多くの中小企業は、限られた資源(ヒト・モノ・カネ)の中で経営していますが、その中でもマーケティングは特に重要な役割を果たします。
しかし、多くの中小企業ではマーケティングが正しく機能していないというのが実態で悩みを抱える領域です。
そこで本記事では、中小企業におけるマーケティングについてポイントを掘り下げていきます。
1.中小企業はどのようにマーケティングを行うべきか
1-1 現在のマーケティング活動を強化する
中小企業にとっては、「目の前のお客様に喜ばれる」ことが一番のマーケティング活動です。目の前のお客様にさらに喜ばれるにはどのようにメッセージを打ち出すのか、より明確にメッセージを打ち出すには、どのタイミングでどの媒体で伝えるのかを改善していくことが、効果の出やすい最大のマーケティング活動です。
現在のマーケティング活動を強化していくというシンプルなことが中小企業にとっては成果が出やすいのです。
1-2 マーケティングをしているが成果に繋がっていない
中には、「マーケティングに取り組んだことが無いです」と認識している中小企業経営者の方が多くいらっしゃいますが、誤解をしています。
どの企業も存在している限りマーケティング活動は行っています。なぜなら、自社の商品を買っているお客様がいる限り、それがマーケティングだからです。
しかし、それでもマーケティングを行っていないと感じるのは、実際の目に見える成果が得られず、どんな事がマーケティング活動かを把握せず、マーケティングが機能していないためです。
まずはマーケティングとは何か、そしてなぜ成果につながらないのか原因を探り、具体的な施策を実行することが重要です。
1-3 ドラッカーが語る「マーケティング」とは
マーケティングの神様とも言われるピーター・ドラッカーは、
「マーケティングの理想は販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、自ら売れるようにすることである。」(マネジメントより)と述べました。
つまり、マーケティングとは「自社の商品を売れるようにする」訳ではなく「お客様のニーズを理解して、それに応じて価値を提供すること」なのです。
単に広告を出して宣伝をし、自社をPRするのではなく、常に「お客様・顧客」の立場に立って考えることが起点となり、売れた瞬間にそれはマーケティング活動の一つと言えるのです。
1-4 マーケティングを正しく機能させるとは
「正しく機能させる」とは、本来持っている能力が発揮できるように調整することを指します。
ですから、マーケティングが正しく機能していない会社は、たとえ良い商品やサービスを有していても、本当に欲しいお客様に届かずに、開発した商品・サービスもどこかのタイミングで売上の限界を迎えてしまいます。お金やコストをかけられる会社でも、ここを間違っていると、コスト以上の成果を期待できません。
一方で、マーケティングが正しく機能している会社は、自社の商品・サービスを「本当に欲しい」と思っているお客様に届けられるので「たとえ少々高くても欲しい」という高付加価値なサービス提供ができます。
仮に同じ商品を扱っている企業だとしても、マーケティングが機能しているかそうでないかによって、提供価値が変わってきます。
2.中小企業がマーケティングを正しく機能させるとどうなるのか
2-1 斜陽産業でも右肩上がりで成長できる
斜陽産業とは、例えばレコード業界や印刷業界、タクシー業界、電話業界などの「市場成長率が低い・需要に対し供給が多い・技術革新が送れている産業」を指します。
これらの産業では、業界全体では右肩下がりに需要は下がっていくのは予測されていますが、正しく市場に対してマーケティング活動を行うことで、自社の市場拡大や新規事業をスタートさせることができます。
この時、一括りに市場を見ずに、市場の中でもより絞った市場のお客様を見定め、どのようなポイントであればお客様により満足されるかを見つけ出す事で、斜陽産業でも右肩上がりに成長できます。
2-2 ブランドの構築と信頼の確立
お客様像・市場のターゲットを明確にし、そのお客様が本当に欲しいというサービスを届けられるようになってくると、顧客満足度を高め、口コミやリピート購入が続き、自社の売上は成長していきます。
その結果、お客様には「○○ブランド」と認識され付加価値の高い商品として広く認識されるようになります。
また、地域社会とのつながりの多い中小企業は、その地域のニーズや文化に敏感に対応して地域コミュニティでの支持を集めることで、地域企業としてのブランドと好意的なイメージを築くことができます。
マーケティングを通じて、企業のブランド価値を向上させることで、お客様や市場での信頼を築くことができ、認知度が高まり競争力の強化につながります。
中小企業では多くのサービス展開ができないからこそ、特定のサービスに特化して集中的に資源を投下することで優位な自社ブランドを築く事が出来ます。
2-3 ライバルと差別化し、市場で優位になれる
