行動指針とは?定義や目的、活用方法について解説

    記事公開日: 2023.09.20

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    「行動指針」とは、名前のとおり、組織、団体、個人などが行動する際の規範や原則のことです。望ましい行動や望ましくない行動を定義し、組織内外でこの行基準を共有します。

    行動指針は、目的によって、倫理、道徳、法的要件、業界規範などに基づいて作成されることがありますが、今回の記事では、会社(特に中小企業)が指針を作成する目的や作成方法、活用方法にしぼって解説していきます。

    経営計画書や方針書を作成すると、よく「行動指針」という言葉が出てくると思います。
    また、ミッション・ビジョン・バリューでもクレド等の表現で目にすることがあると思います。
    一方で、改めて考えると
    ・何のために必要なのか?
    ・数年前、10年以上前に1回作ってそのままでよいのか?
    ・作ってどうするのか?
    などが曖昧になっていて「形だけ」になっている可能性もあるのではないでしょうか。

    今回の記事ではこの辺りも含め、特に「作ってどうするの?」「どう生かすの?」という部分も含めて解説していきます。

     

    1 行動指針とは

    1.1    行動指針の定義

    行動指針とは、「組織で共有すべき価値観・行動原則」であり、社員が「どのように意思決定し行動するべきか」を具体的に示したものです。

    他に分かりやすい表現として以下のものがあります。

    社員全員が覚えることが出来、理解し、毎日の判断や行動の基準にできる言葉です。
    形式としては、「短くて印象的な複数のフレーズ」がよいです。

    (ダイヤモンド社 コンセプトの教科書 細田高広 著)

    1.2    行動指針の目的

    行動指針の目的は3つです。

    ①    行動の方向性を提供する
    行動指針は、組織や個人にとって、どのような行動が望ましいかを示し、方向性を提供します。これにより、一貫性のある行動が促進され、混乱や不正を防ぐのに役立ちます。

    ②    信頼性の向上
    行動指針は、他の人や組織との信頼関係を築くために役立ちます。これは、約束を守り、公平かつ誠実に行動することを奨励します。

    ③    社風の形成(組織文化の促進)
    組織の文化や価値観を反映する行動指針は、組織内の一体感を促進し、共通の目標や価値観を強調します。

    そして、これらを1つにまとめると、行動指針の目的は、

    「ミッション・ビジョンを達成するための行動・判断基準を明確にすること」

    となります。


    桃太郎で例えれば、
    「村の平和を守る(ミッション)ために鬼退治をする必要がある(ビジョン)。」
    そのために何が必要か?と考えた時に、
    「皆で一致団結しよう!」
    「犬、猿、きじのそれぞれの強み・個性を活かそう!」
    ということです。

    逆に考えれば、下から上に向かって、
    「皆の個性(長所)を活かして、一致団結して鬼を倒そう!」
    ということにもなります。


     
    これらの意味では、「その行動は~の指針に則っている?」という形で日々の行動のチェックリストのような存在でもあります。

    1.3    行動指針の位置づけ

    行動指針はMVVでいうとバリューに相当します。



     
    違う言い方・見方をすればこのようになります。
    「目的・目標に向かうためのベースとなる行動の基準」です。

    2 行動指針の事例

    具体的にイメージするために、実際にどのような行動指針が作られているのかをいくつか紹介します。

    株式会社オリエンタルランド

    「The Five Keys~5つの鍵~」(Safety, Courtesy, Inclusion, Show, Efficiency)は、全キャストにとって、ゲストに最高のおもてなしを提供するための判断や行動のよりどころとなっています。
    これは、ディズニー社のライセンシーである株式会社オリエンタルランドが、東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを運営するにあたって最も大切にしている規準です。
     
    【Safety(安全)】 
    安全な場所、やすらぎを感じる空間を作りだすために、ゲストにとっても、キャストにとっても安全を最優先すること。
     
    【Courtesy(礼儀正しさ)】
    “すべてのゲストがVIP”との理念に基づき、言葉づかいや対応が丁寧なことはもちろん、相手の立場にたった、親しみやすく、心をこめたおもてなしをすること。
     
    【Inclusion(インクルージョン)】
    さまざまな考え方や多様な人たちを歓迎し、尊重すること。すべての鍵の中心にあり、他の4つの鍵のどれにも深く関わる。
     
