ダイバーシティ経営は、組織内で異なるバックグラウンドや特性を持つ個々のメンバーを認識し、尊重し、活用することを目指す経営のアプローチです。これは主に、性別、人種、民族性、年齢、障害、性的指向、宗教、国籍などの様々な要素に基づく多様性を含む概念です。
一方で、女性活躍=ダイバーシティ経営のようにより小さい概念で捉えられているケースもあると思います。
そこで今回は、「ダイバーシティ経営とは?」ということに焦点を当てて解説していきます。
1.ダイバーシティ経営とは?
1.1 ダイバーシティ経営の定義
ダイバーシティ経営について、経済産業省では、以下の通り定義されています。
多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営
※「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。
※「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。 ※「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営のことです。 |
経済産業省 HPより引用
世の中の多くは、ダイバーシティ=女性の活躍、という認識が多いように見受けられますが、定義の通り、性別だけではなく国籍・障がい者、目に見えない信条・価値観なども含めた様々な人材を対象としています。
また、「ダイバーシティ経営」なので、多様な人材を受け入れるだけでなく生産性向上等の成果に結びつけることがポイントとなります。
1.2 ダイバーシティ経営が進んできた背景
ダイバーシティの考え方自体はアメリカから始まりました。
1960年代~70年代
アメリカで人種差別や女性差別の解消の動きが活発化し、賠償リスクの軽減も含めてダイバーシティが受け入れられ始める。
1980年代~90年代
アメリカ企業の社会的責任として定着
日本では男女雇用機会均等法が制定され、ダイバーシティの動きが出始める。
1990年代後半~
多様性を受け入れることが組織にとってもプラスに働き、競争優位につながるという認識が広がる。
2000年代~
日本でも本格的に広がり始める。
日本においても、グローバリゼーションの進展や少子高齢化が主な背景となり、少子高齢化により労働力人口の減少が進むと、女性や障がい者、外国人等の多様な人材を採用しなければ、自ずと労働力の確保が困難になってきます。
そして、企業の成長においては、海外向けの商品・サービスの展開を検討する必要性も高まってきています。このようなことを背景に、「ダイバーシティ&インクルージョン」に取り組むことが必須となってきています。
※「インクルージョン」には包括という意味があり、「従業員がお互いを認め合いながら一体化を目指していく」という組織のあり方を示しています。
2.ダイバーシティ経営の事例
経済産業省のHPにおいて、「新・ダイバーシティ経営企業100選」のベストプラクティス集が掲載されています。
詳しくはそちらをご覧いただければと思いますが、ここでは大企業と中小企業の各1社の概要をプラクティス集から抜粋させて頂きます。
日本ユニシス株式会社
女性の取締役の選任をはじめとした女性活躍の土台作りや介護セミナー等の取り組みから始まり、中期経営計画での打ち出し、評価制度への組込み、風土改革等組織としての取組が拡大してきています。
大橋運輸株式会社
女性や外国人の採用及び登用、障がい者雇用など多様な人材の活躍が特徴であり、更に中期計画ではありませんが、ダイバーシティポリシーとして明確に打ち出している点も特徴的です。
何れの企業も「多様な人材の活用」だけでなく、1章の定義にあるように売上等の成果に結びついている点がポイントです。
また、「中期計画」「ポリシー」等名称は異なりますが明確に打ち出している点も特筆すべき点と言えます。
3.古田土会計グループのダイバーシティ経営
3.1 ダイバーシティ経営取組の背景
古田土会計グループも10年以上前から色々な角度でダイバーシティ経営に取り組んできました。
当時の問題点及び課題は以下の通りとなっていました。
問題
1 会計事務所業界は季節変動の大きい業務内容で繁忙期にあわせた人員体制がとれず、慢性的な長時間労働となっていた。2 また新たな環境で経験を積むことを希望して同業界内で転職を繰り返し、人が定着しない。 |
課題
1 長時間労働の削減
2 未経験者・女性の活用 |
また、別の観点から見た背景です。
古田土会計グループの経営理念の1つは、「社員の幸せを追求し人間性を高める」であり、経営で一番重視していることは顧客満足や利益追求ではなく、社員の幸せです。
弊社では300ページに及ぶ「経営計画書」を基に経営をしています。そしてそこには「人が幸せになるために会社がある」「企業の目的は働いてくれる人を幸せにすること」「家族のために社員が早く帰れる会社にする」「80歳まで勤務可能」「障がい者雇用に取り組み、法定雇用率の200%を目指す」など明記されており、まさに、経営計画書の実践=ダイバーシティ経営とも言えます。
具体的な取り組みは次節でご紹介します。
3.2 ダイバーシティ経営の取組と変遷
3.1の課題を解決するために取り組んできた内容をご紹介します。
- ① 計画策定・推進体制の構築
経営計画書
経営の最重要課題として「残業時間の削減」を掲げて全社員に優先順位を明確にし、時短3年計画(2013年~2015年)のロードマップを示しました。
