自社の経営状況をしっかりと理解したい、数字で経営判断をしたいと考え、その手法について調べると必ず出てくるのが「財務会計」と「管理会計」という考え方です。
「~会計」という言葉を見ると、多くの人が「難しい」、「専門的過ぎる」と感じるかもしれません。
しかし、財務会計と管理会計の違いは特に難しいものではありません。
この2つの違いを知るためには、簿記の知識や会計制度の詳細まで理解する必要はなく、経営者は、この2つの会計がそれぞれ何のために存在し、どんな役割を果たしているのか、その概要と活用方法だけ知っておけば大丈夫です。
この記事では財務会計と管理会計の違いについて、その基本ポイントを図とイラストを使って解説していきます。
1.財務会計と管理会計の関係性
この章では、財務会計と管理会計のそれぞれの基本について解説していきます。
1.1 財務会計と管理会計の関係
企業が扱う会計には大きく分けて「財務会計」と「管理会計」という考え方があります。
それぞれの目的、対象、ルールなどは異なりますが、この2つは全く違うものというわけではありません。
まず会計の基本としては財務会計があり、財務会計のルールによって各種の資料が作られます。
その情報をベースにして自社で加工することによって出来上がるものが管理会計だとイメージしてください。
1.2 財務会計で財務3表を作る
財務会計のルールを活用して作成する資料として、代表的なものが次の3つがあります。
財務3表と呼ばれるものです。
①貸借対照表(B/S): 決算日時点での企業の財産状況を表現しています
②損益計算書(P/L): 売上や利益を示し、今期の経営成績を表現しています。
③キャッシュフロー計算書(C/F): お金の流れを示し、利益とお金のズレを表現しています。
これらの財務諸表は法律や会計基準などのルールに基づいて作成されています。
財務会計の詳細についてはこちらの記事を参考にしてください。
1.3 管理会計で経営管理を行う
一方、管理会計は会社によってアレンジ自由で、明確に定義された資料はありません。
具体的にどのような社内の管理に使えるのか、代表的な手法をご紹介します。
(1)予実管理
月や年間の中で、あらかじめ予算を立て、全社や部門ごとに実績と比較する作業です。
売上、原価、経費、利益などの項目を一定期間ごとの進捗を管理し、その情報を経営に活かすことを目的としています。
(2)月次決算
月次決算とは、年に1回の本決算とは別に、社内で月々の業績を毎月タイムリーにまとめる作業・仕組みのことを言います。一般的には、1か月分の財務3表に加えて、部門・店舗別の損益計算書や資金繰り表、各種の財務分析資料、グラフなどになります。
(3)損益分岐点分析
変動費と固定費の関係を把握し、利益が出る水準を計算する手法です。
企業が黒字に転じるための最低限の売上高や販売数量を把握することに役立ちます。
(4)アメーバ経営
会社組織を小さな集団(アメーバ)に細分化し、小集団ごとに独立採算で運営する部門別管理の手法です。京セラ創業者の稲盛和夫氏によって開発されました。
(5)キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)分析
企業が商品等を仕入れ、その代金を支払ってから、その後の売上により発生した売上債権が回収されるまでにかかる日数を示し、企業の資金繰りの現状を把握するために活用します。
以上は一例ですが、会社で重視したい管理項目に合わせて様々な管理会計の手法が存在します。
1.4 財務会計は外部報告用、管理会計は社内管理用
財務会計は一言でいうと「外部に報告するための会計」です。
会社には様々な利害関係者がいます。そして、それらの関係者が企業を比較・分析をしやすいように、会社の経営成績や財務状況を同一ルールで情報提供ができるようにする必要があります。
そのために定められた会計処理や会計方針のことを「財務会計」といいます。
一方、管理会計は一言でいうと、「社内向けのなんでもあり会計」です。
会計という名前が付いているので何か決まったルールがあると捉えがちですが、実はルールは特にありません。
会社の実態をつかむ、会社の分析をする、会社が目標通りに進んでいるかチェックするなど、自社の経営のために役立つのであればどのような形に自社の数字をアレンジしても良い、社内管理のための自由な会計が管理会計です。
2.財務会計と管理会計の違い
この章では、財務会計と管理会計の違いについて比較しながらポイントを確認していきます。
2.1 財務会計はルールがあり、管理会計はルールがない
この2つの決定的な違いは、財務会計は法律、会計制度、会計基準など従わなければいけない、すべての企業に対して同一に適用されるルールが存在するのに対し、管理会計には手法はいくつかあるものの、明確に定められたルールがないということです。
2.2 財務会計は義務、管理会計は任意
1年に1回、財務会計に基づいた財務諸表を作成しなければいけないということは法律で定められており、大企業、中小企業にかかわらず義務とされています。
ですから、すべての会社で財務会計を使います。
一方、管理会計を活用して作る社内の管理資料はあくまで任意であり、誰かに強制されるものではありません。経営者には管理会計を活用して資料を作成することを強くおすすめしますが、作成していないからといって罰金や罰則があるわけではありません。