    【Show(ショー)】
    あらゆるものがテーマショーという観点から考えられ、施設の点検や清掃などを行うほか、キャストも「毎日が初演」の気持ちを忘れず、ショーを演じること。
     
    【Efficiency(効率)】
    安全、礼儀正しさ、ショーを心がけ、さらにチームワークを発揮することで、効率を高めること。

    https://www.olc.co.jp/ja/sustainability/social/safety/scse.html


    株式会社メルカリ

    【Go Bold 大胆にやろう】
    世の中に大きなインパクトを与えるイノベーションを生み出すためには、メンバー全員が前例にとらわれず、大胆にチャレンジすることが大切です。そのためには挑戦を続け、数多くのトライアル・アンド・エラーを繰り返し、失敗から学びを得ることが重要です。常に会社や自身のビジョン、あるべき姿を見失わず、周囲をリードしながら、ミッションの達成を目指します.

     

    【All for One 全ては成功のために】
    大きな成功を得るためには、チームの力を合わせることはもちろん、やるべきことを見極め、決定したことに全員でコミットすることが大切です。また、メンバー全員が手段や役割に固執せず、成功するために何が必要で、何を求められているのかを考え抜き、パフォーマンスを最大限に発揮することで、ミッションの達成を目指します。


    【Be professional プロフェッショナルであれ】
    一人ひとりがその道のプロフェッショナルとして高い専門性を持ち、日々の学びを怠らない姿勢は、個人のみならずチームに良い影響を及ぼします。自らを高めるためには高度なスキルとポジティブなマインドの両方を持ち、行動に移すことが重要です。自らの仕事にオーナーシップと責任を持ち、成果や実績にコミットすることでミッションの達成を目指します。

    https://globalpolicynetwork.org/detail/6010701027558


    ソフトバンクグループ株式会社

    【No.1】 
    やる以上は圧倒的No.1
    何事にも「勝つ」「一番を目指す」と思い続けることで、必ず一番になれる時がきます。そしてそのNo.1が圧倒的になることで、常に新しいチャレンジ、新たな成長につながる可能性が広がります。

    【挑戦】
    失敗を恐れず高い壁に挑み続ける
    現状維持を常に疑い、リスクを恐れず常にチャレンジし続けることで、大きな成長につながります。

    【逆算】
    登る山を決め、
    どう行動するか逆算で決める
    目標に対して積み上げただけでは、達成できる位置は限られます。目標を見据えて、○カ月後、○週間後、来週とブレイクダウンすることで、「今やるべきこと」が明確になります。

    【スピード】
    スピードは価値。
    早い行動は早い成果を生む
    1週間後の100%より3日後の7割。PDCA(Plan-Do-Check-Act)を早く回すことで、より早い結果につながり、そしてより早いネクストアクションを起こすことで、より良い結果が生まれます。

     【執念】
    言い訳しない、脳がちぎれるほど考え、
    とことんやり抜く
    「難しい」「できない」と思うよりも「どうやってできるか」を常に考え続けるような強い思いを持ち、「できる」と信じて、最後まで諦めずにやり抜けば、必ず道は開けます。

    https://group.softbank/philosophy/value


    いかがでしょうか。
    見出し(端的な言葉)の後に詳細な説明が書かれているケースが多いですが、この見出しは冒頭に述べさせていただいた「短くて印象的な複数のフレーズ」に当てはまっていることが分かります。

    また、行動指針をみると「あ~!確かに!」とその企業のイメージと一致するのではないでしょうか?
    まさにここが大事なポイントでもあります。
     
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    3 行動指針は事例をパクるのはNG!

    2章で紹介した事例の通り、行動指針を見て「たしかにうち(あそこ)の会社っぽい!」とイメージできるような行動指針が望ましいです。

    逆に作成するときは、「うちの会社っぽい」行動指針が必要です。

    言い換えれば、ミッション・ビジョンと紐づき、社風を表しているような行動指針です。

    これらの意味で考えると、コンプライアンスも含め行動指針はパクるのはNGです。
    所々、良い文章や表現などを参考にすることはよいですが、まるまるマネすることは避けましょう。

    4 行動指針は誰が作る?