マーケティング活動を通じて、自社しか持ち合わせていないサービス・価値をお客様に明確に伝えることで、他社と差別化することができます。
例えば、高品質な製品、特定の顧客層に特化したサービス、独自の技術やデザイン、他では買えない商品といった明確な差別化要因を強調することがポイントです。
また、価値と価格のバランスを強調することで差別化を図ることもできます。プレミアム価格を設定することで、高品質や独自性をアピールし他者とは一線を画し、市場で優位なポジションを築けます。
中小企業は労働生産性が低く、認知度が低い事が多いです。しかし、本当に欲しいと思っているお客様に対して高付加価値なサービスを届けることによって、労働生産性も高まり、リピーターが認知度を高めることに繋がり、市場で優位なポジションを築けます。
2-4 会社の事業リスクを減らせる
マーケティング活動を通じて、お客様のニーズや市場の動向を把握すると、需要の変化に対応することができます。適切な市場調査やお客様のフィードバックを活用することで、事業戦略を調整することができます。
「気づいたら自社の商品が全く売れなかった」となる前に、常にマーケティング活動を行い自社の商品をお客様に合わせて変化させていく事がポイントとなります。
中小企業では、サービスの種類が少ないため一つの商品が事業の柱となっている事が多いです。良い面を見れば絞って効率化を図れていますが、事業がうまくいかなくなると会社が危ういです。だからこそマーケティングを行い、少ない事業でも需要の変化に対応していく事で、会社への損失リスクを減らすことができます。
3.マーケティング活動の3要素と古田土会計グループの事例
マーケティング活動というと難解な印象を受けるかもしれませんが、その要素はたった3要素しかありません。
それは「誰に売るのか」「何を売るのか」「どのように売るのか」です。
これら3つをそれぞれに定義することによって、マーケティング活動は正しく機能しはじめます。
3-1 「誰に」売るのか
「誰に」売るのかということですが、これは「ターゲットの設定」ということです。
自社の商品・サービスを買って喜んでくれているのはそもそも誰なのか、ここで大きな間違いをしてしまうと、その後のマーケティングも進めません。
自社の商品・サービスの内容を把握した上で、それに合わせたターゲット設定、またはターゲットの明確化をする必要があります。
例えば、塗装屋さんであればお客様は
「持ち家の外壁の劣化や色あせを無くし、家の見た目や耐久性を向上させたい家庭持ちの女性」といたターゲットが想像できます。
自社の持っている商品・サービスを利用して喜んでくれるのは誰なのかをより詳細にすることで、より届けたい価値を届けられるようになります。
3-2 「何を」売るのか
「何を」売るのかということですが、これは対象の顧客が本当に求めていることを見抜くということです。
例えば、先ほどの塗装屋さんであればお客様は「家にペンキを塗ってほしい」というニーズがあるわけでなく、ペンキを塗ることによって得られる「涼しく居住空間にしたい」「家を長もちさせて節約したい」というニーズかもしれません。
ターゲットが望んでいることを理解するためには、ターゲットがその商品やサービスを利用することで得られる、嬉しさや喜びを見極めることです。
商品・サービスで得られる「嬉しさや喜び」を言語化したものが「何を」売るのか(提供価値)となります。
3-3 「どのように」売るのか
「どのように」売るのかということですが、これは価値提供の実現方法を示しています。
例えば、先ほどの塗装屋さんであれば、どんな「価格帯」で提供するのか、どんな「広告経路」で購入してもらうのか、「業者が塗る」のではなく「自分で塗る」のかといったお客様が得られる提供価値を実現する方法になります。
「どのように」販売するかの方法は沢山あります。時T代によって折込みチラシや、ダイレクトメール、TVCM、YouTubeといった様々な媒体やプラットフォームが生まれてきました。
数ある中でどのように提供するのか決めるのは大変ですが、まずはお客様がどのような方法だとサービスを理解しやすいかを考えましょう。
3-4 古田土会計グループの事例
古田土会計グループでは、具体的にマーケティング対象の「誰に」「何を」「どのように」提供するのかを明確にして、経営計画書に明文化しています。
このように明文化して経営計画に入れ込むことによって、マーケティング戦略を全社で共通認識として持つことができ、社長と社員で共有できた結果、お客様へのズレがなくなります。
中小企業では社長と社員の距離が近いため、このように経営計画に落とし込んで共有すると、より解像度が高く、実施しやすいマーケティングを行うことができます。
4.中小企業の成功事例
4-1 石崎電機店(ニッチなアイロン市場へ)
当時、石崎電機製作所様は日本で一番安くアイロンを販売しており、安いアイロンを作る事を得意としていました。しかし、時代の流れも変わりバイヤーが直接購入するようになってから、価格競争できなくなってきていました。