2.3 財務会計は利害関係者のため、管理会計は経営者のため
財務会計は外部報告用の会計です。
具体的に会社が報告すべき外部の利害関係者とは、株主や投資家、債権者、取引先、金融機関や税務署などになります。これらの関係者が企業を比較・分析しやすいように、そして、社会的な信用を得るための手段として活用されます。
一方で管理会計は、社内管理用として自社だけが活用するものなので対象者は経営者や幹部です。
2.4 財務会計は過去の報告、管理会計は未来のため
財務会計は1年の事業年度をまとめて決算をする、1か月間の結果を試算表としてまとめるなど、常に表示されている数字は過去の集計です。過去の企業活動がどのように展開されたのかを反映することが求められるのが特徴です。
一方、管理会計はベースとなる数字は過去の結果かもしれませんが、それだけにとどまりません。
利益予測や資金繰り、将来の計画やシミュレーションなど、今後の経営に活かすため、未来のために作成するものです。
2.5 財務会計は定期的、管理会計は随時
財務会計で作成する決算書は、企業の事業年度にあわせて1年に1回作成します。試算表であれば1か月単位の試算表を作成することになります。定期的に業績を報告するものなので作成時期、回数は決まっています。
一方、管理会計は作成する頻度、期間は決まっていません。
会社で必要であれば、毎月でも毎週でも毎日の単位でもよいものです。会社で数字を経営に活かすために必要な時期、タイミングで随時作成するものになります。
2.6 財務会計は正確性重視、管理会計はスピード重視
財務会計は利害関係者が企業を比較・分析するために活用されるものです。
そのため、企業が財務会計を使って作成する財務諸表は正確性が求められます。
企業が毎年作成する決算書であれば原則「決算日の翌日から2か月以内」という申告期限が定められています。2か月間の猶予を与えるので、その期間で正確に数字をまとめてくださいということです。
一方、管理会計はスピード重視です。経営活動をしていく中で、2か月前の結果を参考に未来の舵取りをしていては遅すぎます。月次決算であれば、前月分の結果を遅くとも翌月15日までには仕上げて当月の意思決定に反映させるくらいのスピード感が求められます。
経営判断に大きな間違いが生じない範囲であれば、その数字はある程度概算の数字であっても構わないのです。
3.中小企業経営者は管理会計を重視すべき
この章では中小企業経営者にとっては、より管理会計を重視すべき理由を説明していきます。
3.1 財務会計の資料はわかりにくい
財務会計の資料は、多くの関係者の目に触れる可能性があるので、対外的に非常に重要なものです。しかし、経営者にとっては財務会計だけを重視することは、経営判断をするうえでは不十分です。
財務会計は前項までで説明してきた通り、定められたルールに従って外部関係者に同じフォーマットで報告するための会計処理や考え方です。
外部関係者から見て同じ基準で、他社や過去と比較可能であることが最も重視されます。
どの会社も型にはまったフォーマットで作る必要があるため、必ずしも自社にとっては理解しやすいものではありません。
今の自社にとって最も必要な数字がフォーカスされている資料ではないのです。
経営に活かすために、目的に応じてわかりやすさを追求する必要があります。
3.2 管理会計で経営判断をしよう
財務会計で作られる財務諸表は常に過去の結果報告です。
企業にとっては過去の分析も今後の参考にするために大事かもしれませんが、それよりも未来を見据えた戦略的な意思決定をする方が経営者にとっては重要です。それを可能にするのは管理会計の役割です。
管理会計は、過去の数字を踏まえつつも、より戦略的な視点から未来の方向性を示してくれます。
そして、バリエーションも豊富で、会社にあわせて自由に進化させることができます。
経営者は財務会計を深く理解するよりも管理会計をうまく活用する方が圧倒的に重要なのです。
管理会計の活用の仕方はこちらを参考にしてください。
3.3 中小企業でやるべき管理会計は月次決算
具体的に管理会計は何から始めるべきかというと、それは「月次決算」です。
月次決算とは、事業年度末に行う年に1回の本決算(年次決算)とは別に、社内で月々の業績を毎月タイムリーにまとめる作業・仕組みのことを言います。
毎月の月次決算をタイムリーに行うことで、
① 早い経営判断ができる
② 時間の節約につながる
③ 金融機関からの信頼が得られる
このような効果が得られます。
古田土会計グループでは、現在4,000社の顧問先があり、オリジナルの「古田土式月次決算書」を毎月ご提供しています。
この資料には財務会計で作られる試算表だけではなく、管理会計を多用した17種類の帳票で構成されています。これだけの視点で自社をチェックすることによって、損益だけではなく財務体質やキャッシュの状況を確認し、未来に向けての改善策を考えることができるのです。
月次決算の詳細については、こちらの記事を確認してください。
4.まとめ
財務会計と管理会計は、目的、手段、対象者など、位置づけを比較で理解すれば、その違いは難しいものではありません。
どちらも重要な内容ですが、中小企業経営者が活用するという意味では、管理会計の理解を深めて積極的に取り入れていくことをおすすめします。
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