統一感を醸成すること。 |
内容 |
抽象的で理念的な内容が多い。 |
実務に直結した内容が多い。 |
具体例 |
「お客様第一」「品質第一主義」「社会貢献」など、企業の存在意義や理念を表す言葉。 |
「毎日改善を心がける」「チームワークを大切にする」「顧客の声に耳を傾ける」など、具体的な行動指針。 |
2.3社訓と行動指針
社訓は企業全体の基本的な方針や信念を示し、社員の行動の根本的な価値観や姿勢を示す抽象的なガイドラインであることに対し、行動指針は社員の日々の業務における具体的な行動や態度を示し、実際の業務遂行に直結した詳細なガイドラインと言えます。
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行動指針 |
社訓 |
定義 |
具体的な行動や業務における詳細なガイドライン。 |
社員が日々の業務や行動の中で守るべき具体的な指針やルール。 |
目的 |
社員が日々の業務を遂行する際に具体的にどのように行動すべきかを明確に示すこと。 |
社員の行動や意思決定をガイドし、企業の一体感や統一感を醸成すること。 |
内容 |
実務に直結した内容が多い。 |
実務に直結した内容が多い。 |
具体例 |
「朝礼で必ず挨拶をする」「顧客からの問い合わせには24時間以内に返信する」「問題が発生した際は上司にすぐに報告する」 |
「毎日改善を心がける」「チームワークを大切にする」「顧客の声に耳を傾ける」など、具体的な行動指針。 |
2.4社訓とMVV等の関係性
MVVとの相関関係・位置づけを図示すると以下のようになります。
2.1~2.3で経営理念、社是、行動指針との違いを解説しましたが、ある程度の理解で問題ありません。細かい定義にこだわらず、自社で使いやすいものを検討し、選んでください。
何れも「作成」しておわりではありません。それらをどう落とし込み「浸透」させていくかです。
3.社訓を作成するメリット
社訓を作成するメリットは、社員一人ひとりの行動や意思決定の基準となり、企業文化や組織の一体感を醸成するために重要な役割を果たす、ということになります。
具体的には以下の5点です。
①企業の価値観と目標を明確にする
社訓は企業の価値観や目標を具体的に表現します。これにより、社員全員が同じ方向性を共有し、一貫した行動を取りやすくなります。
②社員のモチベーション向上
社訓が明確に掲げられていることで、社員は自分たちの仕事の意義や役割を理解しやすくなります。これがモチベーションの向上に繋がります。
③企業文化の形成
社訓は企業文化の基盤となります。共通の価値観や行動基準を持つことで、組織内の一体感が生まれ、強固な企業文化が形成されます。
④対外的な信頼の獲得
明確な社訓を持つ企業は、取引先や顧客に対して信頼感を与えます。企業の信念や倫理観を示すことで、ブランドイメージの向上にも繋がります。
⑤意思決定の基準となる
社訓は経営や日常の業務において、意思決定の基準として機能します。迷った時に立ち戻るべき指針として、全員が共通の基盤を持つことができます。
4.社訓の事例
4.1ヤマトホールディングス株式会社
ヤマトホールディングスでは以下の通り社訓を定めています。
一、ヤマトは我なり ヤマトグループは、「人」を会社の一番大切な財産と位置付けています。それは、社員一人ひとりの創意や工夫、努力の結集がヤマトグループの企業としての価値を生み出しているからです。「ヤマトは我なり」という一文は、「全員経営」の精神を意味します。社員一人ひとりが「自分はヤマトを代表している」という意識をもってお客様やパートナーと接し、自ら考えて行動してほしい、という思いを表しています。自ら考えて行動することで会社は成長し、社会の発展に貢献し、自分や家族の幸福にもつながります。
一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし ヤマトグループの事業の原点にある「運送行為」は、単に物を運ぶことだけではなく、お客様(委託者)のこころ(意思)をお届けし、お客様(委託者・受取人)に喜びをもたらすことです。 お客様にとって安心で信頼できるサービスを提供し続けるために、社員一人ひとりがまごころをもって「どうしたらお客様に更に満足していただけるか」ということを常にお客様の立場に立って考えながら、品質の向上や新たなサービスの開発に取り組む事が大切です。それが、豊かな社会の実現に貢献し、企業としての永続的な成長につながっていきます。
一、思想を堅実に礼節を重んずべし ヤマトグループは、一人ひとりの社員が責任感を持って自ら考え行動する全員経営を会社の基本としています。これを実践するためには、社会の一員として法律やルールを遵守するとともに、一人ひとりが高い倫理観を持って行動することが大切です。礼儀や節度、言葉遣いや振る舞いはその人の人格を表します。そして社員一人ひとりが人格を高めることで、企業のより良い社風と社格が培われていきます。すなわち、社内外を問わず常に言動に気を配り、自己啓発や自己成長に努め、社員一人ひとりがヤマトグループで働くことに誇りをもって成長していくことが、会社の成長にもつながるのです。 |
また、経営理念や行動指針の意味・関係性についてもわかりやすくまとめられています。
ヤマトホールディングスHP https://www.yamato-hd.co.jp/company/philosophy.html
4.2ワタミ株式会社
ワタミ株式会社では、グループミッション、グループスローガン、経営目的と共に社訓が定められています。「社員の姿勢」がよく表れていると思います。
ワタミ株式会社HP https://www.watami.co.jp/corporate/group_idea/
5.古田土会計の事例
古田土会計では明確に「社訓」として明示はしていませんが、近い概念としては「全社員で取り組む10の心得」があります。
1.2で解説させていただいた4つの要素(①使命・ビジョン、 ②価値観・信念、③行動指針、④倫理・コンプライアンス)が入っていること、2章で解説した概念に近いことが分かっていただけると思います。
6.まとめ
以上、社訓について社是、経営理念、行動指針との違いを中心に解説してきました。
繰り返しになりますが、大切なことは「言葉の定義」ではなく自社で大切にする価値観や思想、社員にこうなってほしいという方針・指針を明確にすることとそれを浸透させることです。
ここを見誤らないようにしてください。
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