    行動指針の作成者は3つのパターンがあります。
    会社のステージと共に、4.1から4.3へ変化させていくことがお勧めです。

    4.1 経営者が作る

    まず最初は経営者が作成します。
    経営理念・企業理念は企業の価値観ですが、それを行動に落とすとどうなるか?
    どういう行動をしていくと理念(目的)に近づくか、ということを考える際に、「理念」をしっかりと理解している必要があるためです。
    そして、経営理念を一番理解しているのが経営者だからです。古田土会計でも、行動指針は創業者の古田土満が作成し、長年活用しています。

    まだ理念が浸透していないうちに部下に任せると、経営理念やミッション・ビジョンとの結びつきが弱くなる可能性が高くなります。

    4.2 幹部が作る

    理念が浸透し、幹部が育ってきたら幹部で作成することも選択肢の一つです。
    もちろん「必ず」ではありません。

    しかし、この先会社を作っていくのは幹部の方々だとしたら、「自分たちが作っていく」という意識の向上と訓練の意味も含めて幹部が作成することは意味があると思います。

    それを経営者が判断・確認し、軌道修正していく過程を繰り返すことでより経営者意識も芽生えてきます。

    4.3 社員が参加して作る

    最後は社員も参加して作る、です。
    社員数にもよりますが、社員全員で作成することもあります。
    よく、「クレド」の作成では社員全員で作る、という記事や書籍を目にします。
    これ自体を否定するものではありませんし、「愛社精神を育む」、「どうしたらミッション・ビジョンに近づくかという視点を全員で考える」ということ自体はとても意義のあることです。

    また、幹部が作るときは経営者がチェック機能を果たしますが、社員全員で作る場合は幹部がチェック機能を果たすことになります(もちろん最後は経営者です)ので、幹部の育成にもつながります。

    一方で、理念の浸透度合いが低い場合には会社が全く違う方向に進んでしまう恐れもあるため、特に中小企業においては慎重に検討したいところです。
    少なくとも、この場合は「社員に任せっぱなし」にすることだけは避けて下さい。

    5 行動指針はどのように作る?

    ミッション・ビジョン、経営理念等上位概念に相当するものがある前提で解説します。
    そちらが無い場合は、そちらから作成することをお勧めします。

    5.1 行動指針の作成の流れ

    行動指針は大きく3つの流れで考えるとよいです。

    ①    候補を考える
    ・残すべき行動:今行っている行動でミッション・ビジョン等と照らし合わせて残すべき行
    動は何か?
    ・変えるべき行動:今行っている行動でミッション・ビジョン等と照らし合わせて変えるべ
    き行動は何か?

    この時に次のような問いも有効です。
     ・あなたの組織における「最高の体験」は何ですか?
     ・その際にどのような行動をしましたか?
     ・その行動を選んだのは、どんなことを大事にしているからでしょうか?
     ・過去の経験で許せなかったことは何か?
     ・反対を押し切ってでもこだわったことは何か?

     ダイヤモンド社 佐宗邦威 著 「理念経営2.0」より引用

     

    ②    選ぶ
    ・理想的な行動:変えるべき行動を理想的な行動に置き換えるとどのような行動になる
    か?
    ・未来につながる行動:残すべき行動と理想的な行動の中で、未来につながる行動は何か?

    ③    言語化する
    残った言葉・行動を3つから5つにしぼり、2章の事例のように自分たちらしい言い回しに変えます。

    作成時の注意点としては、自分たちの社風と全く違う、例えば「革新」などの望ましい価値・行動を突然あげてしまうと、形だけになってしまう可能性がありますので気を付けてください。

    また、③の言語化については、事例のようにきれいにまとまることが理想ではありますが、そこに捉われすぎることも禁物です。
    大事なことは、きれいな言葉を作ることではなく、ミッション・ビジョンにつながる行動を考え、「行動」することです。
    そのために、覚えやすい表現だと尚よい、ということです。

    ※この他、特に経営者自身が作成される場合はこちらの記事も参考にしてください。
     バリューとは? バリューを導き出す24の質問

    5.2 行動指針の作成のポイント

    行動指針は2章で見た通り、お客様やステークホルダーが見た際にその企業のことがイメージできることがポイントですが、具体的な行動指針作成のポイントは3つです。

    ①    できるだけ短く(簡単に)
    ②    具体的に(明確に)
    ③    覚えやすく

    また、作成した後のチェックポイントとして、例えば「モノを大切にする」という行動指針があったとします
    その場合、モノを大切にしたらミッション・ビジョン、使命感・理念の達成に近づくのだろうか?という観点でチェックしていただくこともポイントです。

     
    この行動はミッション・ビジョンにつながっている?

