人員計画とは
事業計画における人員計画とは、企業の目標を達成するための人員配置や採用活動の計画のことをいいます。企業の経営資源としては、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が重要とされています。そのなかでも人員計画は「ヒト」に関する計画です。
各従業員の能力を十分に理解した上で、適材適所に配置することが求められます。また、新規で事業をおこなう場合は人員不足となる可能性があります。その場合は、採用活動をおこない、有力な人材を探し、人員を補充していきます。10年後、20年後に、企業をどのように成長させていきたいかを見据えて、最適な計画を立てていきましょう。
人員計画と併せて理解しておきたい2つの計画とは
人員計画とあわせて、「要員計画」「採用計画」という2つの計画があります。人員計画と同じように使われることが多いですが、要員計画と採用計画とは厳密には異なるものです。2つの計画について詳しく解説していきます。
①要員計画
まずは、「要員計画」についてです。要員計画とは、事業計画をもとに「事業を進めていくにはどのような人材が何人必要か」ということを検討していく計画です。
人員計画は部署などの小さい単位で「この部署に必要な人材のタイプは何か」「誰をどのポジションに配置するか」といった具体的な人材配置を検討することを指すので、厳密には少し違うものになります。要員計画の流れは下記の通りです。
(1)現状を把握する(2)各部署のニーズを調査し、何人必要かを集計する
(3)組織内のニーズを調査し、何人必要かを集計する
(4)指標による人員調査を検証する
(5)求人の倍率や新卒の内定状況を検証する
(6)必要人数を確定し、スケジュールを設定する
(7)要員計画を策定する
(8)要員計画を運用する
②採用計画
次は、「採用計画」についてです。採用計画は、経営計画や事業計画をもとに人材の採用を検討するもので、要員計画の一つの要素になります。採用計画は、「事業計画を遂行するための必要人数は何人で何人を採用すべきなのか」「事業収益と照らし合わせた結果、何人採用すべきか」などの視点で計画を立てることで、無駄のない合理的な採用計画を立てることができます。
人員計画を立てる目的とは
それでは、人員計画を立てる目的とは何でしょうか。大きな目的は2点あります。
①組織におけるパフォーマンスを向上させるため
②適切な人材配置をおこなうため
上記2点について詳しく解説していきます。
組織におけるパフォーマンスを向上させるため
人員計画を立てる一つ目の目的は、「組織におけるパフォーマンスを向上させるため」です。人員計画をしっかり立てることにより、従業員一人ひとりが適切な場所で働くことができ、従業員の成長が見込めます。従業員が成長できることで、組織におけるパフォーマンスも向上します。また、中長期的な視点で人員計画を立てることで、無駄な人件費を圧縮することができ、必要な採用や人材育成のために経費を使うことができるようになります。
適切な人材配置をおこなうため
人員計画を立てる二つ目の目的は、「適切な人材配置をおこなうため」です。従業員の能力やポテンシャルにあわせて適切な人材配置をおこなうことで、組織としての力を有効活用でき、目標達成に向けて進みやすくなります。また、合わない場所に配置してしまうと、せっかく時間やお金をかけて採用した従業員の離職にもつながりやすくなってしまいます。
現在の日本では、人口の減少が見られており、新たに優秀な人材を探すこと、そして優秀な人材を確保してできるだけ長く働いてもらうことが難しい状況になりつつあります。一人ひとりの従業員に気持ちよく作業してもらうためにも、人員計画をしっかり立て、適切な人員配置をおこないましょう。
人員計画を立てる際の流れ
ここからは人員計画を立てる流れを解説していきます。人員計画は下記の流れで作成していきます。
①現状把握
②要員調査の実施
③採用計画の立案
④要員のギャップを解消
現状把握
まずは、「現状把握」です。現状を知るということは最も大切な作業です。企業全体の課題だけでなく、各部門や各部署で何が問題となっていて、何が求められているのかという点も把握しておきましょう。現状把握では、組織図を作成してみると会社全体の状況が見やすくなります。
また、大切なことは現場の声をしっかり聞いておくことです。各部門・部署の責任者と面談をし「どのようなスキルをもった人材が欲しいのか」「欠員がでていないか」などを丁寧に調査していきます。
要員調査の実施
次におこなうことは、「要員調査の実施」です。要員調査とは2種類あり、各部署におけるニーズの調査と、組織全体におけるニーズの調査があります。各部署におけるニーズは、職務別、部門別、階層別に必要な人員を検討し、業務量もふまえて、適正な人員数を調べます。
組織全体におけるニーズを調査するためには、人件費や採算の面から、どのくらいの人員数であれば利益が出るのかを検討していきます。一般的には売上高、付加価値率、損益分岐点、人件費率、労働分配率などの指標から調査していきます。
採用計画の立案
次におこなうことは、「採用計画の立案」です。必要な人員数が決まったら、人員を採用していく計画を立てます。求人倍率や新卒者の内定状況などの労働市場の動きもしっかり確認しながら、どのような流れで採用していくか、新卒採用か中途採用か、契約形態はどうするかなどの計画を立てていきます。
要員のギャップを解消
最後におこなうことは「要員のギャップを解消」することです。人員計画を立てたら、運用していきます。中長期的に見て、人材育成や人材の定着を図るための施策や業務の改善、人材を管理するシステムの構築をし、要員のギャップを解消していきます。人員計画を立てる際、事業計画とズレが生じていないかも常に状況を確認し、現場単位で見直しをしていくようにしましょう。
要員調査には2つの方法がある
前述した通り、要員調査には2つの方法があります。各部署におけるニーズの調査をボトムアップ方式といい、組織全体におけるニーズの調査をトップダウン方式といいます。