そこで石崎電機製作所様は、大手メーカーには手の届かないニッチな市場、具体的には特定のお客様にターゲットを絞ったアイロン市場に参入する事にしました。
これまでアイロンユーザーと言えば、家庭用で安く使えるものを欲しがる主婦層でしたが、「男前アイロン」と称して、見た目にもこだわりを持ってアイロンを使用したい層をターゲットとして販売しました。その結果、売上は10倍以上、台数10万代以上売れるヒット商品を生み出す事に成功しました。
石崎電器産業様のポイントはこれまでの「安いアイロン」が欲しい層から「見た目にこだわりを持ったアイロン」が欲しい層へと市場を絞った事です。市場を絞ることはお客様数が減る事を意味しますが、より顧客層が欲しいと感じる価値を届けることができ、その結果高い満足度を生み、リピーターの創出にもつながります。
4-2 小池勝次郎商店(ねぎ参謀)
小池勝次郎商店様は地域密着型の農産資材・卸売事業を行っている会社です。
当時、小池社長は「強豪との差別化を成功させ、埼玉県を代表する会社になりたい」「地元・深谷の衰退をくい止めたい」という思いがある一方、年々激しくなる価格競争と店舗運営の苦しさで悩んでいました。
しかし、使われていない畑が増え深谷の衰退を放っておくわけにはいかないという思いから「ネギ栽培といったら こいけやさんへ」と言ってもらえる知名度と「農家を元気にする」という理念をより実現する経営に舵を切りました。
小池社長は「想いの整理」「強みの分析、ポジショニングの確立」を行い、自社の強みを「ネギ総合技術」「根本解決商品力」「ネギに関する人とモノと情報が繋がる場の提供」と定義し、ネギ栽培全般の相談サービスとして「ネギ参謀」を立ち上げました。
分かりやすいターゲットへの打ち出しの結果、過去最高の売上を迎え前年比5,000万円アップ、会員数の増加、大口顧客の獲得と農業資材卸売業の他者ではできない差別化を実現しました。
5.中小企業がマーケティングを正しく機能させるには
5-1 社長が現場に出て、社長主導で行う
現場の社員が主導でマーケティングを行うこともできますが、社長が主導で行う方が成果に出やすいです。なぜなら、中小企業の場合、自社の商品を一番知っていて、会社の財務体質や今後の展開を考えているのは社長しかいません。
社員主導で行うこともできますが、社員数も少なく、お金も沢山かけられない環境の中でもマーケティングで利益を出すには、会社の未来を一身に担う社長が責任を持って現場に出てマーケティングを行うことが必須です。
社長が主導で行う中で、必要な業務や調査、細かい部分は社員に任せて、主導で行うのは社長が行いましょう。
中小企業の社長の仕事はこちら
https://blog.kodato.com/12job-sbusiness-owner
5-2 ターゲットを絞りこむ
中小企業は人員やお金のリソースが限られているので、膨大なコストをかけられません。
しかしそんな中でもマーケティングで成果を上げていくには、対象のお客様・ターゲットを絞ることが効果的です。多くの人に喜ばれたいという思いから「誰でも使いやすい」という風にターゲットを広げたくなりますが、あえてターゲットを絞り込むことで、絞り込んだお客様により深く刺さる価値を届けられるようになります。その結果、絞り込んだお客様からの満足度が高まり顧客数や客単価が上がることに繋がるのです。
ターゲットを絞ることは怖いかもしれませんが、絞ることでよりターゲットへの提供価値が高まるのです。
マーケティングを行う上で必要な考え方「戦略」はこちら
https://blog.kodato.com/difference-between-strategy-and-tactics
5-3 目の前のお客様に喜ばれる事を徹底的に行う
新しいシステムを取り入れることや広告にお金をかけること、マーケティング戦略を立てることも正しいですが、マーケティングが正しく機能したとしても最終的には「目の前のお客様に喜ばれる」ことに変わりはありません。
マーケティングを考える際は、目の前にいないお客様を想像することが多いですが、地道に「目の前にいるお客様に喜ばれる」ということも立派なマーケティング活動の一つです。「目の前にいるお客様に喜ばれる」ということは、何らかの方法で、確かな価値提供ができていることであり、それがつまりマーケティングの「誰に」「何を」「どのように」提供しているかを実現している状態です。
中小企業で社員数が少ないからこそ、地道に目の前のお客様に喜ばれることを続けていきましょう。
6.さいごに
中小企業は経営資源も限られており、商品数が少ないことから市場の衰退などの外部環境の影響を受けやすいです。
そんな中、マーケティングを正しく機能させるということは、自社の成長を後押しする材料となり、短期的に見た業績改善だけでなく、5年10年といった自社の方向性を導く大切な活動です。
「目の前のお客様」を大切にして喜ばれる中で、改めて「誰に」「何を」「どのように」売っていくのか整理していきましょう。
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