また、「採用・教育に関する方針」、「ワークライフバランスに関する方針」「社員に関する方針」を打ち出し全社員に徹底しました。
体制
時短プロジェクト、採用プロジェクト、教育プロジェクトを発足させました。
2013年から半期ごとに全社員の帰社時間を30分ずつ早めていくもので、22時半からスタートし、2015年の12月までに20時を最大の残業可能時間としました。
システム
戦略システム課による業務のシステム化、クラウド化を進めました。
平成26年にはこれらの長時間労働、採用、教育改善に関する計画的な取り組みは東京都が年間3社だけ選ぶ「課題解決型雇用環境整備事業」に一般会社として唯一選ばれました。
- ② 人事制度
社員Bコースの創設
通常の社員を社員Aコースとし、所定労働時間・残業時間の短いコースを作りました。業務内容では
区別せず、あくまで労働時間による区別であり、主に女性が働きやすい環境を作るための制度です。
社員Sコースの創設
パート社員から社員A・Bになるにはハードルが高いと感じる方が多いため、正社員とパート社員の間にステップアップとしてSコースを設けました。
障がい者雇用の推進
障がい者雇用及び業務管理をを中心に行うサポート課を創設し、就労支援機関等にも協力していただきながら障がい者雇用を推進しました。
- ③ 勤務環境
IT化・システム化・クラウド化
GoogleApps、サイボウズ、チャットワークの導入、自社基幹システムへの投資、セキュリティ対策にも取り組みました。
結果、経済産業省の「攻めのIT経営中小企業100選」に選出して頂くことができました。
その後、サイボウズはkintoneへ移行し、人事制度はカオナビへ移行する等間接業務の合理化(DX)を推進。
労働時間管理もシステム化し、PCの立上げとシャットダウンで自動的に時間管理を実施しています。
テレワークの推進
コロナを機にテレワークの環境も整備しました(モバイルPCの配布・モニターの購入など)。それに伴い、フレックスタイム制の導入(現在は時差出勤制度)。
支店展開とシェアオフィスの導入
支店は大阪・横浜・仙台に設置
シェアオフィスは首都圏を中心に駅チカにあるシェアオフィスと契約し、15分単位で使えるようになったことで移動時間の削減や業務効率が上昇
- ④ 社員の意識改革・能力開発
人材(採用)だけではなく、社内での研修や、掃除・挨拶・朝礼といった3つの文化での土壌作り、能力開発、教育等を通じて生産性の向上などの成果につながっています。
管理職への情報公開
長時間労働に対しては、係長以上の役職者に対しては毎月①各人の全労働時間と②残業手当金額を公開し、部下が効率的な仕事ができているかを共有、コスト意識も持たせるようにしました。
社員への情報公開
経営計画書に「人的資本経営」と題して各種指標を掲載しています。
部長による面談
長時間労働者については、毎月直属の上司と部長で面談し、改善策を検討・実施まで後追いしました。
ノウハウの共有
「できる個人」に帰属していた時短のノウハウをまとめグループウェアで公開し、共有しています。
教育体制の整備
社員の教育に特化した教育チームを作り、教育の標準化・短期化を推進しています。
パート社員はステップアップシートを作成しキャリアアップを見える化しました。
古田土会計がダイバーシティ経営100選に選出された際のベストプラクティスの記事
4.ダイバーシティ経営に取り組むための方法とツール
4.1 国・公的機関のツールの使用(診断ツール)
まずは、ここまで何度か出させて頂いていますが、経済産業省のHPにも診断シート等のツールが整備されています。
ダイバーシティ経営に取り組み際のポイント・項目が網羅されていますので、まずは自社がどのくらいの立ち位置にいるのか、何をしなければよいのかを把握するためにはおすすめです。
この項目のように、また、これまでの事例や定義でも分かる通り「多様な人材の活用」はもちろん、能力開発や成果に結びつけることが大きなポイントとなります。
4.2 経営計画書の作成
事例にあげた2社でも計画を明確に打ち出しています。
ここでいう経営計画書はダイバーシティ経営に関する計画ではなく、会社の経営全般に関する計画ですが、その中に会社としての方針や取組を明記することをお勧めします。
その際に、「ダイバーシティ」という名称を使わなくても、同様の内容であれば問題ありません。
古田土会計グループでは、「人を大切にする経営計画書」を作成し、経営方針、社員の未来像、組織の未来像、社員に関する方針、内部体制に関する方針等いたるところにダイバーシティに関する内容を記載しています。ただし、「ダイバーシティ」という言葉そのものは記載されていません。
それでも、多くの賞を受賞できたのはその取り組みが認められたからだと思います。
※参考 毎年1,000社超の企業に指導してきた経営計画書の書き方
5.まとめ
以上、今回はダイバーシティ経営について解説してきました。
人手不足は益々申告になり、性別・国籍・年齢等に捉われない、多様性を如何に受容するかが今後の企業の成長には重要なポイントとなります。
まずは自社で方針を決めることがスタートであり、その後は試行錯誤、という部分もあります。是非前向きに取り組んでみてください。
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