①ボトムアップ方式
まずは、「ボトムアップ方式」を紹介します。ボトムアップ方式とは、要員計画をミクロ的手法で考えていく手法のことです。ボトムアップ方式をとる場合は、課から部、部から事業本体という流れで、必要な人員を検討していきます。この方式では、業務を円滑に遂行していくために、人員の最適なラインはどこにあるのかを探っていく必要があります。
総業務量を確認し、一人あたりの標準的な業務量と労働時間を掛け合わせて算出していきます。しかし、この方式だけで人員数を割り出そうとすると人員数が膨れ上がり、無駄な人件費を支払うことになりかねませんので、注意しましょう。
②トップダウン方式
次に紹介するのは、「トップダウン方式」です。この方式は、マクロ的な手法で要員計画を考えていきます。事業計画や利益計画から、人件費を算出し、どのくらいのラインが総人件費として妥当かを決めます。「年間売上高」に「付加価値率」と「労働分配率」を掛け合わせて、一人あたりの人件費を算出し、目標とする「売上高」に対して、人件費率を掛けて、一人あたりの人件費で割ることで計算ができます。
人員計画を効果的に進めるポイント
人員計画を効率的に進めるためのポイントは2点あります。それぞれ解説していきます。
①Excelの活用
②ツールの活用
Excelの活用
人員計画を効果的に進めるポイントの一つ目は、「Excelの活用」です。Excelでは、「プロジェクト名」「プロジェクトの想定工数」「現在の人員による工数」「現状の工数の過不足」「必要となるスキルや技術」「その他・備考」という項目を設定し、プロジェクトごとに必要なデータを入力していきます。
Excelで管理することによって、課題を客観的に把握することもでき、必要なメンバーで情報を共有することもできます。WEBにはサンプルとなるテンプレートをアップしているサイトもあるので、ぜひ参考にしてみましょう。
ツールの活用
人員計画を効果的に進めるポイントの二つ目は、「ツールの活用」です。人員計画の課題が複数の部署にまたがる場合、Excelでの管理では煩雑になってしまうので、その場合は人員計画システムを活用する方が効率的です。人員計画システムでは、従業員の情報を事前に登録しておくことで、適材適所への人員配置や、人材の過不足などもリアルタイムに確認することができます。また、勤怠管理システムとも連携することができるものもあり、残業の管理などもあわせておこなうことができます。
人員計画策定時の注意点
人員計画策定時の注意点は5つあります。
①計画は実現性を重視する
②人材コストは広い視野で考える
③要員計画との差を把握する
④採用や異動などによる補完も考慮する
⑤要員計画はなるべく変更しない
計画は実現性を重視する
人員計画策定時の一つ目の注意点は、「計画は実現性を重視する」という点です。人員計画は事業計画に基づいて策定されるので、総人件費の枠が決まっているならば、いくらそれ以上に人員を増やしたいと思っても実現性はありません。また、現場からの要望をすべて入れると実現不可能になる懸念があるので、現場からの意見だけでなく、しっかり計算し、根拠のある人員数を求めておきましょう。
人材コストは広い視野で考える
人員計画策定時の二つ目の注意点は、「人材コストは広い視野で考える」です。人件費は企業の資産として大切な「ヒト」を維持するために大切な経費です。
人件費が上がっても、売上や利益も増加しているのであれば特別問題はありません。そのため、労働分配率(企業の売上総利益のうち、人件費がどれくらい割り当てられているのか)を考慮するようにしましょう。人員を増やすと人件費は増加しますが、その時に労働分配率が増えていなければ、何ら問題はありません。
要員計画との差を把握する
人員計画策定時の三つ目の注意点は、「要員計画との差を把握する」という点です。要員計画と要員実績の差を調査する際、月ごと・部門ごとにわけて管理していくようにしましょう。そうすることで、部門ごとに月次要員比率を算出することができます。
月次要員比率から年度内での要員増減や過不足を想定し、対応する可能性があれば採用計画を実施していきます。計画と実績の差が大きい状態で事業を進めていくと、事業計画の達成が困難になってきます。そのため、早めに差を把握し対応策を練るようにします。
採用や異動などによる補完も考慮する
人員計画策定時の四つ目の注意点は、「採用や異動などによる補完も考慮する」という点です。人員計画は人員数に応じて、人材配置を検討していきます。単に不足しているところに人をはめ込むのではなく、従業員ごとのスキルや適性などを考えなくてはなりません。
適正を考えて配置したとしても、配置に不安を持って辞めてしまったり、介護や育児で休まざるを得ない人が出てきたりする可能性も想定できます。問題が生じたから計画し直すのではなく、採用や異動も考慮して、変更に対して柔軟に対応していくようにしましょう。
要員計画はなるべく変更しない
人員計画策定時の五つ目の注意点は、「要員計画はなるべく変更しない」という点です。要員計画通りに管理したが思うようにいかないということは多々あります。その際、「要員計画を変更し、軌道修正して行けばよい」と考えるのは軽率です。
要員計画は事業計画に基づいて考えられた計画なので、要員計画が上手くいかないということは事業計画そのものを再考する必要がある可能性があります。要員計画を修正するだけでは根本的な解決にはならないので、上手くいかない時は計画と実績のギャップを調査し調整していくようにしましょう。
まとめ 人員計画は事業計画を支える重要な計画の1つ
人員計画は事業計画を達成するために重要な計画の一つです。経営方針や事業計画などと整合性を保ちながら、人件費や労働分配率を考慮して計画を立てるようにしましょう。また、作成する際は中長期的な視点をもち、現場の声も幅広く聞いてみることが大切になります。
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