    追加2

    モノを大切にすること自体はとても大切なことですが、「行動指針」として設定するかどうか、ということです。


    ミッション・ビジョンに近づかない場合は入れるのであれば、フィロソフィーの中に入れた方がよいかもしれません。

    6 行動指針の活用方法5選

    5章で説明した通り、あくまでミッション・ビジョン、使命感や経営理念の達成に向けて作るものになりますので、そこを意識することが前提です。

    6.1 日常会話や部下の指導で使う

    働いている中で、部下に「その行動は行動指針に則っている?」とストレートに聞くこともよいですし、判断に迷ったときや部下を指導する際に「行動指針に照らし合わせるとどう?」等という質問をすることによって相手も考えるようになり、行動の改善につながります。

    6.2 会議や朝礼でディスカッションする

    会議や朝礼でアウトプットすることも有効です。
    例えば、オリエンタルランドの

    【Courtesy(礼儀正しさ)】
    “すべてのゲストがVIP”との理念に基づき、言葉づかいや対応が丁寧なことはもちろん、

     

    相手の立場にたった、親しみやすく、心をこめたおもてなしをすること。
    という行動指針に対して、

    Q 相手の立場に立った、親しみやすく、心を込めたおもてなしとは具体的にどういうこと?
    Q 最近このような行動をしたか? 

     

    等という内容でアウトプット、ディスカッションすることによって、より刷り込まれていきます。
    古田土会計でも「金太郎飴朝礼」と称して同様の取組を行っています。
    最後は役職者から簡単に補足や解説をして終わることにより、より理解が深まります。

    6.3 評価制度に組み込み行動指針に則った行動ができているかチェックする

    行動指針そのものを評価制度に組み込むことで、社員はより意識するとともに、出来ているか否かが客観的に確認できます。
    具体的には、評価制度においてコンピテンシー評価ですとかプロセス評価と呼ばれる部分に適用します。
    コンピテンシーは本来「高いパフォーマンスを発揮する人物に共通して見られる「行動特性」を指し、その行動特性を評価に組み込むことによって他の社員も高いパフォーマンスを発揮させようとするものですが、この部分を活用して行動指針の項目を入れてみてもよいです。もちろん、高いパフォーマンスを発揮=行動指針に則っている、つまりコンピテンシーと重なっていることがベストです。

    古田土会計では過去以下のように設定しました。
    一つの項目に対して、80%の状態から120%の状態を言語化することがポイントです。
    ※100%の状態を普通として設定します。

    具体的な活用方法としては、まず本人が80%~120%の状態のどこに位置しているのかを自己評価します。その上で上司が評価を実施し、食い違いをフィードバックすることによって理想的な行動へ近づけていきます。
    例えば、自己評価では100%の状態、上司評価では90%の状態だった場合に「〇〇さんの~~という行動が不足しているから今は90%の状態ですね。今後~~~していくと100%になりますね。」等といったフィードバックです。
     

    6.4 表彰する

    例えば、オリエンタルランドでは、「マジカルディズニーキャスト」という制度があり、キャスト同士が日々の素晴らしい行動に対してメッセージを送る、ということを行っています。

    古田土会計では、年に1回、古田土甲子園というイベントを実施して理念に則った行動を発表します。そして、優秀者を表彰しています。
    その他、月間MVPやLVP(役職者が選ぶMVP)という精度を通じて浸透を図っています。

    参考:ミッション・ビジョン・バリューを浸透させる秘訣

    6.5 MVVに近づいているか常に確認する

    繰り返しになりますが、行動指針の行動がミッション・ビジョン、使命感・経営理念に近づいているのかを定期的に確認し、必要に応じて見直すことです。
    例えば、年に1回経営計画書を作成する際に見直す、というように時期を決めておくとよいと思います。

    7 まとめ

    ここまで、行動指針について解説してきました。
    行動指針は1回作成したから5年、10年と使い続けなければいけないものではありません。
    もちろん、毎年全く違うものを作成するものでもありませんが、必要に応じてブラシュアップしてみてください。その過程でさえもミッション、理念の浸透や作成者(幹部・社員)の成長につながります。

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